本気


 和気藹々とした雰囲気の中、誕生日パーティーは盛り上がる。

 ふいにハントがこう言った。


「ニコラ、さっきの楽器で何か弾ける?俺聞いてみたい」

「ん?いいよ」


 断る理由もなし、ニコラは上機嫌でサーパを持ってきた。

 右足を組んだ状態で椅子に座り、足の間に楽器を固定。ピン、と弦を弾けば音が鳴る。

 何度か弾き、確認した後…ニコラの演奏が始まった。


 最初はつたなかったが、段々と昔を思い出してきたのか、指の動きも変わった。


「〜♪」


 サービスで弾き語り。この曲は、ニコラが1番得意な…恋の歌。

 ロマンチストな元婚約者が教えてくれたんだが…


「♪ ♫〜…」


 全員がニコラに注目する。女性陣は頬に手を当てて感激しているようだ。言葉は分からずとも、奏者の切なげな表情から内容を汲んでいるのかもしれない。



 幼馴染の2人が…離れ離れになって。

 お互いを忘れられなくて、数年が経ち。

 遥か遠い地にて、奇跡的に再会して。

 会えなかった時間を埋めるように寄り添って…もう離れない、と手を取り合う歌。



 最後まで歌いきり…ふう と息を吐くと。

 盛大な拍手が会場に広まった。


「すごい、プロみたい!!」

「ニコラ様歌手になれるんじゃないですか!?」

「すっごく感動しちゃいました〜!」


「そ、そうですか?いやあ、それほどでも〜!」


 照れ照れ、頭を掻いて上半身を揺らす。

 昔はどれだけ練習しても、母と婚約者しか褒めてくれなかったから。自分の腕前がどれほどか、全然分かっていなかったのだ。



 ふと、こう考える。


「…おや?これって稼げるのでは…?」


 これだけ称賛してもらえたら。路上で弾き語りして…チップを回収できるのでは?頭の中で金勘定、にやりと口角を上げると、誰かが肩を叩いた。


「ニコラちゃん、ニコラちゃん?」

「……ハッ!?何、ゼラくん?」

「ロクでもないこと考えてたでしょ」

「失礼な。あー喉渇いた(棒)」

「……………」


 まるで信用ならん胡乱な目。まあいい、今度の休みにやってみよう。


 新しいバイトも考えついたところで、そろそろパーティー終了の時間。もう帰らねば、アール達が心配だ。


「余った料理もらっていい?みんなにも食べてほしいし」

「新しいのあげるから!」


 流石に食べかけをくれ、とは言っていない。手をつけていなさそうな皿があるから…と思ったが。

 重箱5段分、たっぷりお裾分けをいただいて(デザート別)。ホクホク顔になるニコラだった。



「「「送ってく!」」」

「……ありがとう…」


 確かに大荷物なので、嬉しいけど。4人で馬車に乗るのは…せめて1人降りてくれないかな。

 誰が引くか!で騒いでいる間に着替え、メイドが手伝ってくれた。


 ドレスやアクセサリー、靴は大事に持って帰り。ゼラに借りた服は洗って返すことにして。いつもの少年スタイルになって、玄関に向かうと。


「おっしゃー俺の勝ちい!!」

「僕もだ」

「ちくしょう!!」


 ロットは小さくガッツポーズ、ゼラは「イエーイ!!」と言いながら拳を突き上げている。ニコラの送迎資格を勝ち取ったらしい。



「今日はありがとうございました!とっても楽しかったです」

「こっちこそありがとう〜!今度遊びに行くな!」


 ハントは泣く泣く屋敷の前で別れて…3人を乗せた馬車はニコラの家を目指す。




「んで、ニコラちゃん。さっき何思い付いたの?」

「………………」

「?なんの話だ?」


 蒸し返されて、ムッとしつつも…弾き語りで稼ごうとした、と白状。2人は唸った。


「……それこそ、歌手を目指したら?ニコラちゃんだったら絶対売れるよ!」

「イヤ!安定しないし、今すぐ売れる訳じゃないし!」


 やはり素人とプロではレベルが違うだろう。そこは堅実にいきたい。


「じゃあ…僕達の誰かが必ず、近くで護衛する。そうじゃないと許可できない」

「なぜあなた達の許可が…?」

「「心配だから」」

「ぬ…」


 真っ直ぐな目で言われては、反論できず。

 しかし彼らと休みが合うのは、月に1回程度。まあ…不定期バイトと思えばいいのだろうか…?


「そん時はさ、女の子として活動しようよ!俺らの護衛があれば安全安心。それに繁華街の方が儲かると思うよ」

「一理あるね」


 そんな風に盛り上がり、あっという間に到着。

 呼び鈴を鳴らすと、すぐに子供達が飛び出してきた。


「にーちゃんお帰りーっ!

 あれ…ロットさんと、金髪の兄ちゃん?」

「ゼラだよ〜、よろしくね」

「きゃあっ、イケメン!こんばんは〜、あたしエリカって言います♡」


 エリカは早速イケメンに食い付いた。ゼラはにこやかに対応、なんだか賑わってきた。

 もう夜遅いので、2人は荷物を置いて帰る。エリカは名残惜しそうに「また来てくださいね〜!」と大きく手を振っていた。



「みんな〜、ご馳走もらってきたよ!さ、食べよっか」

「「「「わーい!!!」」」」



 元気いっぱいな声を背に、騎士達は帰っていく。





「「……………」」


 ニコラのいない馬車の中。沈黙が支配していた。



「……ゼラ卿」

「なによ」


 どちらも先程までとは違い無表情。


「お前は本気で、ニコラとどうこうなりたいって思ってるのか?」

「はー?なんでそんなこと言わなきゃならんの?」

「僕は本気だ」

「は…」


 咄嗟に言葉が出なかった。

 ロットは真剣な目でゼラを刺す。


「僕はニコラが好きだ。お遊びなら邪魔するな」

「…!勝手にお遊びって決めないでくれる?俺だって、俺…だって…」


 本気で好きだ、って言えるか?分からない。


 よく考えたら…今まで本気で、誰かを好きになったことは…ないかもしれない。遊び…身体の関係だけ、だったり。

 そんな自分が…あの純真無垢なニコラを想う資格はあるのか。最初だって…怖がらせてしまって…



 ゼラの苦虫を噛み潰したような表情を見て、ロットはため息をついた後。


「…ニコラのご両親は政略結婚だったらしい」

「?」


 本人から聞いた過去話を全て伝えた。彼女はその経験から、恋愛に消極的だとも…



 ゼラは呆けて、何も言えなかった。なんでその話を自分に?


「…今回、お前が僕達の誕生日を…ニコラに教えてくれたから。プレゼントも貰えたし…彼女の誕生日も知れた、から」

「(…お礼のつもりか。口下手だなー…)」


 情報を共有して、フェアな立場になりたかったらしい。

 確かにゼラが何も知らず、ぐいぐい迫ったら…ニコラは逃げただろう。



「僕はニコラの保護者じゃなく…恋人になりたい。いずれは結婚も考えている。あの4人だってもちろん養う」

「……俺…は」



 ニコラと…結婚。それは…


 ゼラはこの日、どうしても答えを出すことができなかった。

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