お見合いのような出会いと、世界の命運と

 作者はちいさな心の動きを鮮やかに描き出すのが巧い。
 
 エリート武官に課せられた気の進まない任務。
 なにが気が進まないのか、自分はどうしたいのか。
 その描写は、彼が言ってみればある面では見事なまでに朴念仁であることを示している。彼は武官として訓練されたことには見事に対処してみせるが、人の機微にはてんで気が回らないのだ。

 一方、エリート武官が護衛を任ぜられた令嬢は、頭が回る。
 一言で言えば視野が広い。
 自分と彼がなぜ出会うことになったのか、すべて察したうえで状況を楽しんでいる。
 そのふたりの決定的で(読者には)楽しい「違い」を、作者は鮮やかに描き出す。

 もしこれがなにかの勝負ならば、エリート武官氏には勝ち目はないが、本作はそうではなさそうだ。
 世界には危機が迫っている。いまのところ破滅は先送りされていると言える状況だが、なにがが迫りつつある。
 作者の物語は始まったばかり。世界になにが起きるのか、馬鹿親(?)の画策したお見合いの行方は?
 次を楽しみに待つしかない。