第24話 雨の日②
私ね、前にも言ったと思うんですけど、昔は透明じゃなくて、ちゃんと見えてたんです。普通の人と同じように、お父さんとお母さんと一緒に暮らしていて、小学校にも通ってました。
でも、私、おとなしくて泣き虫だったから、クラスで苛めらるようになっちゃって。
仲間外れにされたり、悪口を言われたり。
本当に学校に行くのが辛かったです。
先生は見て見ぬ振りというか、子供のやってることだから大して気にしてないという感じでした。
...そのことは親にも話せませんでした。
お父さんはいつも家で怒っていて、少しでも気に触ることがあると、私やお母さんに暴力を振るう人でした。そんなお父さんには当然話せないし、お母さんにも余計な負担をかけさせたくないと思って、苛めのことは黙ってたんです。
お母さんだけは、唯一好きな人でした。
月に一度ほど、お父さんがいない時を見計らって、お母さんは私を外食に連れて行ってくれるんです。そのときが私にとって一番幸せな時間でした。
ある日の夜、お父さんに呼ばれてダイニングに行くと、頬を腫らしたお母さんが俯いて椅子に座っていて、テーブルの上には一枚の紙が置かれていました。
「こいつが不倫しやがった」
お父さんのその一言で、その紙が何なのか、子供ながらに理解できました。
お父さんとお母さんが別れたら、私はどっちに行くんだろう。
お母さんの方に行けば、もうお父さんとも会わなくていいのかな。
...そんなことを考えていたと思います。
でも、お父さんは次にこう言ったんです。
「不倫相手との子供もいるんだとよ。俺たち、裏切られたな」
嘲笑するお父さんの横で、お母さんは罪悪感に押しつぶされそうな顔で私を見てきました。
...お父さんの言葉を真に受けたわけじゃないけど、やっぱりショックで、目の前が真っ暗になりました。
お母さんにとって私はいらない子なんだって突き付けられたような気がしたんです。
私を保っていた唯一の心の糸が切れて、底に落ちていくようで。
息を吸うのも苦しくなって。
気づいたら、逃げるように外に出ていました。
それから、暗い夜の道をあてもなくひたすらに走りました。
もう、自分の居場所がなくなって、誰にも頼れなくて、この世界から消えてしまいたいって思ったんです。
街を出て、田んぼ道をしばらく歩いた後、森の中に入りました。森の中は怖かったけど、人のいる世界から離れられた気がして、少し安心もできました。
それで、またしばらく森の中を進んだところで、祠のようなものを見つけたんです。
石と木でできた、かなり古そうな祠だったと思います。
ちょうど体力の限界が来ていた私は、祠の横に座り込みました。
私、この先どうなるんだろう。
...別に、もう生きたくないし、死んでもいいや。
でも、どうやったら死ねるんだろう。
それでね、私、呟いたんです。
―—―神様、私をこの世界から消してください。
...朝日で目が覚めると、森の入口にいました。
驚きましたよ、自分の体が見えなくなってるんですから。
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