第6話:どのワラをつかむ?👈👉👆👇

「ユーリアちゃん。レオナルド公子様はただいま外出中だと、お使いしてくれた隣のおじいさんが言っていて。夜までには帰って来ると言っているそうよ」


 シスターが戦略概要報告をしてくださっている。


 ヤヴァい、ツヴァい!

 この時期を見計らって接触してきたか、このフッガー、いやフッガール商会の親玉。

 一人で大物商売人との交渉にトライしないといけないのか!?


「や、やはり大人の方が同席していた方が、いいかなぁ~、なんて……」


 さっきから『商談の開始』という脅迫を受けているユーリア六歳です。

 シスターも理由をつけて追い出されましたよ。


「いえいえ。そんなに大したお話ではないのですよ。ちょっとユーリアちゃんのお知恵を拝借したいと思いましてな」


 この人、私が今回の商売の首謀者と確信しているね。

 まあ仕方ないよね。シュピーゲルさんには隠しようがない。


「では……、クレイパックの話ではないと?」

「さすがはユーリアちゃん。いえ、「さん」ですかな。それともユーリア嬢?」


 目力がパないです。

 美クールアイ並みのビームが出ている。


「ですから大公国とはまた別のお話なのですじゃ」


 これは別の商売を持ちかけて来ているのか、やっぱり。


「では、私ができる事ならいかようにも。できること、しかもお金儲けになる事ならお話は伺いましょう」


 私が金儲けするとは一言もいっていない。

 そして大公国の為とも言っていない。

 どうとでも取れる発言。


 言質は取らせないぞ。

 そして情報を引き出す!


「ほう。やはりその表情。幼さの外見に惑わされてはいけませんな。参りました」


 ちっとも参っていない顔でお世辞。


「ユーリア嬢も知っておられましょう。ローゼンフルト帝国とフラマン王国の不仲。そろそろ戦争になるかと」

「ええ」

「それがなぜか、最近和解の方向に舵を切りまして。理由を探らせました」


 ぎくっ。

 ひょ、表情筋よ。

 静まれぃ!!


「誰かが動いた形跡があります。でもその仲介者が誰かは、この際問題ではありません」

「というと?」

「時期の問題です。開戦となるかです。これがわかれば大分商人としては助かる」


 そう言う事ね。


 もう私が小細工をしたということは目星がついている。

 でもその内容までは知らない。

 だから聞きに来た。


 腹割って、話し合おうと。

 いい度胸じゃないの。

 その勝負、乗った。


「フッガールの商会長様、お名前はたしか……」

「アントンと申します。レディー」


 アーントンか。

 確かそんなのがいた気もする。


「ではアントンさまは、銀をメインとした商売をなされているとか?」


「そうですな。やはりよくご存じですな」


 そりゃ、フッガーのことは経済学部で勉強しますよ。

 ヨーロッパの通貨は大航海時代が始まるまで、銀本位制だった。

 その利益を得て巨大化したのがフッガー。


 その大航海時代でスパイス利権を手に入れて、莫大な利益を得たのはいいけど、新大陸から大量の銀が流入、自分の収入基盤である銀本位制をぶっ壊してしまった。


 このことからイギリス・フランスを中心とした、金本位制が段々と勢力を広げていった。

 この異世界でも大体そんなことかな?

 ちょっと時代が錯綜してるけど。


「ということは、これからも銀本位制で行くと?」


「そこが思案のしどころなのですじゃ。フラマンが勝てば金本位制に。ローゼンフルト帝国が勝てば銀本位制を支えるような仕組みを考えねば。

 しかしそれがわからないのですじゃ」


 ローゼンフルト帝国はまだ銀本位制にしがみついているということ?

 この人もローゼンフルト帝国の庇護下に入っている御用商人。


 かじ取りが大変だねぇ。


 ですが、なんでそれを私に?


「ぷんぷん、におうのですよ。ユーリア嬢、あなたからその未来のにおいが」


 金のにおいをかぎ分ける大商売人め!

 そうやすやすと知識はあげませんよ!


 だいたい異世界が完全に地球の歴史と同じではないことは明白。

 もし間違ったら責任取らされる。

 それだけは勘弁。


「そうですの? 

 あ~、そうですわね。たま~に女神さまのお使いの方が夢の中でいらっしゃいます」


 あのぽわぽわ女神のせいにして、知識が間違っていても「私のせいじゃないです! みんな女神が悪いんです!」と言い逃れしよう。


「おお。そうですか! やはり。六歳にしてその見識。女神さまの助力のお蔭ですか」


「そう言う事です。ですから女神さまのご意向に沿ったことしかできません」


 これだ。

 これでやりたくないことは突っぱねる理由付けができた。

 QED.


「では最初の質問なのですが『開戦はいつに決定?』」


 げげっ。

 完全に私が陰謀したことに確信を持ってる。


 もう開き直るか?


「はい。決定しました」


「ではそれをお教えいただければ、フッガールはこの大公国の経済を支えることもできましょう。

 それともユーリア嬢の未来のために最大限の資金と人脈をご提供いたしましょうか?」


 つまり私を取り込みに来たと。

 遂に、教員やめさせられた後、万年ハケンの私にもヘッドハンティングが!

 ロリハンティングではない、と思ふ。


 ここで私がOKと言ったら、きっと大公国にいられなくしてフッガールの社員としてブラック労働。


 ここは大公国からハケンしてもらって向こうで働いて、こっちに仕送り。


 無理だね。

 双方からの信頼がなくなる。


 この世は信頼第一。信頼なくしたらおしまい。


『由利ちゃん。信用というものはそうやすやすと作れるものでは無い。一度なくしてしまった信用は元に戻らないと思いなさい』


 営業の江藤さんのご指導感謝。

 取引先だけじゃなく銀行も信用なくしたら取り付け騒ぎにな……


 あ。


 ぴこ~ん!


 この時代はまだ教会勢力、強いよね?

 信頼度抜群。

 その事はこの教会に住まわせてもらってわかっている。

 これをアンダーカバー、隠れみのにしていろいろと策謀しよう。


 ごめんなさい、清川先生。

 陰謀、謀略の現実世界は厳しかったです。


 ユーリアは見つからないように策謀します。


 すでに、バリバリに謀略していることを自覚していない可哀そうな子であった。



「では、その両方を望みます。

 この大公国に女神さまの神殿を作ってください。そこから世界へ女神さまの御意向(ご威光ではない)を広めていこうと思います」


 さすがのフッガール商会長も、この急な申し出に目を白黒。

 俗物と思って私に接触してきたけど、急に信心深いこと言い出してやったぜぃ。


 ついでにこっちの神の印を胸の前で結ぶ。かっこだけだけど。


「は。ではフッガールが大儲けいたしましたら、教会をお建てしましょう。それで開戦はいつに。その時に負ける国がわかれば国債の暴落で多額の利益が出ますぞ」


 ナポレオン戦争時代の、ロスチャイルドの真似だね。


 私が答えようとした時、急に目の前が真っ白になった。

 女神空間だっ!


【やぁだ。由利ちゃん、そんな殊勝なことをしてくれるの? 女神ちゃん、うれしいわぁ~】


 目の前にぽわぽわ女神がいた。

 となりには私、じゃないユーリアちゃん(輪っかと羽根つき)。


【ねぇねぇ。最近、暇なのよねぇ。一緒に遊ぼ~♪】


 えええ~~い!

 話をややこしくするんじゃない!

 この胸でか女神!


 これはどのワラをつかむかで未来が決まっちゃう。

 選択肢、多すぎだよ。

「ど・れ・に・し・よ・う・か・な」

 で決めちゃじゃだめ?

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