第4話:勝手にしやがれ (À bout de souffle)・マガイモノ03

「リディアちゃん!!リディアちゃん!!ど、どうすれば……」


 ママも仰天して慌てふためくばかり。ショットガンをぶっ放すぐらいの勇気を絞り出すのは普通の人間には一回限りだったっていうわけだ。


 もうアタシはあの忌々しい手から逃げ出したくて逃げ出したくて、でも、どうすることもできなくて、胸の動悸だけがひどくなって……それからのことはよく覚えていない。ただ、気がついたときには、ママとアタシは秘匿要塞国デリリアムの騎士団長室の床で寝転んでいた。


「貴様ら!!どこの回し者だ!!子供までスパイに使うなど何たる卑劣千万!!」


 出勤してきた騎士団長に殺されかけたけど、ママが必死の説得をしてくれてなんとか命からがら処刑されずに済んだわけだ。あの片田舎ウルズベルグからは到底一晩で移動できるような距離ではないし、そもそも秘匿要塞国デリリアム自体、旅人が訪れたりできるようなところではない。


 それはテレポートの能力が覚醒した瞬間だった。案外、ニルヴァーナ能力のことはすんなり受け入れられたんだけど、どうしても疑問なのは、父さんの変貌だった。自分の名前を忘れたり、お兄ちゃんだと主張したり、意味不明なことを並べていた。その中でも一番わからないのは『パパのほう担当だったんだ!!』という言葉だった。


 しかし、探偵くんの秘書さんの件でアタシは昔の不可解な出来事の真相が今やっとわかった。


「……マガイモノ…………」

 

 それがあの呪われた日の真相――いや、ちょっと待って……じゃあ、カムイはこの事実を知っていたからアタシたちを連れて敵のところへ戻ってきたの!?だって、あの秘書さんのマガイモノはどう見ても下っ端の雑魚なのに、わざわざ戻る理由がわかんなかったもん。その上、戻ったとしてもリスクはあっても得られるものは決して大きくないはず……


「はっは。さてな……まぁ、サル顔の嫌な奴は雑魚いじめて憂さ晴らしに来ただけかもな?」

「……ありがとう……馬鹿ムイ」



――つづく――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る