異世界の奴隷商人、現実世界の基準だと超絶ホワイトらしい。異世界に奴隷を輸出しようと配信を始めたらなぜか神上司と崇められてバズってる件

水都 蓮(みなとれん)

第1話 何が人権だバカバカしい

 シャディーク王国の王都ラーハワパは高度な魔法文明によって発達した大陸随一の大都市である。


 ある日、王都の上空にどす黒い球体が発生した。

 まるで黒い太陽ともいうべきその球体は、異世界へのワープホールであった。


 なぜ、そんなものが出現したのか誰にもわからなかったが、ワープホールの向こうにあるニッポン王国との交流は、シャディークにさらなる発展をもたらした。


 大陸の交易網の要衝にあるために、様々な文化が融合して独自の国風が成り立っているシャディークは、ニッポンの文化を積極的に吸収したのだ。


 そして、シャディークには二つの革命が訪れる。


 一つ目は、異世界のジドウシャやデンシャと呼ばれる輸送機関に、我が国で開発した浮遊魔法を組み込むことで完成した、異世界を巻き込んだ大交易網だ。

 これは物流革命と呼ばれ、シャディークの経済発展は急加速した。


 そして二つ目は、ニッポンで用いられている情報通信技術と、シャディークの魔導技術、そして翻訳魔法を組み合わせて実現した、異世界間無線通信だ。


 これにより、シャディークで通信革命が起きたのはもちろんのこと、ニッポンとシャディークの二国に渡る巨大な異世界間配信サイト「ワロワロ動画」が完成したのだ。

 これによりニッポンとの文化的融合は、凄まじい速度で進んでいった。


 「フハハハハ、ついに時代が俺に追いついたようだ。異世界をまたぐ大通信網!! それを介した配信サイトの勃興!! この情報通信時代を制して、俺は大金持ちになるぞ!!」


 王都でひっそりと奴隷業を営む、ホワイト商会の会長アッシュは高笑いを浮かべていた。


「おい、カレン。配信機材の準備はできてるな?」

「もちろんでございます、アッシュ様」

「フッ、さすがお前は出来る奴隷だな」


 ニッポンで使われているパソコンと呼ばれる通信機器に、魔導的な機構を組み込んで発達させたのがこのマジックパソコンだ。

 これにマイクやカメラなど様々な機器を取り付ければ良いのだが、その辺りの諸々は省略しよう。


「配信については勉強してきた。なんとかさんじとか、なんとかライブとか見まくったし、SNSでデビュー告知をして事前に人も集めまくった。完璧なデビュー配信を披露してやろう」


 大いなる野望を秘めて、アッシュがニッポンに向けた初の配信を開始する。


「フハハハハハハ!!!! ごきげんようニッポン人の諸君。私はシャディーク王国で、ホワイト奴隷商会を経営するアッシュ・ホワイトだ!! 今日は、貴様らにとっておきの商品を紹介してやろう、商会だけにな」



:つまんね

:奴隷売買してるのにホワイト商会とかなんて皮肉

:なんか偉そうじゃね?

:でも、顔は可愛いな

:というか十五歳ぐらいか? めっちゃ、幼く見える



 高圧的で露悪的なアッシュの言動に、賛否半々といったところだ。

 少なくとも、視聴者数は悪くない。



「ええい、可愛いとか言うな!! それよりも、私は貴様らニッポン人に失望している。なにせ、人権だの人道主義だの自由主義だのくだらない思想にかぶれて、社会を発展させる機会をみすみす放棄したのだからな!!」



:なにいってんだこいつ

:これは炎上する予感

:中学生の時、俺こんなこと言ってたわ



「だが、今日はそんな貴様らに、良い商品を紹介してやろう。それは奴隷だ」



:奴隷?

:おいおいBANされるぞ

:さすが異世界人、平気で奴隷運用するとかやばすぎでしょ

:通報しました



「なんとでも言うがいい。貴様らがなんと言おうと、人類は労働から解放されることはありえん。ならば、我々のような高貴な者のために尽くす者が必要なのだ。来いカレン!!」


 アッシュが呼ぶと、メイド服をまとった銀髪の少女がやってくる。



:異世界美少女キター

:銀髪メイドとか裏山

:てかめちゃくちゃ可愛くね!?

:1000000000円出すわ



「黙れ!! カレンは私の最高傑作だ。売り物にするわけ無いだろう。それよりも、貴様らにはこのカレンがいかに優秀な奴隷であるかを教えてやる」

「よろしくお願いいたします。異世界の皆様」



:声可愛すぎ

:超タイプだわ

:アッシュいらね



「フン、下心を見せおって。良いか、カレンは非常に優秀な奴隷なんだぞ。炊事掃除洗濯、どれも文句一つ言わずに完璧にこなす、スーパー奴隷だぞ!!」



:夜の方は?

:当然、毎晩可愛がるんだよな

:こんなかわいい奴隷がいるとか羨ましすぎるタヒね



「…………は? 貴様ら何を言ってるんだ?」


 リスナーの下劣なコメントにアッシュがドン引きする。


「良いか。こいつは奴隷で貴重な労働力なんだぞ!! そんな虐待できるわけなかろう!!」



:…………え?

:こんなに可愛い奴隷なのに手を出してないのか?

:流れ変わったな



「待て待て待て。お前たち、奴隷をなにか勘違いしてないか? 面倒な労働を肩代わりする便利な存在で、決して慰みにするもんじゃないぞ!! それは、その……恋人を作って頼め!!」



:純情すぎワロタ

:童貞かな?

:奴隷商人って、ただのごっこ遊びか

:このコメントは削除されました



「ええい。貴様ら、私のことをバカにしているな。いかに俺が非道な奴隷商人なのか教えてやろう。まずこのカレンは、実に四時間に及ぶ労働を課せられている。四時間だぞ!!」



:……は?

:四時間……だと?

:流れ変わったな



「ふっ。恐ろしくて声も出ないか。だが、当然だ。所詮、こいつらは奴隷。俺の言うことには逆らえん。だからこそーー」



:異世界の奴隷、ホワイトすぎワロタ

:俺たちの労働時間の半分しかないんだが

:いや、残業あるから半分どころじゃないんだが

:二 十 四 時 間 戦 え ま す か ?



「は? 待て待て、お前ら何を言ってるんだ? 四時間だぞ? 一日の貴重な時間を四時間も取られるんだぞ? 睡眠時間も含めたら残り、十二時間しかないではないか!!」



:八時間も寝られて羨ましすぎる

:道理で肌がきれいなわけだ。俺は肌も内蔵もボロボロだよ

:もう一週間家に帰ってないわ



「な、お、お前たち……一体、どんな生活を送ってるんだ?」



:一日、十二時間労働とかデフォだが

:霞が関は眠らない

:なんならサービス残業だが



「サ、サービス残業? なんだそれは?」



:サビ残はサビ残だが

:給料の出ない残業

:残業するときは先にタイムカード切れって言われる



「え? え? タイムカード切ってから働くって、勤怠管理の意味なくないか?」



:正論でワロタ

:そりゃそうだよな

:異世界人ドン引きで草

:ちな、シャディークの奴隷の給料どれくらい?



「給料? 共通通貨で月五十万だな。加えて、衣食住と税金の支払いはすべて私が面倒見ている。まあ安月給でこき使っている以上はこれぐらいはな」



:は?

:超絶ホワイトすぎワロタ

:俺たち奴隷以下じゃん

:なんか働くのが馬鹿らしくなってきたわ



 アッシュはニッポンにおける労働状況を聞き、絶句する。


「長時間労働、サービス残業、年々上がっていく税金、パワハラ、仕事は増えても昇給しない給与システム、片道二時間の通勤時間……あ、あ……」


 アッシュが崩れ落ちると、それをカレンが支える。


「こんな……こんなんじゃ奴隷など売れない……」



:元気だして

:ホワイト商会、まじもんのホワイトで笑う

:僕も奴隷にしてください



 その日、異世界とニッポンの労働環境の差に絶望する。

 アッシュは奴隷が撤廃されたニッポンでは、労働者のコストがかさみ、経営者が苦慮しているだろうと考えていた。

 そのため、奴隷を売買すれば大儲けできると踏んでいた。


「アッシュ様、わたくしは果報者でございます」

「カレン……?」

「山賊に家族を殺され、性奴隷として売りさばかれようとしていた私を救ってくれたのはアッシュ様です。私に身の回りの世話を任せる代わりに衣食住の世話をして、給金まで出してくれました」

「ど、奴隷の生活を気にかけるのは主人として当然だろう!!」

「ですが、奴隷商人の中には、もっとひどい扱いを強いるものもおります。わたくしを見つけてくださったのがアッシュ様で本当に良かった」


 カレンがとびきりの笑顔を浮かべる。


:イイハナシダナー

:優良奴隷商人だったか

:ホワイト商会の奴隷にしてくれ



 その日、配信の視聴者は数十万人に達していた。

 奴隷をニッポンに売りつけるというアッシュの目論見は結果的に失敗したが、代わりにホワイト商会には多くのニッポン人が職を求めて押し寄せてきた。


 勤勉でおもてなしの精神に満ちたニッポン人は、異世界の労働の担い手として大いに歓迎され、アッシュはニッポンとシャディークの間で労働を斡旋する仲介業者として、巨万の富を築くのだが、それは別の話である。







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労働が嫌すぎて勢いで書いた短編です。仕事辞めたい……

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異世界の奴隷商人、現実世界の基準だと超絶ホワイトらしい。異世界に奴隷を輸出しようと配信を始めたらなぜか神上司と崇められてバズってる件 水都 蓮(みなとれん) @suito_ren

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