新たな船出

城 龍太郎

新たな船出

 今日も帰りが遅くなってしまった。

 時刻は午後零時近く。八階建てのマンションの一室に着くと、チャイムを鳴らすこともなく、鞄から取り出した鍵で家に入る。

 ここしばらくはずっとこんな生活を繰り返しており、家に帰ってもどうにか最後の余力で、シャワーを浴びて、ベッドに倒れ込み、泥のように眠る。そして早朝に目を覚ませば、あわただしく支度をして出勤する。

 今の仕事は自分の好きなことと堂々と胸を張って言えるし、人間関係にも恵まれているという自覚はある。しかしそれでも体力には限りがあり、ようやく休めると思うと嬉しくて仕方ない。

 そんな中、疲れのせいもあって最初はなんとなく、あれ、電気つけっぱなしだったっけ。という程度のものであった。しかし徐々に自身の五感が活発化するのを感じた。そのせいか、鼻がムズムズして思わず大きなくしゃみが出る。

 家全体が私の帰りを出迎えてくれているかのように、玄関先まで灯りがともっている。靴棚の上にある、このマンションに引っ越してきたときに友人からもらった、傘付きのランプが煌々と光っていた。

 そして廊下の先にある奥の部屋では、何やらカチャカチャと金属が触れ合うような音が聞こえ、さらに言えばそちらから明らかにどこか香ばしくて良い匂いが漂ってきていた。

 私は疲れていたことも忘れ、恐る恐る足を忍ばせるようにして廊下を伝い、それからゆっくりと音を立てずに扉を開けた。

 そこは見慣れたリビングのはずであり、実際そうではあったのだが、その様相は普段とはまるで異なっていた。何の変哲もない丸脚のテーブルには、真っ赤なテーブルクロスが敷かれており、その上には豪勢な料理の数々と銀食器が並べられ、高級そうなワインボトルまでも置かれている。

「何、これ」

 私はその場で立ち尽くして、呆然とする。

「お帰り。今日もお仕事、お疲れ様」

 するとリビングのさらに奥にあるキッチンの方から、エプロンを付けた痩身の男が笑顔で出迎えてくれる。

「あなた、何やっているの」

 ほんの一瞬ばかし、錯覚しかけたが、そのエプロン姿の青年は、どこかのお洒落な料理店の店主などではなく、間違いなく彼女の夫であった。しかしその顔を確認してもなお、まだ目の前の光景が受け入れられていない。

「先にシャワーを浴びてきてもいいよ。料理は温め直せるからね」

「いや、そうじゃなくて。これは一体何かと聞いているのよ」

 私と夫は結婚して丁度三年ほどであり、決して仲が悪いわけでは無い。しかし、遅くに帰ってくると大抵の場合は、夫も仕事があり、朝は早いからと先にベッドに入って眠っていたし、仮に起きていたとしてもこんな大層な料理を作って待っていることなど今まで一度もなかった。そして何より、夫が料理をしているところなど、結婚して一緒に暮らすようになってから一度も見たことが無かった。

「百合子さん、明日から休みでしょ。料理をゆっくり楽しむ時間もあるかなと思って」

「この模様替えもその一環ってわけ?」

「食事って周りの景色や雰囲気もその一部と言っていいじゃない。だから、つい張り切ってしまってね」

 彼は楽しそうに答える。普段から真面目で堅いといわれがちな私と違って、緩い雰囲気を醸し出していて人懐っこく、思い付きで行動するところはあるが、それでもこんなに手の込んだサプライズをされたことは今までなかった。

「そもそもこの料理って本当にあなたが作ったものなの? デリバリーとかじゃないの」

 あまりに疑問が多すぎて、どうしても質問攻めのようになってしまう。

「違うよ。調理器具だって家のものを使ったよ。今しがた洗い終えたところさ」

 見れば、使った鍋などが綺麗に洗われて干されている。しかしそれだけで納得できるようなことではない。

「じゃあ、あなたはいつ料理を覚えたわけ」

「それは……最近だよ」

 そこで彼は口ごもった。

この料理や気取った調度品などが置かれて模様替えのなされた部屋に直面したときは面食らってしまっていたが、いつものちょっと頼りない反応をみると、私は少しずつ冷静さを取り戻していく。

「でも、あなただってこの時期は仕事で忙しいでしょ。料理を覚える暇なんてあったのかしら」

「まあまあ、いいじゃないか。とにかく食べてくれよ。きっと美味しいから」

「悪いけど、先にお風呂に入らせてもらうわ」

 そう言って私は風呂を沸かし直そうと操作盤の方に近づくが、「もう沸いているよ」と彼は言う。

「すぐに入ると思ったからさ」

「それはどうも」

 私はそこでもまた調子を狂わされながらも、ひとまずは早足で自室に向かった。



 普段ならシャワーだけで済ますところだが、ちょっと熱めの、私好みの温度に調節された風呂に浸かったところで、状況を整理する。

 私が帰ってきたら、豪勢な料理と共に夫が少し気持ち悪いほどに温かく、そして万全の体制で出迎えてくれた。普通に捉えれば、有難がるところだろう。私だって、他人の好意を無下にするのはどうかと思う。そう考えると、さっきの言い方や振る舞いはあまり良くなかったかもしれない。

 しかし私にも言わせてほしい。夫はこれまで料理を一切したことがなく、私が料理をするときに手伝ってくれたことはない。家事も私の方が比率的には明らかに多い。ただ、それは彼がかなりの不器用かつ不注意であり、一緒に暮らし始めたばかりの頃は、洗い物を任せたら食器を割り、洗濯物を畳めばぐちゃぐちゃで、部屋の掃除も細かいところがまるで綺麗になっていない。それから彼に頼むことはめっきり減ったが、それでも申し訳なさはあったようで、洗濯物などは綺麗に畳めるようになっていた。

 それを思えば、彼がその不器用さ、もしくはおっちょこちょいな部分を補い、料理の腕を磨けたとしても不思議ではないことなのかもしれない。最近は忙しくて家のことなどほとんど何もしていなかったので確信までは持てないが、料理をしたような形跡もなかったはずだ。

 そこまで考えたところで、大きな息を吐いた。

 身体が温まってきたこともあって、段々と張り詰めていた気が緩んでいくのを感じる。

 もしかしたら、少し疑り深くなり過ぎていたのかもしれない。風呂に入るまで、指輪を嵌めたままになっていることも気付かないほどに動揺していた。

これは全て自分のために準備してくれたささやかなサプライズであり、私が仕事で忙しくしていることもあって、気付かないところでこっそり上達して驚かせたかっただけだったのかもしれない。

 まだ料理を食べたわけではないが、彼が料理を出来るようになっていたとして、私にとって何ひとつ困ることは無く、むしろ大助かりだ。最近、仕事が忙しかったので買い物を頼むことはあったが、料理もしてくれるのであれば余計に任せやすくもなる。

 彼らしくは無いが、時にはこういったことがあっても良いだろう。

 彼女がそんな風に思い直してから、風呂桶の中で目一杯、足を伸ばそうとする。

 その時だった。

 突然、浴室の外でゴンッと扉に何かがぶつかったような音が聞こえた。丁度リラックスしたときだっただけに、驚いた拍子に足をつりかけてしまう。

 それからまもなくドタバタと慌ただしく駆けてくる足音が浴室のすぐ外までやってくる。

「何?」

「別に、なんでもないよ」

 彼はかなり狼狽した声色であった。

「なんでもないって、なんでもないわけないじゃない。凄い音だったわよ」

「ちょっと棚が倒れかけただけだよ」

「そんなに建て付けが悪かったかしら」

「模様替えのついでに触ったのさ。失敗しちゃったみたいだけど」

「ふうん」

 少なくとも浴室に入る前は、そんな様子は見受けられなかったし、扉にぶつかるような位置関係にはなかったはずだ。しかし先ほどの態度を反省していることもあって、それ以上は言及しなかった。

 それから夢現な気分でまどろみながら、しばらく湯船に浸かった後、風呂からあがった。

 その頃には先ほどのちょっとした出来事など忘れ去っていたつもりであったが、何気なく棚の方を見やったところで、ふとそこに煌めくものが床に落ちていることに気付く。

 しゃがんで良く見てみると、それが数本の毛のようなものであることに気付く。さほど長くはないが、金色に輝いており、それが黒髪の自分のものではないのは明らかであり、また夫のものでもない。

 さらにそこで、玄関の方でカチャリと今度は扉が開く音が聞こえる。そしてその後、そそくさとリビングの方に戻る足音も。それが夫の焦っているときのものであるのは、何年も一緒に暮らしていれば分かった。

 それから私は黙って浴室を出ると、洗面台の鏡で自分の顔を確認した。目が少し赤くなっている。そして何度か鼻をすすった。



「やあ、お帰り。遅かったね」

 彼はキッチンの戸棚を背にして、またしてもお帰りを口にするが、その声はどこか取り繕ったようなものであった。まるでお帰りと促されているような気さえしてくる。

「ねえ、この料理」

「なんだい。ああ、そうだ。言い忘れていたけど、良ければ僕も一緒に食べて良いかな。実は昼過ぎぐらいから、ずっと料理の仕込みをしていなくて何も食べていないんだ。それに、今日は同じテーブルに座りたくてさ」

「昼過ぎって、あなた。仕事をしている時間じゃないの」

 自分でも驚くほどに冷めた声であった。彼はそれを聞いて、当然しまったといった顔を見せる。

「ああ、えっと、今日は仕事が早く終わってさ」

「ついこの間、夕方頃に買い物を頼もうと電話した時、電車に乗っていたわよね。その時、こっちにも車内アナウンスが聞こえたけど、あなたが通勤で使わない路線だった。あなたはたまたま仕事で用があったと言っていたけど」

 彼はもうすでに手に持っているものを突き出すまでもないほどに狼狽えていた。自分が隠しているものが見つかるのではないかと今にも怯えているが、情けない顔で目に涙を浮かべているのは、きっと私なのだろう。

「私、怒ってないわよ」

「嘘だ。いや、僕が悪いのは分かっているけど」

「じゃあ何を悪いと思っているの?」

「それは」

 彼はこの期に及んでも、まだ喋るつもりはないらしい。そこで彼女は仕方なく、その顔を思い切りしかめながら、まるで汚物でも扱っているかのように、わざわざ風呂場の掃除に使うゴム手袋をはめた手に持っている金色の毛を見せた。

「これ、脱衣所に落ちていたけど」

「それは、あれだよ。僕の髪の毛さ。えーっと、染めたんだよね。でもすぐに似合わないと思って戻したんだ」

 そんな子供でも分かるような嘘をつくのは、颯爽とサプライズを仕掛けるようなスマートでキザな男とは程遠い、いつも通りに情けない彼の姿であった。

 私は無言で彼の方に近づいていく。

「あの、ちょっと待ってくれませんか。百合子さん」

 彼は背にしていた戸棚から一歩も動かずにしていたが、彼を無理やりにそこからどかせる。体格差はあるが、たとえそこにいるのが腑抜けた男ではなく銅像であったとしても、鋼のように固い決意を持っている今の私には関係ない。

「駄目だって」

 戸棚の一番下の段、最も広くて大きなスペースがある、その引き戸を勢いよく、自分という存在を知らしめるべく開け放った。

 いつも入っている鍋などは、料理に使われているため、そこに無いことは予め分かっていた。そしてその代わりに、そこには小さくも紫に金刺繍の入った小洒落た箱があった。

「だから、ちょっと待ってって言ったじゃないか」

 彼はやはり涙声で言う。

 私は彼とその箱を交互に見て、少ししてようやく理解が追い付くかとお思いきや、やはりまだ分からず、「説明を求めるわ」と緊張と口の一文字を解かずに言うのだった。


「少し前のことになるんだけど、会社で大規模な退職勧告が言い渡されたんだ」

 彼の話は唐突であったが、それでも私は驚かなかった。

「このところ不況でしょ。僕の勤めていた会社は大企業だったけど、もろにその煽りを受けているから、例外じゃなくてさ。相談しなかったのは本当に悪いと思っているんだよ。一応、ボーナス等カットで勤続を続ける道もあったわけだからね。僕ってほら、あんまり頼りがいがあるとはいえないけど、会社の人たちとは上手くやれていたし」

 彼の職場でのことはさほど知らないが、以前会社の付き合いでの食事会に一緒に行った時には、同僚や上司の方との関係は悪くなかったように見えた。それはひとえに彼のどこか放っておけない人たらしのような性格にあると思われる。それを証言する筆頭人物はもちろんこの私だ。

「今の仕事に不満があったわけじゃないけど、ちょうど良い機会だから、なにか新しいことに挑戦するのも悪くないかなって思ったんだよね。でも、そんなことはすぐに決められるものでもないし、百合子さんとも話し合いたかった。それで、まだ有休は十分にあったから一日休んで、ぶらつきながら考えをまとめようとしたんだ」

 彼は私だけを席に座らせ、神妙な顔で話していた。

「その時は、本とか他にも買いたいものがあったから電車で繁華街の方に足を伸ばしていたんだけど」

 買い物を頼むために電話したのは丁度その日だったようだ。

「それで、お昼はどうしようかなって悩んでいたところ、お料理教室に参加していたんだよね」

「急に話が飛んだわね」

 それまで押し黙っていた私であったが、つい口を挟んでしまう。

「百合子さんに言ったら、その、絶対良い顔をされないからさ。実は歩いていたところで猫を見かけてね、可愛いなって思わず立ち止まって眺めていたんだ。もちろん触るつもりはなかったんだよ。でもそうしたら、そこが丁度飲食店の前で、その店から白くて長い帽子を被った男の人が出てきたんだよ。あとで分かったけど、その猫はその人が飼っていて、勤務中は大体店の外で待たせているんだって」

 飲食店に猫を連れてくるのは衛生的にどうなのか、そもそも家猫であれば家に置いてくれば良いのではないかとも思ったが、話を遮らないように黙っておく。

「僕はてっきり勝手に猫に触ろうとしている不審者に勘違いされて怒られるかと思ったんだけど、そしたらその人は、『さっさと中に入れよ』って言って僕を店内に引き入れた。その時は、きっとこの人は僕のことをお客さんだと勘違いしているのだと思った。でも、僕が案内されたのはその小さな建物に入っているお店にしては、かなり広めの厨房でさ、僕もそこでさすがにちょっとおかしいなとは思ったんだけど、結局流れのままに、牛肉の赤ワイン煮込みを作ったんだ。もちろん、料理は素人以下の僕のことだから、当然失敗ばかりだったんだけど、その人はそんな僕にも根気よく付き合ってくれて、どうにか夕方頃にようやく完成したよ」

 彼は無邪気な笑顔を浮かべているが、当然のことながら、私はまだ話を呑み込めていない。ただ、すぐに彼は説明してくれる。

「それで、作ったものを食べ終えて片づけをしていたところで、なんで料理を作らされたのか聞いたんだ。そうしたらその人はちょっと驚いた様子を見せてからのちに、店の外、丁度猫が居た辺りの場所のすぐ横に設置されていた看板を持ってきたんだ。そこには『お料理教室、どなたでも歓迎、美味しいフレンチを作れるようになれます』って書いてあったよ」

 要するに、フレンチのお店の前で猫を眺めていたら、料理教室に参加しに来た人だと勘違いされたということらしい。

「しかもその後で、その人に明日からも来ればもっと上手くなれるって言われたんだ。平日の昼間だったせいか、どうも働いていない人だと思われたみたいでさ。僕はそこで自分のことを話したんだ。そうしたら、なんて言われたと思う? それならここで働けばいいだってさ。さすがにびっくりしたよ。でもそれと同時に、頭に電流が走ったかのようにビビッと来ちゃったんだよね。これが僕の新しい船出なんだってさ」

「だから、私に相談することもなく辞めたのね」

「それは本当に悪かったよ。でも、突然辞めるって言っても面食らっただろう。何より、僕が百合子さんを納得させられるとは思わなかったし」

 それは頭の固いと思われている自分が相手でなくとも、難しい話だろう。

「だったら、目に見える成果を披露するしかないでしょ。とはいっても、このサプライズも全部、師匠の入れ知恵だけどね。僕なんかじゃ、とてもこういうのは思いつかないから」

 彼は苦笑いを浮かべて言う。

「じゃあ、その箱は」

「ああ、たいした勤続年数でもないから退職金はそんなに出なかったけど、貯金と合わせて、改めて買ったんだよ。ほら、婚約指輪はそんなに高いものじゃなかったでしょ。だから、いつかちゃんとしたやつを渡さないといけないと思っていたんだ」

「だからって、なにも収入が減ったときに買わなくても」

 風呂では外していたが、大体いつでも身に付けており、今も左手薬指に嵌めてある。値段が高くない分、気兼ねなく付けられたので特に不満はなかった。

「いい機会だと思ってさ。それに、こっちは僕のアイデアだからね」

 どういうわけか彼は少し得意げになって言う。

 それまで気を張っていた私であったが、そんな彼の顔を見て、なんだか馬鹿らしくなってきて、思わず軽くふきだしてしまった。

「もう、しょうがないわね。仕事を何の相談もなく辞めたことに関しては、この料理がちゃんと美味しかったら許してあげるわ」

 そう言って私も、彼と同じテーブルにつく。すると彼の顔はぱっと華やいだ。

「もちろん、結構自信があるんだ。この牛すじ煮込みなんかは、特に時間をかけたんだよ」

「でもその前に」

 楽しそうに語りだす彼を私は止めた。

「さっきの物音だけど、あれって今どこに居るわけ?」

 私がうっかり食卓に落ちることがないように気を付けながらも、もう一度手にしていた金色の毛を見せた。

「えっと」

「これ以上、隠すつもり?」

 私が圧をかけると、ついに彼は観念して、「連れて帰るつもりはなかったんだよ」と吐いた。

「僕も鞄に入っていることに、帰りの電車まで気付かなくてさ、師匠に電話したら明日で良いって言うから、家に連れ帰ることにしたよ。今日は色々と準備をしないといけなかったから、引き返す時間が惜しくてさ。それに、大人しい性格だから大丈夫だと思ったんだ。いや、もちろんこのマンションがペット禁止であることは分かっているし、何より百合子さんが猫アレルギーだからね。でも、どうしても可愛くて」

「まったく、あなたってどうしてそうも抜けているのかしら。詰めが甘いというか、うっかりしているというか」

「ごめんよ。今は僕の部屋に居るよ。外に出しておこうかとも思ったけど、どこかに行ってしまったらそれこそ大変だからね。明日になったら連れて行くのはもちろん、家の中もちゃんと掃除し直すよ」

「掃除は私がやるわよ。あなたに任せるのは心配だから」

「いや、これでも料理ほどじゃないにしても、掃除だって出来るようになってきているんだよ。店では掃除も任されていてさ」

「もういいから、今日は疲れたわ。いい加減、ご飯を食べさせて頂戴」

 それから私は彼に期待と不安がない交ぜになった目を向けられながらも、彼の料理を口にしていく。すると本当にどれも美味しくて、そのことを話すと彼は満面の笑顔をみせた。その後は、二人で楽しく食事をとりながら、今後のことについて話し合った。その間もずっと、私の左手には、新しい指輪が小洒落た傘付きの照明に照らされ、きらりと輝いていたのだった。

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