第8話 勇者は戦いを喜び、勇者は救援に感謝する(1)

「----え?」


 セラトリアは、攻撃するつもりはなかった。


 確かに、アルテの扱いについて、ナウンとシャルの2人と対立する事はあった。

 しかし、彼女達はセラトリアにとってパーティーの仲間であり、攻撃するほど嫌っているという事はなかったのだ。

 ----しかも、アルテを攻撃することなど、さらにあり得ない事であった。


「どうして……」

「あぁ、意思がまだ残ってるみたいですね。意志が強いのも、厄介ですね」


 と、倒れる3人に困惑するセラトリアの前に、"彼女・・"は現れた。


「あなたは……宿屋の……」


 そう、セラトリアの前に現れたのは、宿屋の娘。

 セラトリア達勇者パーティーが泊まる、村の宿屋の娘さんであった。



「----改めまして、自己紹介をしましょうか」



 宿屋の娘さんはそう言って、前髪をかき分ける。

 前髪に隠された額には【Ⅲ】というマークがつけられており、彼女が前髪をかきわけるのと同時に彼女の身体に大量の魔力が溢れ出していた。


「私こそ、"真の四天王"。ゾンビ達を率いし、死者の王。

 ドロミオーネとは本来、私の事を指す名前なのですよ」



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「なっ……じゃあ、あの湖のバケモノは……?!」

「あの子もまた、ドロミオーネ。ペットに主人の名前と同じ名前をつけても、不自然ではないでしょう?」


 ニヤリ、と宿屋の娘----本物の四天王、ドロミオーネは笑う。


「勇者セラトリアよ、あなたとはいずれ戦う事になると分かっていました。なにせ、私もあなたと同じ"勇者・・"ですからね」

「勇者だと……」

「正確には三代目の魔王と戦った、三代目勇者ソイラシア。ドロミオーネと名を変え、魔王の誘いに乗り、人類ではなく魔王側についた裏切りの勇者とは、この私の事ですよ」


 セラトリアの頭には、王国の図書室で見た三代目勇者の記述が思い浮かんでいた。



 ----三代目勇者ソイラシア、またの名を【拳聖の勇者】。

 圧倒的な戦力を有しており、たった1人で魔王に挑んだ勇者。

 セラトリアに負けないくらい身体能力や魔術、神聖術の使い手であった勇者であり、当時の魔王を追い詰めるも、魔王の甘い誘いに乗って魔王軍に寝返った勇者である。


 結局、その当時の魔王は、その後に王国側が召喚した異世界勇者によって倒されたという話であり、ソイラシアもその時に倒されたという話だったのだが。



「まさか、ソイラシア……魔王軍に裏切った勇者が、まだ生きていただなんて……」

「その様子だと、王国側にはこのドロミオーネの能力が、正しく伝わっていないようですね」


 ドロミオーネはそう言うと、彼女の身体に光が纏っていく。

 彼女が纏う白銀の光は、子供にしか思えないドロミオーネの身体を、徐々に大人びた身体へと変えていく。


「ドロミオーネ、もとい三代目勇者ソイラシアが得意としたのは、自らの身体に神聖術を纏わせての身体強化を用いた武術攻撃、通称【勇者武術】。神聖術を身体全体に覆う事で、ただでさえ強い勇者の身体を強力なモノへと変えるこの力を使って戦っていたが、実はその応用として、私は自らの身体を自由自在に操ることが出来る。

 私を殺そうとした異世界勇者の眼を盗み、子供となって逃げのびた。ただそれだけの事ですよ」


 勇者は、神に選ばれし者。

 その肉体は常人に比べられないほど強化されており、三代目勇者ソイラシアはその肉体そのものに神聖術を付与する術を独自に生み出して、聖剣を用いない自らの拳だけで戦っていた。


「(三代目勇者は身体に神聖術を付与して戦うという、独自の戦闘方法を生み出した。どれだけ身体に神聖術を入れられるかを熟知しているのなら、治癒の神聖術にて身体の傷を治すように、身体つきまで自由自在に変えられるという事か。

 恐らくゾンビ達も、死の力などではなく、治癒能力を暴走させて、あのような死んでも死なない魔物を生み出していたのだろう)」


 ナウンが見つけられたのも、納得だ。

 探していたゾンビの王が、まさか死の力ではなく、膨大な聖の力を持つ者だっただなんて。


「----さぁ、今代の勇者よ。三代目勇者さんと遊ぼうじゃないか。

 勇者と元勇者の対決、胸躍りますねぇ」




 ===== ===== =====

 【真の四天王】ドロミオーネ/三代目勇者ソイラシア

 

 出身地;帝国領の、とある伯爵家領


 能力;強力な神聖術、【勇者武術】


 詳細;三代目勇者ソイラシアにして、現在は四天王の1人であるドロミオーネ。三代目勇者は魔王に裏切った反逆者であり、異世界勇者によって倒されたとされていたが、神聖術を使っての肉体改造レベルの整形術で別人となって、生き延びていた

 現在はその強すぎる神聖術を使って、『死んでも死なない身体』を持つゾンビを増やすことによって、魔王軍に貢献している。ペットとして、ダミーのドロミオーネと言う名のバケモノを作り、それを退治しに来た強者に倒させて油断している所を攻撃し、新たなバケモノへと変えるのがお決まりの手口である

 自らの身体に神聖術を付与して、身体能力を上げるというオリジナル武術である【勇者武術】の使い手であり、その他にも色々な隠し玉を持っている

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