チャレンジャー・ゼラ


「何ここ?」

「大食いチャレンジやってるお店です」

「大食い…チャレンジ…?」


 そこは一見すると、ただの大衆食堂。ニコラは中に入り、ゼラも戸惑いながら続く。


「ほらアレ。30分でジャンボラーメン食べきったら、5万ウル貰えるんですよ!」


 夕飯時で混んでいるがなんとか席に座り、ニコラは壁の貼り紙を指した。失敗したら1万ウル支払い!とも書いてある。


「えーと…それを食べればいいの?」

「はい!賞金は山分けしましょう、紹介料です」


 よく分からないけど、ニコラは楽しそう。頬を染めて興奮する姿に…お願いを聞いてあげたくなるゼラ。全部食べて、格好いいとこ見せるぞー!と張り切って注文した。



「でっっっか!!?」


 どん!!と置かれたラーメンの大きさに、ゼラは思わず叫んだ。もうちょっと、3人前くらいだと思ってたのだ。だがこれはどう見ても、想像の倍はある。


「ラーメンチャレンジ、開始ー!残り30分です!!」

「頑張れよあんちゃん!」

「ニコ坊の友達かい?でけえなぁ!」

「無敗伝説を破ってやれー!!」



 あっはっはっ!!とお客の声が響き渡る。ゼラは向かいに座るニコラの目が、キラッキラに輝いているので…覚悟を決めて、ラーメンに挑んだ。





 25分後。


「ど…どう、だ…!」

「せ……成功だーーー!!!」

「やったあーーーっ!!!」

「「「うおおおおおっ!!!?」」」


 テーブルには空のどんぶり、口元を押さえてガッツポーズをするゼラ。店主の成功宣言に、ニコラと客は沸いた。

 なんでこんなことに…と膨れた腹をさするが。

 チャレンジ成功の記念に、カメラを向けられた瞬間…ゼラはキメ顔でポーズを取った。慣れてやがるな、これは。


 イエーイ!とニコラが賞金の入った封筒を手に、ツーショット。近いうちに壁に飾られるだろう。

 興奮冷めやらぬ中、ニコラとゼラは店を後にした。



「ゼラ卿、ありがとうございました!はいこれ、半分」

「いや…全部あげるよ…」

「いいえ、成功したのはゼラ卿ですから。はい!」


 ニコラは強引に、ゼラのポケットに2万5千ウルを突っ込んだ。警戒は完全に解けたようで、ニコニコと並んで歩く。



「…また、一緒にごはん行かない?」

「んー…お友達としてですよね?」

「(ここは合わせとくか…)そうそう」

「じゃあいいですよ。でもワリカンです」

「……俺のほうがいっぱい食べると思うし、割り勘じゃキミが損するよ」

「え、それはやだ。じゃあ別会計で!」

「うん…いいよ」


 すっかり仲良くなった2人。雑談をしながら、ニコラの家に着いた。



「じゃあまた、ゼラ卿」

「うん、おやすみニコラちゃん」


 ニコラは家に入り…


「あ、そうそう」

「?」


 扉が閉まる直前、ニコラがヒョイっと上半身だけ出した。背を向けていたゼラは顔だけ振り向く。


「人を好きになるな、とは言いませんが。程々にしてくださいね!今度は捕まえますよ!」

「???」


 それだけでは伝わらない。ニコラが酔っ払いの恋人の名前を告げると、あ~!と手を叩いた。あれはやはり、女性が隠れて2股していたようで、ゼラも驚いていた。


「それだけです。じゃあ、おやすみなさい」


 今度こそ、完全に扉を閉めると。アールの「遅かったじゃん、心配したよー!」という声がしてきた



「…………………」


 ゼラは1人歩きながら、考える。


 女の子とのデートで…大衆食堂って初めて行ったな。みんな高級レストランとか行きたがるし。

 高いプレゼントとかねだられるのも、女の子らしくて可愛いって思ってたんだけど。お金はいっぱい持ってるし。

 たまに、たまーにね?この子、俺の顔と金しか興味ねーなー…って寂しくなる時はあった。


 ニコラちゃんはあんなんで喜んでくれて。賞金もきっちり分け合って。一線引かれてるだけだろうけど…


「……楽しかったなー…」



 ボソッと呟いた。

 なんだか、顔が熱い。食い過ぎたかな…とゼラは頭を振った。次はどこに行こうかな…宝石をプレゼントしたら、受け取って……くれないだろうなあ。

 この地域で悪いことしたら…ニコラが捕まえてくれる?それはちょっと面白そう…いやオッサンが来る可能性のが高いや。



 ニコラは何を喜んでくれるんだろう。そんなことばかり浮かんでしまう、21歳の男だった。

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