ニコラの初デート



「おっすおっす、ロット卿〜」

「ゼラ卿?」


 王宮にて。

 剣を置き汗を拭っていたロットに…ゼラがにこやかに近付いた。

 周囲を気にし、ゼラは口元を手で隠して内緒話のポーズ。


「なあ…ニコラちゃんって可愛いよな」

「!?」

「俺明日、ニコラちゃんとデートなんだっ!じゃあね〜」

「待っ…!?」


 ゼラは爆弾を落として逃げた。

 なんだなんだ?と騎士が集まる。


「(い…色んな女性に手を出しまくっている、ゼラ卿が。そんな、ニコラ…!

 まさか…誰かを好きになりたくないから。身体だけの関係を、望んでいる…!?)」


 はわわわわ。

 ロットは背中を呆然と見送った後…


「明日は予定を空けておけ!!」

「なんで?俺ニコラのとこに…」

「そのニコラに関することだ!!」


 ハントを巻き込み、尾行を決意。





 3人は同じ隊に所属しており、基本的に休日も一緒。

 翌日…カジュアルな服装のゼラが、鼻歌を歌いながら寮を出たのを確認。

 双子も目立たない格好をして、充分距離を取って監視。



 ゼラが向かったのは、賑わっている中心街。デートスポットも多い。

 ニコラの家からは、歩いて4時間は掛かる。それほど門から離れているのだ。


「おっ。ごめんね、待った?」

「いいえ、今来たとこです」

「よかったー。今日の服、すっごい可愛いね!」


「「………!!?」」


 2人は目を疑った。ゼラと合流したのは、確かにニコラだが。


 スカートを穿いており…胸も潰していなかった。あのニコラを男と思う人はいまい。

 美少女と好青年のカップルは、道行く人も「お似合いね〜」とか言ってしまうレベルで絵になっている。

 男の子だと思っているハントは、1人だけ展開について行けてない。


「は…?な、ニコラ?や、あれ?ニコラ…???」

「(まずい!)落ち着けハント!あれはきっと………ゼラ卿の趣味だ!!」

「なに…!?」


 咄嗟に出たのがこれだった。こうしてハントの中でゼラは…男の子を女装させて愉しむ趣味がある、と認定してしまった。


「あの変態やろぉ…女性だけでなく、ニコラまで…!!」


 弟分が弄ばれている…!ハントはメラメラと燃えていた。




「なんだ、あのチャラい金髪…!?」

「「ん?」」


 今どこからか、変声期を迎えたばかりの、高音が混ざった安定しない声がした。

 2人が視線を向けると。サングラスで顔を隠すアールが、道を挟んで反対側の建物の陰に潜んでいた。さささっと移動して声を掛ける。



「何やってんだ…?」

「ロットさん、ハントさん!

 にーちゃんが…外出するのに珍しく男装してなくて!!

 なんか怪しいと思って、エリカに留守は任せて追ったんだ。そしたら首都を巡回する馬車に乗るから、ぼくも慌てて飛び乗ったの」


 で、誰かを待っているかと思えば。あの金髪が近寄ってきたと…

 ニコラは家族のアールにも何も告げていない…益々怪しい。



「あ、歩き出したぞ!」


 まずは見失わないように追う。

 背の高い青年2人と、小柄な少年が怪しい動きをしてるもんで…誰もが見て見ぬふりをしていた。




 ゼラ達が入ったのは、女性客やカップルの多いお洒落なカフェ。3人は勢いで入店した。


「い…いらっしゃいませ…」

「「「3人で」」」

「は、はい。ではこちらの…」

「「「あちらの席で」」」

「はい…」


 男3人は目立つ目立つ。しかもニコラ達のいる…テラス席に近い場所を希望して。2人を凝視しているもんで…

 仕事そっちのけで女性店員は盛り上がった。



「まさか…五角関係…!?なんてね」

「あの男の子はきっと弟くんよ」

「……待って。私分かっちゃったわ。

 あの3人と女の子は4兄妹で、今日は彼氏さんと初デートなのよ!」

「え、じゃあ。心配になってついて来ちゃったの!?」

「何それ可愛い〜!」

「でも分かるわあ。あの彼氏さん、イケメンだけど遊んでそうだし」

「言えてる!目の保養にはなるけど、彼氏や旦那だと不安かも…」

「ほら!今も他の女性を見てるわよ!」


 半分合っている。




「ここの制服可愛いね〜、ニコラちゃんもカフェで働いたら?色々バイトしてるんでしょ?」

「家の近くじゃ知り合いにバレちゃいますよ。銭湯だって、わざわざ隣の地区に行ってるんですから」

「残念。絶対似合うと思うのになあ…」


「「「……………」」」


 噂されている3兄弟は、テーブルを1つ分挟んだところに座っている。これ以上はバレてしまう恐れがある、ただ会話が聞こえづらい。


「なんだって?」

「わかんない…」

「もうちょい、近くに…!」

「無理言うな」


 双子はコーヒー、末っ子はジュースを注文した。



「わたし、アプリコットティーで」

「それだけ?」

「ここのメニュー高いんですもん。節約節約」

「…俺、このでっかいパフェも食べようっと。カップル限定なんだって、一緒に食べてくれない?」

「え?でも…」

「おねが〜い♡俺だけで食べてたら、怪しまれるじゃん」

「………まあ、いいですけど…」


 2人も注文完了、数分後…どでかいパフェが運ばれて、3兄弟はあんぐり。


「あ、あれ、カップルメニューじゃねえか…!」

「んな…!見てよ、2人で食べてるよ!?」


「?」


 なんだか騒がしいな〜?と思いつつ、ニコラはスプーンを動かす。

 注文したのはゼラなんだから、自分はちょっとにしよう。なのに…ゼラは中々スプーンが進まない。


「ちょっと、溶けちゃいますよ!?」

「わ、ごめーん!俺冷たいのって、一気に食べれないんだ。ほら食べて食べて!」

「もー…!」


 溶けて無駄にするくらいなら、わたしが食べる!味わいながらも沢山食べるニコラを、ゼラは優しい目で見つめていた…



「ほとんどわたしが食べちゃったんですけど…?」

「俺も結構食べたよー(※嘘)。さて、そろそろ行こっか」


 ゼラは財布を取り出そうとするニコラを、手で制した。


「駄目駄目!こういう時、女の子に財布を出させるのは男失格!」

「え、でも。わたし達は恋人でもないし…」

「そーれーでーもー!俺の評価が下がっちゃうんだよー。後で紅茶代をくれればいいから、ここは俺が出しとくね」

「……はい、ありがとうございます…?」


 ゼラは上機嫌で伝票を手に、会計を済ます。

 3兄弟も慌てて支払う…ロットが。


「アールはともかく、ハントは自分の分払えよ!?」

「よろしくお兄ちゃん」(棒読み)

「こんの…!」



 ドタバタ… カランカラン… ありがとうございましたー…



 女性従業員達は、心の中で3兄弟にエールを送った。


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