【超短編】誰が桃太郎を殺したか?

茄子色ミヤビ

【超短編】誰が桃太郎を殺したか?

「事件の関係者は全員集まったようじゃな…」

 1人の老婆が眼光鋭く辺りを見回す。

 鬼が島の海岸にはボロボロの小舟が1つ。

 それは爺さんと婆さん、そしてイヌ、サル、キジが乗ってきたものだ。

 彼らに相対し、岩にどしりと腰をおろすのは鬼の王。彼の近くには30名の様々な肌色をした鬼の部下が立っている。

「桃太郎を殺したのは、だれじゃ?」

 低く呟いた婆さんの殺気が籠る声は、この海岸全員にいた身体の底から震えあがらせた。


●第一の証人 お供の三人

「えぇか?嘘をつくとためにならんぞ?」

 婆さんは鬼の王の席を自分へ譲らせると、まずは彼ら三匹を目の前に並べた。

「わんわんわん…わん、わんわん、わんわん」

「ウッキーウキーウキ…」

「ケンケンケン」

「なるほどのぉ…自分たちは桃太郎と鬼が島に来て、鬼どもと戦っていた所までしか見ていないと…?」

「わんわんわん!!」

「キーキー!」

「そうかそうか…一旦イヌとサルは白にしよう。しかしキジよ?お前さんが何も見ておらんとはちとおかしくないか?」

「ケンケン」

「空を飛んでおったのじゃろう?なにか見えとったのではないか?」

「ケッ…ケンッ…」

「婆さん、キジが可愛そうじゃ…知らんと言うとるんじゃないのか?よく聞いてやれ」

「…ふん。次はお前らじゃ。並べ。」

 婆さんんはキジの細い首を離すと、次に鬼たちを前に並ばせた。


●第二の証人 部下の鬼たち

「あのな婆さん、桃太郎なんてのは」

「お前のような三下がなぜ呼び捨てにする?」

 婆さんは持っていた錆付きの大きなナタを腰から引き抜き、その背をトントンの掌に叩いてリズムをとる。

「し、失礼しました…あの、桃太郎さんという方は鬼が島に来ていませんよ?」

「そうですそうです!人間なんて来たの久しぶりですし…」

「なんじゃ…あの三匹が嘘ついてるっちゅうーんか?」

「ワンワン」

「キーキー」

「ケンケン」

「いや、嘘ついてるっていうか…」

「なんじゃ?」

「…なんでもないです」


●第三の証人 鬼の王

「なぁ、その物騒なものを納めてくれぬか?部下たちが怯えておる」

「ふん。ワシの勝手じゃ。そんなことより桃太郎を殺したのはお前か?」

「違うと言っただろ?部下も言っている通り人間が来たのは久しぶりなんだ」

「桃太郎を殺したのはお前か?」

「…我々は人間たちと国交を開こうと準備を進めているところよ。見ての通りこの島は作物が育ちにくい上に、仲間も増え最近では食糧も足りぬ。力で制圧しようとするのならば、お主たちの言葉なぞ覚える必要などないだろう?」

「…桃太郎を殺したのはお前か?」

 そう言って婆さんは例のナタで鬼の王に襲い掛かった。



 爺さんの前で地獄が広がっていた。

「せめてお前たちはお逃げ…」

 爺さんは、ただの三匹の動物の足枷を外しながらそう言った。

 キジは空を飛び、犬とサルは鬼が島のどこかに走り去っていった。

「じい様なにをする!折角の証人が!!」

「ばあ様、もういいんじゃ…もう…」

「むっ!!!!?」

 婆さんが鬼の首をまた1つぽーんと刎ねたところで、何かに気付き息を大きく吸い込んだ。

「ほら見たことか!あそこのボロボロの小舟は桃太郎のものじゃ!!桃太郎を!私の息子をどこにやった!!!出せーーーーーーーーー!」

 婆さんは流れてきた桃を切る際に使用し、中に居た赤子を殺めてしまった大きなナタを振り回しながら吠えた。







 

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