第1話:永遠への扉にノックを (Knockin' on Eternal's Door)・放浪03

「――――こうやって終わりを目前にしている今こそ、クレイジーな事をやってみようじゃないか」


 強烈な日差しから俺のモノを守るのも重要だが――命あっての物種ではないか。そうだ!もうヤケだ!だから、とんでもないバカをやってみよう。こうして砂漠を歩くだけでは新しい可能性は何も生じない。『賽を振らぬことには始まらん』ってわけだ。クレイジーな事をやらかしてみるしかない。言わば、運命に対する乱数調整だ。


「あんた何をする気?巻き込まれるのはイヤだぞ?あたしは静かに終わりを受け入れるつもりさ」

「そんなことを豪語する奴に限ってうるさい。まぁそこで待ってろ、俺の生き様を刻んでくるからよ!!」


 そこまで言ったら、ヤチコちゃんをその場に残し、俺は道路から外れて砂漠のド真ん中まで爆走した。ちょうどいい広場だ。周囲に敵無し。サボテンはもちろん、小動物の一匹すら見当たらない。まっさらな更地だ。最高のステージが整った事を認め、その場で大の字になったところで、――俺は、おもむろにトランクスを脱ぎ捨てた。


「今日だけは自慢してやるぜ!!世界よ!大自然よ!俺のモノを見るがいい!!」


 声高らかに世界に向かって宣戦布告をしてみる。だが悲しいかな、世界は静寂に包まれたままだ。


 別に、『あはははー』と気恥ずかしい笑いをこぼしながら諦めたって誰かに責められやしないんだ。諦めてもいいんじゃないのか?この行為をキャンセルしたくなる気持ちが強まってくる。しかし、それをぐっと堪える。このクレイジーな乱数調整が俺たちの運命を変えるに違いない。


 強く信じれば、叶うはずだ!!


 そうだ!お気に入りの犬っころ絵トランクスまでも武装解除が済んだ容易い餌食を狙ってハゲワシはきっと現れる。そいつが俺というターゲットを狙って降りてくる隙きを上手く突けば、捕獲出来る。すなわち……ヤチコちゃんのキノタイプに貢げる物が得られるということだ!!それさえ叶えば、俺たちはこの砂漠から脱出できる!!工房街ドレッドノートは直ぐそこまで来ている!!


「おーい、カムイ・コトブキ――!!どこよ――――!!あんたの生き様を刻む必要はもう無くなったぞ!!早く出てきなさいよ!!」


 と、その瞬間、遠くから声がする――。え、なぜヤチコちゃんが……?待ってろと言ったのに!こんな姿を見られたら終わりだ!!いま彼女に見捨てられたら、砂漠の一部に永遠に引き込まれる事になる……


「待て待て待て―――!!!そこを止まれよ……止まってくださいよ……ヤチコちゃん、それ以上進むなよ!!」

「どこなのカムイ!!何をバカな事を言ってるのさ!?キノタイプの等価交換に使える物はもう手に入ったぞ!!移動中のハゲワシたちが羽を休めに降りて来たのを一網打尽にしたんだから!!」


 な、なんだって???ハゲワシ共め……男の体には興味無いってか!?不条理だ!絶望だ!俺の覚悟は何になる!? 俺の頑張りは何になる!?しかし、背に腹は代えられない……今は彼女に見つかる前にトランクスを履こう……


「わかったよ!20秒だけ……いや、10秒でいいから!ほんの一瞬だけ待ってくれ!大事な事があるんだよ」

「……イヤ。なんと言われようが待たない。もう砂漠はうんざりなの」


 来るな、来るな、くそ!俺の犬っころ絵トランクスはどこだ?さっき勢いよく脱ぎ捨てたのがマズかった!目の前に丁寧に置いておけば良かった……!!! くそ、ヤチコちゃんの足音は直ぐそこだぞ!?俺のトランクスは一体……


「あった!!!あったぞ!!!俺のト……」

「ったく、騒々しいぞ!?あんたの何?生き様?そんなもの……お、おい?」


 ヤチコちゃんの素っ頓狂な声と共に、強風が吹いて俺のトランクスが空高く舞い上がる――。そして、あらぬ方向へとヒラヒラ飛んでいく……ヤチコちゃんは言葉を失い、ただただ空飛ぶトランクスを目で追う。『放心状態』というものをここまで綺麗に体現したのは彼女が世界初なのだろう。万が一、『放心状態世界選手権』が存在し、既に素晴らしい記録があったとしても、今この瞬間、彼女が世界新記録を更新してしまったに違いない。


 俺のトランクスと共に彼女の意識も吹っ飛んでしまっているのが切々と伝わってくる。彼女には悪い事をしてしまった。しかし、もうヤチコちゃんに構ってはいられない。強烈な日差しから俺の大事なモノを守るために!


「この馬鹿ムイ!そこで何をしたの!!あんたの生き様とは、気持ち悪い生殖本能を解放することだったのか――!!」

「誤、誤解だよ!!俺は一人で生殖本能を解放したりしていないぞ!!ただ……」

「もうあんたの屁理屈は聞きたくない!変態カムイ!最低カムイ!ここから消え去りな!!!」


 本当に誤解なんだよ!一回だけ弁明の機会をくれ――――!!と叫ぶも虚しく、俺の意識は現実から遠ざかり始める。ああ そうか――どうやら、ヤチコちゃんのキノタイプが発動したらしい。ヤチコちゃんからの罵倒を最後に俺の意識は完全に途切れた。ほんの数秒ぐらいで再び覚醒するけどな。それまでのブラックアウトを楽しむことにしよう。


 それにしても慣れないもんだな……ヤチコちゃんのキノタイプを浴びせられるのは。目覚めたら、念願の『工房街ドレッドノート』か――。


「はろー!ボクは新規旅行者のサポートを担当するAI『コーボーくん』です!カムイ・コトブキ様、ヤチコ・レイゲン様、『工房街ドレッドノート』へようこそ!何でもお手伝い致します。まずは、この新品のトランクスを受け取ってください😀」


 下着ただでくれるのか。おせっかいな案内ロボもいたもんだ。よほど俺の裸が嫌いだったらしい。まぁ、この親切なロボの脳天というか、つむじには『Strayhound』という落書きがされてるけどな。いくら賢いAIでも、たかが自分のてっぺんのことは知らんのか――面白い皮肉だな。荒れた芸術家の仕業だろうか……


 え?いきなりロボが現れたり、辻褄が合わない?それはヤチコちゃんのおかげさ。


 ああ――彼女のキノタイプがどんな能力なのか、言わなかったっけ?でも、薄々気づいてるでしょ?言わずもがな、いわゆる『テレポート』さ。


「違うよ!あたしのテレポートは『アルクビエレ・ドライブ』と命名したの!」

「その本人もテレポートと言ってるじゃねえか!くだらんな、ったく!」


 俺たちはこうして工房街ドレッドノートに見事たどり着いたわけだ。


聖エデン世紀 1160年 07月 15日 14時 11分

犯罪組織『寿』リーダーのカムイ・コトブキと、その側近1名

工房街ドレッドノートに到着してしまう

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