第49話 11:59

「――と、いう訳にはいかないのだよ」


 用意されたストレッチャーの上に乗せられた死体から声が響く。


「――なにっ!?」


 ゲームマスターは驚愕の声を上げ振り向くと、そこには横たわりながらも目をしっかりと開いた蓮の姿があった。

 息も絶え絶え、苦痛に表情をゆがめせていながらも力強い眼光はおおよそ先ほどまで死に体だったとは思わせない気迫があった。

 ゲームマスターは首を横に振り、


「そんなはずはない。確かに薬は抜いたがいくらか漏れた薬効で肺が使い物にならなくなっているはずだ」


「なるほどね」


 その一言を述べ、蓮は腹をよじって笑う。


「何がおかしい」


「おかしいのではないよ。言っただろう、『順調な時こそ大きな罠に嵌っていると思え』と」


「それは――」


 それは他の参加者に向けた言葉だろうと、言いかけてやめていた。


「何が起こったか、説明するならば魔女の毒でスマホのディスプレイの時間を二分だけ早めていたのさ。だから薬の成分が溶け出る前に君が抜き取ってしまった。あと少し待つか、ああ、ゲーム開始と終了時にアラームでもなるようにしていれば防げたことだね。割と不評だったそうだよ、その機能がないことは」


「私が……やったのか?」


「そうさ。君たちのルールは完璧だ。穴などないし、攻略するには想定外の方法で攻める必要がある。ちゃんと私はそういったのだけれどね」


 その時の相手をしていた人物は今ここにはいない。それを咎める者はいないが蓮の目は憐憫の想いが浮かんでいた。

 あとほんの数秒。たったそれだけで命運が別れた。震えながらも強く手を握るゲームマスターの姿に、蓮は安堵する。

 しかし、まだ終わったわけではない。


「ゲームの終了条件は生きて時間までにここに来ることだ。私の場合はどうなるか、その判断を下すのは君だよ」


 自身の非を認めるか。その選択を蓮は彼に任せることにしていた。

 ルールにのっとらない形での勝利だ。無効と言われても反論はできない。

 だから、


「……あぁ、了解した」


 風に流されて消えてしまいそうなほどか細い声が響く。耳につけているだろう無線から顧客が満足する形でゲームを収めるよう指示がされていることは明白だった。

 ひと際枯れたような印象を受けるゲームマスターは、ゆっくりと蓮に近寄っていた。そして、もう力の入らない腕をつかむと、


「おめでとう」


 固く、握手を交わしてた。

 ゲームは終わった。その一言が証拠となった。

 ……ああ。

 なんて、なんてあっけない終わりなのだろうか。勝利は胸を満たすものではなかった。まだだ、まだ足りないと、内臓の奥から暗い獣が騒ぎ立てる。

 しかし残念ながら、残された時間はとても少ない。


「……これで、おしまいか」


 青い空はどこまでも延びている。

 封印しよう。この思いは。夢を見よう。冷めない夢を。

 もう言葉も出ない。心臓は一度跳ねた後、次第に動きを悪くしていく。

 最後が苦痛ではなくてよかった。


 たのしかったよ、ありがとう。





 ゲーム終了。

 生存者……十一人。

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【完結】彼はデスゲームで最善の結果を求めるようです @jin511

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