ビッグチャンス到来


 少し前。ロットは門まで来ていた。


「?」


 どうにも騒がしい。兵士達が走り回り、どこかに電話をしたり…


「あっ!!ロット卿!!」

「どうした」


 緊急事態と判断、狼狽するクランスの元に行く。



「山の生息地外に魔物が出現!幼い子供が逃げ遅れ、ニコラが先行しています!!」

「な…っ!?詳細を!!」


 あの、華奢なニコラが…1人で魔物に立ち向かっている…!?

 一瞬にして、最悪な未来が浮かび…全身が冷える。ロットは情報を共有して、自分の馬に飛び乗り駆け出した。




「ニコラ!!」


 焦りばかりが募り、不安を吹き飛ばすように疾走する。

 すると…山に入り少し登った所で、脇道から子供が飛び出してきた。危うく馬と接触しかけ、反射で手綱を引く。



「っ!!」

「あっ!助けてえー!」


 馬を近くの枝に結び。安心したのか座り込み、大泣きする子供の肩に手を置いた。


「他に誰かいたか!?」

「あ…あっち…!こわかったああっ!わあああん!」

「…!」


 子供は今自分が走ってきた道を指す。これ以上は何も聞き出せない、ここを動くな!と言い聞かせロットは走った。



 折れたばかりの枝、踏まれた草。確かに最近人が通った跡がある。それを頼りに…必死に足を動かす。


「ニコラ、ニコラ…!」


 どうか無事でいてくれ。愛しい彼女の笑顔を思い浮かべては…込み上げる複雑な思いを、ぐっと呑み込んだ。




「……わああっ!?誰!ちょ、来ないで…!」

「!!!」


 前方から微かに、ニコラの声がした。ロットは無我夢中で突き進むと…!



「ゲエッ!?……なんだぁ、ロットか…よかった〜」

「……………は?」


 そこには。細長いツノを手に持ち、地面に座り込み。膝の上に…眠る巨大な馬、のような魔物の頭を乗せて。冷や汗をかいたニコラがいた。



「ユ…ユニコーン…」


 ロットの呟きはよく響いた。




 ユニコーンとは。パッと見ればツノが生えた白馬だが…非常に獰猛である。ただしその数は少なく、移動を繰り返すので生息域もあやふや。

 更にツノはあらゆる毒を浄化する、汚染された水を綺麗にするなど…とても貴重な素材として重宝されている。

 なので見かけても、討伐よりも採取が優先される。ツノはまた伸びるから。


 だが一筋縄ではいかない相手だ。ただ倒すだけならば、騎士が3人いればいいけれど…

 採取して逃げるとなると、リスクが高い。しつこく追って来るのだ。




「そんなユニコーンの弱点…乙女。ぶっちゃけ処女に対してメロメロになるんだっけ。こうやって膝に乗って寝ちゃうとか」

「あ…ああ…」


 ロットはやや頬を染めて頷いた。ニコラは淡々と話しているもんで、少しは照れろや、とか思ってたりする。


「でも来たのがロットでよかった。他の人だったら、わたしが女だってバレちゃうとこだった。

 さっきは急いでて、これがユニコーンだってすぐ思い至らなかったんだよね」

「…恐らくすぐに、騎士団がやって来る」

「嘘っ!?まず〜…この特殊性癖一角獣どうにかしないと…」


 ユニコーンの横顔を撫でながら、ニコラは唸る。こうなったユニコーンは中々起きないので…

 乙女が誘き寄せて、ユニコーンを眠らせ。その隙にツノを取って、逃げるのが正しい方法だ。


 とりあえず…ニコラを救出。足を痛めているようなので、そっと横抱きにした。ユニコーンが起きる前に移動する。



「このツノ貴重なんだよね!いやあ、お金貰えちゃう!?」

「…兵士は国に仕えているから。全額は貰えないな」

「え〜〜〜?まあ、仕方ないか…」


 しょんぼりと、ツノをしっかり抱き締める。ロットは腕に力を込めた。


「………もう。女性として生きていいんじゃないか?」

「え、なんで?」


 なんでって。そりゃ…

 僕が、弟妹もまとめて養う…なんて。まだ言えない!



「……まだ男装をやめる気はないんだな?」

「もち。収入も安定してるし、業務に支障をきたさなければバイトも応援してくれるし!というかやめる理由がないもの」

「………………」


 満面の笑みで言われては、何も返せなかった。



 それより、このツノをどう説明するか。

 ユニコーンが眠っている姿を見たのは、ニコラとロットだけ…ならば。

 


 2人で考えた言い訳はこうだ。


 ニコラ、突進してツノを折る。

 ユニコーン、ブチ切れる。

 子供、逃げる。

 ニコラ、ツノ持ってユニコーンと追いかけっこ。

 追いつかれそうなところに…ロット参上。

 ロットとニコラ、2人では倒せないので…崖の下に突き落とした。である。


 大きいユニコーンは木にぶつかったりしたお陰で、小さくすばしっこいニコラは持ち堪えた。と言えば完璧だ。

 ユニコーンは死んでしまったかもしれないが…こうしてツノをゲットできたので上出来だろう。



 2人が登山道まで戻ってくると、そこには兵士や騎士が集まっていた。

 皆ニコラの無事を泣いて喜び、褒め称えた。


 考えておいた言い訳も通って、ニコラの性別がバレることもなく事件は収束…なのだが。





「ねえロット。ユニコーンってまだ移動しないのかな?」

「そうだな。暫くはあの山にいるだろうから…立ち入り禁止になる」


 2人は一緒に馬に乗りながら、ニコラの家を目指す。今日はもう休んでいい、というか足が治るまでお休みを貰った。


 だが、ニコラ的にはまだ終わっていない。

 もしもまた、ユニコーンに遭遇したら。その時…1人ならいいけど。誰か、クランスなんかが近くにいたら?


 うーんと唸る。ユニコーンに男として認定されるためには……


「あっ」

「?」


 ポン!と手を叩く。なんだ、簡単なことじゃん!と目を輝かせた。


「………ニコラ?」


 ただロットは、非常に嫌な予感が。ぜっっったいロクなことを考えていない!と直感した。


「………………」


 ニコラは顎に指を当てて、考え込み。数分後。

 上半身を捻って、後ろに座るロットを見上げた。


「………………」

「なん…なん、だ…」


 ロットの頭の中で、警鐘がカンカン鳴っている。安全のため馬を止めて…見つめ合う2人。

 すると、ニコラがポッと頬を染めた。可愛い…けど。警鐘がガンガンになった。


「…………ロット」

「………うん…?」

「あの…その。わたしと…えっと」

「なんだ…?」


 珍しく口籠るニコラ。唇を尖らせ、目を伏せる。

 とても言いづらいようで…ちょっと耳貸して、と言われてロットは背を丸めた。すると。



「あの。嫌だったら、いいんだけど。

 わたしと…いや、わたしの。…処女…もらって、くれない…?」

「──────」



 直後、ロットはのけぞり落馬した。


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