6 生きる

「今の話って、ニセ女神さんの……」

「ええ。作り話です」

 いや作り話かよ。

 過去の回想のように語るんじゃないよ。

 というか、今の話にはどういう意図があったんだよ。

「まあ、今の話から何を感じ取るかはあなた次第ということで」

 だから心を読むんじゃないよ。


「さ。宴もたけなわ、そろそろお開きにしましょうか。あまり遅くなると明日に響きますから」と、ニセ女神が唐突に告げた。

 ん?

「もう明日じゃなくて今日だけどな」とネコもどき。

「いや、僕はまだ飛び降りをやめるとは……」

 困惑する僕の言葉を遮り、ニセ女神はあっけらかんとして言う。

「でもあなた、もう死ぬ気は無いでしょう。分かりますよ、心を読むまでもなく。というわけで、賭けは私の勝ちです」


 そうして。

 勝手に押しかけて、勝手に飲んで、勝手に語って、勝手に一本締めをして。

 ニセ女神とネコもどきは、勝手に去っていった。

「あ、そうそう。あなた、心の中の突っ込みとかもっと言葉にしたほうがいいですよ。そのほうが面白いです」

 去り際、彼女は僕にそんなことを言った。

「余計なお世話だ」

 東の空には、いつの間にか朝日が輝いている。


 *


 結局。

 あの日、僕は死なずに帰宅し。

 それから今日まで、まだ生きている。


 まんまとニセ女神に説得されたとか、そういうわけではないのだが。

 いや、あれを説得と呼んでいいものかは疑問であるが。

 そもそも、あの夜の出来事は全て僕の妄想だったと考えるのが妥当とも思うが。


 いずれにしろ僕は、なんかまだ生きていてもいいと思うようになった。

 だから今日も、ニセモノのまま、僕は僕なりに、前を向いたり、ときには下を向いたり立ち止まったりもしながら、僕は生きていく。


 どこかで「にゃー」とネコの鳴く声が聞こえた。

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こんな夜には死ねない カニカマもどき @wasabi014

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