嫉妬


「ねえ、どういうこと?恋人…とか聞こえたけど(ニコラちゃん、誰とも付き合わないんじゃなかったの?なんだよ一体…!)」

「あ…それが。説明すると長いんだけど」

「いいよ、話して」

「その前に手を離せ!!」


 ジタバタするロットを引き摺りながら、ゼラは移動を開始した。ニコラは呆然とついて行くしかなかった。





「………ふーん…それで恋人の契約したワケね」

「契約…まあそういうことかな?」

「そうだ。ニコラは堂々と断れる、僕は親から「そろそろ良い人いないの?」と言われなくて済む。利害関係が一致しているんだ」

「え、それわたし初耳」

「ふーーーーーん……」


 やって来たのは皇宮内にあるカフェ。ここで働く文官なんかがよく利用している。

 その一角を陣取り、丸いテーブルに3人は座っている。騎士2人と兵士の組み合わせは、どことなく注目を浴びているような。



「…それさあ。ロット卿じゃなくてもいいよね?」

「「え?」」

「あくまで例えばだけど。俺でもよくない?」

「………そりゃ「よくない!!!」むぐっ!?」


 何か言おうとするニコラの口を塞ぎ、ロットが主張する。


「女性を取っ替え引っ替えのお前より、僕の方が社会的に信用あるだろうが!!」

「ぐ…!」

「あわわ、こぼれる」


 痛いところを突かれ、ゼラは怯む。

 ロットはジュースを飲むニコラの肩を抱き寄せた。


「…言っとくけど、俺二股とかはしたことねーからな!?毎回きっちりお別れしてから付き合ってるから!!

 ロット卿なんて単に経験ねえだけじゃねえか!!そんなんでスマートにエスコートできんのかー!?」

「おぐっ」

「んぎゃっ!」


 それでも負けじと反論し、ロットにダメージを与えつつニコラを奪う。

 膝に乗せてぎゅっと抱き締めれば、ニコラは顔を赤くさせた。


「ゼ、ゼラくん…!」

「つか俺とニコラちゃん5歳差だし!理想的じゃん!?8歳上はすっこんでろ お っ さ ん !!」

「おっ…!?う、うるさいまだ常識的な差だ!!僕達はもう同じベッドで寝てるんだぞ!!」

「はああーーーっ!!?」

「誤解を招く言い方すなーーーっ!!?」


 ぎゃあぎゃあと、人目も気にせず騒ぐ2人。

 ロットの発言に数人は噴き出し、数人はそっと離席し、数人は頬を染め、一部は鼻息を荒くしている。


 ゼラがブチ切れているところにロットは畳み掛ける。


「キスもすでにしているし!!ニコラから夜のおさそ「こらーーーっ!!」ごぶっ!」


 なんてこと言うんだ!とニコラ大絶叫。ロットの顔面に拳を叩き込み、移動を促した。

 ヒートアップしていた2人も、ようやく自分達が視線を集めていると気付いた。今更だがコソコソと移動。


 嵐が去ったカフェでは…やや騒然となったそうな。




 2人は普通に勤務中なので、話はまた後日…となった。


「じゃあわたし帰るから!…変なこと言い触らさないでよね!?」

「変なことって?きみが僕に「処女をもらってくれ」と言ったこととか?」

「……!!」

「それだよ!!!もう…!ばか!!変態騎士!」


 ニコラは憤慨しながら、走って逃げ帰る。

 残された2人は…



「おいコラ。何抜け駆けしてんの?」

「は?答えも出せないくせに、何一丁前に文句垂れてるんだ?」

「そ…れは…!」



 それもそうだ。ゼラに、2人の邪魔をする理由があるのだろうか。


「もう1度だけ言う。遊びなら…首を突っ込むな。僕はもう、アール達からも兄として認められている(多分)」

「…………」


 拳を握り俯くゼラを尻目に、ロットは背を向けた。




「忘れてたーーーっ!!!」

「ぬわっ!!?」

「えっ!?ニコラちゃん!!」


 そこへ帰ったはずのニコラ登場。手に何かを握っていて、ロットに差し出した。


「これ!!手紙…王妹殿下に渡してもらえない?」

「え…」


 王妹…レイリア。ニコラは以前、完全に拒絶したはずだが…


「…ずっと、言いたいことがあった。でも平民と王族だし…接点無いから。

 今回は近付くチャンス!って思ってたのに。ツェンレイの皇子様のインパクトですっかり忘れちゃって。

 確認が必要なら中身読んでもいいよ、ただ…殿下にも読んでほしい」

「ニコラ…」


 ロットは確かに受け取り…必ず渡すと誓う。



「じゃ、よろしくっ!

 ロット、さっき変な声出してたねー!ばいばーい」

「忘れろっ!!」


 ニコラは元気よく、今度こそ帰った。

 さっきの会話は聞いてなかったようで…2人は安堵する。



「「…………」」


 この手紙、どうする?と顔を見合わせる。

 自分達が持って行ったら…


 まあ!ロット卿/ゼラ卿が殿下に恋文を!

 となりかねん。ではレイリア付きのメイドか侍女に…


 あら、どうして手紙のやり取りを?まさか…お付き合いしているのかしら!?



「「………………」」


 駄目だ、どっちにしても面倒なことになる。


 手紙を託されたはいいが…騎士とはいえ、王族に近付くのは容易じゃない。異性なら尚更。頭を悩ませる2人。



「……読むの?」

「まさか。これは…ニコラと殿下のみ、知っているべきだろう」


 まさか喧嘩を売るようなこと、書いてない…と、信じたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る