第24話

 しかし次の日の夜の8時を過ぎても、通信機は音が鳴らなかった。

 昨日明らかに体調が悪かったためそのせいかもしれないと思い、ランカはなるべく気にしないようにしながらも、なかなか夜寝付くことができなかった。


 私何か変な態度取ったかな……。

 もしかして嫌われたかも。


 そんな心配が頭の中をぐるぐると回りだす。結局朝方まで寝ることができず、ランカはぼんやりとした頭でようやく昼前に目を覚ました。

 外はとてもいい天気だというのにランカの心は晴れない。ファルトのことが気になって仕方ないのだ。


「今日の予定は……」

 そう口にしながらも碌に準備が進まない。今日は傷薬を作るつもりだったのに、実際に手に持っているのは回復薬の材料だ。

 ランカは自分の手に持っていた材料を見てテーブル突っ伏した。

 

「ダメだ」

 全く頭が働いていなかった。頭の中は、なぜ昨日ファルトが連絡を入れてこなかったかが気になってしかたなかった。テーブルに突っ伏したまま見える窓の外を見る。そこには青空が広がっており、色鮮やかな鳥が空へと飛んでいくところだった。

 しばらくそんな外をの様子を見てたが、ランカは意を決して席を立った。


 手に持っていた材料は元の場所にしまい、棚から1つ回復薬を取るとポイっと服のポケットに入れる。帽子は壁にかけ、外出用のローブだけ羽織ると家を出た。



 ランカは森を出るとブレスレットの中から、魔法道具の1つを取り出す。大きさはランカが腕を広げたぐらいの大きさで、オーバル型だ。半透明の白い板のようなそれは、ランカが魔力を込めると青白く光初めて一人でに空中に浮く。ランカはそれに上手く腰掛けると、その魔法道具は空高く舞い上がりランカを乗せて飛び始めた。

 

 これは移動用の空乗りと呼ばれる魔法道具なのだが、王都や魔法都市など人口の多い都市では使用が禁止されている道具だ。手軽で子供でも乗れるようなものなのだが、多くの人が乗ると空が人で溢れ危険な事故などがあり、随分昔に使用が禁止となった。ランカが住んでいるのは礎都市と言われる場所で、所謂田舎である。ここではまだ使用が禁止されていない。


「転移石は高いのよね……」

 そうポツリと言いながらランカは北へ向かって飛んでだ。


 ファルトは転移石をポンポンと使っていたが、あの魔法道具はものすごく高価だ。しかも使用は1個につき移動距離が決まっている。長く移動できるものほど高い。本来一般人にはあんなふうに使えるものではない。さすが国の仕事では違うらしい。

 ランカも仕事で王都へ行った際は、鉄道で行った。今回も魔法都市までついたらそれ以降は鉄道で行くしかない。ここで言う鉄道とは、魔力により金属製車両を浮かせてレール上を走るものである。長距離の移動は今でも結構使われる。他にも移動手段はあるが、一般的な乗り物だ。



 途中から鉄道に乗り、ランカは王都へたどり着いた。久しぶりと言っても数週間ぶりのため全く変わった様子がない。ただ、隣にファルトはいない。


 王都に来てみたものの、ここからどうするのかは何も決まっていなかった。ひとまず王宮の門前に来てみたが、仕事でもないため、王宮内に入る術さえへない。

 ただ荘厳な王宮を見上げることしかできず佇んだ。



 どれだけの間そうしていただろうか。

 ここへ来たものの、ファルトを尋ねる術がない。そんな自分は本当に何にもファルトについて知らないし、こんなんじゃ友達ですらないなと思った。悔しさに瞳の中が熱くなる。

 ぎゅっと拳を握ったところで、声をかけられた。


「ドミエの、魔女殿?」


 今日は帽子はかぶっていない。ローブを着ているが魔女用というわけでもなくごく一般的な格好をしているが、そう呼びかけられて思わず振り返る。

 するとそこには以前会った赤い髪の士官がいた。ファルトと同じ黒い士官のコートを来た男性が、両手に袋を抱えて立っている。

「ファルトの、先輩の士官の方……」

 名前が思い出せず微妙な呼びかけになる。本当に興味のないことを記憶しない自分の頭をどうにかしたい。それが伝わったのかもしれないが、赤髪の士官は嫌な顔一つせず笑顔をむけてくれた。


「やぁ、久しぶり。もしかして、ファルトの見舞い?」

 そう言われてランカは思わずその士官に詰め寄ってしまう。

「あ、あの!ファルトは体調がわるいんですか?!いつも連絡をくれる時間にくれなくて!ここに来てみたもののどうしていいか分からなくて……」

 ランカの言葉に目を見開いた士官は、驚きはしたもののその後なぜか持っていた紙袋の荷物を渡される。

 

「昨日から調子崩してて、これファルトに買った見舞いの品なんだけど、良かったらオレの代わりに持っていってくれないか?もうすぐ昼休み終わっちゃいそうでさ」

 目の前に出されたため思わず受け取ってしまったものの、ランカは王宮内に入る術がない。

「でも、私は中には」

 そういうとさらに顔の目の前に、赤いリボンのついた鍵を出される。これは士官たちの暮らす部屋の鍵だ。これが通行証代わりになるのは、この間学んだところだ。

「これ、ファルトの部屋の鍵。これはオレが仕事上のリーダーで預かってるやつなんだ。帰りは守衛に、ヴィザへ返却って言ってくれればオレに戻るから」

 さらに追加で鍵を受け取ってしまう。

「じゃあよろしくね」

 そう言うとヴィザはさっさと門を潜って行ってしまう。


 しばらく鍵と門を見比べていたが、ランカはぎゅっと赤いリボンのついた鍵を握りしめて門を潜った。鍵を見せると以前と変わらず門をくぐることを許された。


 すでに見知った王宮をランカは急足で歩く。ヴィザは見舞いだと言っていたということは、やはりファルトは連絡が入れられないほど体調を崩していたのだろう。見慣れた廊下を走り出しそうな勢いで歩きながら、曲がり角で男性陣の部屋が並ぶ方へ曲がる。

 鍵に書かれた番号を見て部屋の前にたどり着く。


 念の為数回ノックをしてみたが反応がない。ランカが扉に鍵を近づけるとその鍵に込められていた魔力で鍵が光る。おそらくファルトの魔力なのだろう、淡い赤い光が一瞬光ると扉の鍵が開いた。

 ランカはゆっくりと扉を引いて中に入った。


 あれ、なんだか、めっちゃ心臓がバクバクいってるような……。


 ここはファルトの部屋である。お見舞いと言われたが、よく考えればファルトに許可も得ず入っているのだ、急激に悪いことをしている気分になり回れ右をする。しかし手に持っている紙袋を思い出して、立ち止まる。


 いや、うん、頼まれたから、仕方ないね?……、ヴィザさんのせいにしよう。そうしよう。

 そんな悪い考えのもと、ランカはもう少し部屋の中へと足を進めた。

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