第11話 出発の朝

先見組さきみぐみ』一行は、その後、五時間をかけて、ようやく城下町へと辿り着いた。


 帰りは下りとはいえ、足場は悪く、あまり急いで歩くことができなかったのだ。

 舞と桃の女子二人がいなければ、もう少し早く辿り着くことが出来たかもしれないし、竜之進も、


「『時空の腕輪』で二人一緒に、瞬時に移動できるのだから、それを使えばいいのではないか」


 と提案したのだが、二人とも、


「いえ、藩のために、という役目を頂いていますし、なるべく歩いて、藩の中を見て回りたいと思っています」


 と、その使用を拒否していたのだ。


 そのため、帰り着く頃には日がすっかり暮れてしまっていた。

 月夜であったため、足元に不安を覚えることは無かったのだが、それでも、特に舞と桃がヘトヘトになってしまっていた。


「……私、まだまだですね……」


 舞は落ち込んでいたのだが、


「何を言うか、今回、見事に男の子を助け出したではないか。それだけでも大手柄だ」


 と竜之進に褒められ、元気を取り戻したのだった。


 大島の調査も、早い方がいいだろう、ということで、翌日の五ツ半 (午前九時頃)に、城門前の茶屋に集合すると取り決めをして、その日は解散となった。


 桃、ハヤトが舞の護衛役となり、前田邸まで辿りついた。

 母親のユウには事前に無線で、無事使命を果たしたこと、竜之進やハヤトらと合流したことは伝えて、帰りのだいたいの時刻も知らせていたのだが、ユウは心配して、玄関前でずっと待っていた。


「よく頑張ったわね」


 と、舞はユウに頭を撫でてもらい、まだまだ子供扱いだな、と、嬉しくも、恥ずかしくも感じた。


 ちなみに、ハヤトの実家は坂を下りてすぐの近所だが、桃の家は少し離れているので、彼女はその日、舞達の屋敷に泊まることとなった。


 舞にとっては一年ぶりに会った桃、一緒に風呂に入って、その成長に驚かされた。


 自分より、一つ年下の彼女だが、すでに胸の大きさは同じぐらいか、少し負けているような気がした。


 くの一として、『女の技』を教わったという彼女、自分より大人になっているような、ちょっとした焦りも感じたが……彼女が初めて入った屋敷の内風呂、LEDランタンや、シャンプー、リンス、ボディソープといった仙界の物に、はしゃいだり、香りにうっとりしている様子を見て、まだ子供っぽさも残っているな、と、少しほっとした。


 その夜は、桃と布団を並べて寝た。


 この日、あまりにもいろいろな事がありすぎて、彼女と何から話せばいいのかな、と考えていたが、桃は相当疲れていたようで、すぐにすやすやと眠ってしまった。


 やや拍子抜けしてしまったが、自分も相当疲れている。

 ほんの少しだけ、前日からの冒険を思い出してみることにした。


 ハヤトとの再会、二人で苦労して男の子を見つけ出したこと、初老の女性を説得したこと、竜之進、虎次郎との出会い……。


 そして竜之進に裸を見られたことを思い出し、顔が熱くなるのを感じた。

 さらに、彼の嫁候補、と言われたこと……。


 鼓動が高鳴るのを感じたが、竜之進はそんなそぶりを見せなかったので、虎次郎の冗談だろう、と考えることで気を紛らわす。


 さらに、桃との再会、『先見組さきみぐみ』の結成、『幽霊島』の怖い話。

 そしてまた、明日、みんなと大島探索の旅に出る。


 また、竜之進に会える――。


 またしても鼓動が早くなる事を実感したが、これはただ、虎次郎の冗談で変に意識してしまっているだけだ、と無理矢理納得しようとする。


 なにしろ、相手は次期藩主候補だ。

 それに、課せられた使命を果たすことが先決、と考え、心を落ち着かせようとしたところ、一気に眠気が襲ってきて、そのまま深い眠りについたのだった。


 翌朝、屋敷の皆に見送られながら、舞と桃は出発した。


 坂を下ったところでハヤトと合流。しばらく歩き、少し早めに、約束の茶屋へと辿り着いた。

 まだ竜之進らは来ておらず、お茶を飲みながらしばし雑談。

 ハヤトを中心として、桃と舞が左右に座る。


「ハヤト、両手に花で嬉しいでしょ!」


 とはしゃいでいる桃。

 しかし当のハヤトは困惑しているようで、むしろ桃の方が嬉しそうだった。


「仲良いね、うらやましい」


 と舞が声をかけると、彼女は照れながら、


「はい、仲はいいですよ……でも、舞様にも、竜之進様……あ、外では本名は伏せるんでしたね。竜様がいるじゃないですか」


 と素で返された。


「なっ……いえ、あの、竜様とは、昨日お会いしたばっかりで、そんな……」


 舞がしどろもろどろになっているところに、


「三人とも、待たせたな……ちょうど今、船の準備をさせているところだ」


 と、その竜之進に声をかけられ、彼女は飛び上がるほど驚いた。


「……どうした、顔が赤いぞ……昨日大分歩いたから、熱でも出たか?」


「い、いえ、大丈夫、大丈夫です! さあ、参りましょう!」


 舞は、慌ててそう口にしたのだった。

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