第4話:勝手にしやがれ (À bout de souffle)・マガイモノ02

「ヤチコちゃん、じっと俺の顔見つめたりして何だよ?本気にしちゃうぜ?」

「馬鹿ムイの顔面白いなって思っただけだぞ?」 

「サル顔がそんなに面白いかよ!とにかく、探偵レーヴ君の秘書さんがどこから襲ってくるかわからんから警戒しておけ。妙に静かすぎる」


 彼は照れくさいときにはすぐからかってくる。そんなカムイと探偵くんの話を聞いていたら、なるほど、確かにカムイはすごく変わっているのかも知れない。探偵くん曰く『一度逃げ切ったのに敵のところへわざわざ戻るバカはそうはいない』らしいのだ。別に盗み聞きする趣味なんてないけど、聞こえてきたからには仕方がない。


 彼らの会話を聞いてるうちに昔のことを思い出した。どうやら、アタシは昔自分に起きた不可解な出来事の真相がいまわかったかも知れない。


 当時10歳だったアタシは片田舎ウルズベルグのごく一般的な温かい家庭で育っていた。両親は夫婦喧嘩するときもあったが、それは愛あってのことだったし、どんな逆境が立ちはだかろうとも支え合って一緒に一歩ずつ進んでいくような素敵な夫婦だった。


 あの呪われた日が訪れるまでは……


「ああ、君がリディアちゃんか。かわいい名前だね。当のボクの名前はど忘れしたけど……まぁいいか、リディアちゃん、脱ぎなさい。お兄ちゃんの言う事は絶対だよ?」

「お父さん……なんかおかしいよ……」

「そうだったな、言われてみれば、ボクはこいつのお兄ちゃんじゃなくて、パパのほう担当だったんだ!!ちょっとミスったな。とにかく、脱いだら?」

「ママ!!た、たすけ――」


 頭がおかしくなった父さんのことが怖くなったアタシは叫び声を上げようとしたが……それよりも一足早く爆音が鳴っては、目の前の男の顔が吹っ飛んでいた。


「…………」


 耳鳴りのせいで正常に思考が回らず固まっていたアタシを深く暖かく抱いてくれたのは、息を荒くしたママだった。今も覚えている。ママが慌ててショットガンを隠してアタシのことを抱いてくれたのを。


「て、手が……手が……」

「大丈夫!!大丈夫!!リディアちゃん、ママがいるから!!」

「ママ違うよ!!手がリディアの足に!!足に!!痛いよ痛いよ!!!」


 今にして思えば当然なことだ。この大地デウス;エデンは人間の永遠が約束されている。顔が吹っ飛んでも存在し続けられるのだ。ママがアタシを抱いてくれたのと同時にあの男の手がアタシの足を掴んだのだった。その力は凄まじく、どんどん食い込んできて、アタシは痛みで気が狂いそうになっていた。



――つづく――

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