第26話 第3のゲーム

 医務室から戻ってきた島田を含めて、八人は互いを見やりながら、パートナー選びに頭を悩ませる。

 ゲームの内容が公表されていないので、何を基準に選べばいいのかが分からなかった。

 体を使うものなのか、頭を使うものなのか。

 それによって組みたい相手が変わってくる。

 また、長時間一緒に作業ができるかという点も重要だった。

 例えば、垣屋と大鷲は決定的に反りが合わない。

 スペックだけを見れば、お互いに足りない部分を補い合えるのだが、好悪の感情は全てを吹き飛ばしてしまう。

 無理に協力しようとしてもうまくいかないだろう。

 会長の発言によるパートナー選びが宣言されてから早々に篠崎大鷲のペアが成立した。

 それを見て内心、坂巻は篠崎と組まずに済んだことにほっとする。

 この主催者が本気でゲームを実施しているのは明らかだった。

 このペア戦が終われば、パートナーは再び競争相手になる。

 どうも篠崎は比較的背負っているとがが小さいようで、ぎらぎらとしたものを感じにくい。

 そんな相手と一度信頼関係を構築したうえで、蹴落としあう関係になるというのはできれば避けたかった。

 どうぜならクズと分かっている相手と一時的に休戦する方がまだマシだと判断している。

 そういう視点で、残りの五人を検討した。

 過去にやったことが分かっている勝俣以外は、その罪は詳らかにはなっていない。

 ただ、多数の犯罪者に接した経験から、おおよその背後関係は察していた。

 慎重に検討した結果、垣屋を選択する。

 垣屋と四宮は両方とも自分を利用しようとしていると感じてきたが、身体能力等は垣屋の方が優れていると判断した。

 それに、男性を軽蔑し嫌悪するところを隠しきれていないところが、切り捨てなければならなくなったときを考えると好ましい。

 そんな冷徹な判断に基づくものだと知らぬ垣屋は、自分の演技力と魅力で落とせたと勘違いをして満足した。

 一方で、競争に敗れた四宮は究極の選択に悩むことになる。

 客を取っていた経験があるので、ある程度は男の裏の顔が読めた。

 勝俣はバカだし、城井は顔がいいだけの女の敵、島田は見掛け倒しのうえ狂犬病に罹患しているかもしれない。

 制限時間ぎりぎりまで悩んだ。

 その三人はそれぞれの理由により自らは積極的に動かなかった。

 勝俣は自らの愚行が知れ渡って以降、世間からバッシングされた経験で人間不信になっている。

 城井は女は自分に寄ってくるものというプライドが崩れかけていたものの、この残りのメンバーなら四宮は自分を選ぶといううぬぼれがあった。

 そして、島田は狂犬病が発症するのではないかという恐怖によりそれどころではない。

 三人の男性から声をかければ、別の組み合わせが成立した可能性はある。

 しかし、実際には誰も自らパートナーを選ぶために動こうとはしなかった。

 結局、他の二人よりはコントロールしやすそうという目論見から、時間ギリギリに四宮は勝俣を選んだ。

 そのことを宣言すると、ロビーに姿を現した会長が組み分けを確認する。

「BI組、EH組、FJ組、KM組の四チームということでいいかね? まあ、時間切れなので変更は認めないがね。では、これから二日間、自由時間を与えよう。次のゲームに備えてお互いの理解を深めるもよし、心身のリフレッシュをするもよしだ」

 全員を代表するかのように大鷲が質問した。

「それで、ゲームの内容は?」

「チームごとに総当たり戦で将棋をしてもらう。最下位のチームが脱落だ。なお、勝敗数が同じチームが最下位の場合は直接対決で決定とする」

「負ければ死ぬと言われていても、ゲーム自体は地味だな」

「まあ、最後まで聞きたまえ。実際に将棋を指すのはペアのうちのどちらか一名だ。一局対局が終わるまでは変更できない。そして、競技をしていない方からはパートナーが失った駒に応じた血液を抜かせてもらうよ」

 歩の十ミリリットルから王将又は玉将の三百ミリリットルまで、それぞれ血を抜かれる量がモニターに表示される。

「勝負に勝てば抜いたものを全量戻す。負ければ廃棄だ。なお、パートナーが生きていなければゲームに参加できず、対局を始められなかったチームは自動的に失格とする。その場合は順位外だ。例えば、一つのチームの誰かが失血等で第三戦前に死亡した場合、次に進めるのは上位二チームの四名のみとなる。それと、王手がかかっている状態での投了は無効とさせてもらう」

 大鷲は考え込んだ。

 実は大鷲はかなり将棋が得意である。

 しかし、このルールは通常の指し方ができない。

 下手に飛車角などの大駒の交換はできないし、合い駒も慎重にする必要がある。

 そして、負けると最後に三百ミリという大量失血が控えていることも考えなければならなかった。

 場合によっては早期の投了も上手く使う必要があるかもしれない。

 勝てば自己輸血のような形で血液が戻るものの、その前に死亡してしまえばそれまでなので、そうならないように注意する必要もあった。

「各ペアに一台ずつラップトップを支給する。将棋ソフトが入っているのでお互いの棋力を測ったり、作戦を立てるのに使ってくれたまえ」

 各チームはロビーで離れ離れになり、お互いのペアと話をする。

 BI組は、共に素人レベルであることを知った。

 駒の動かし方は分かるし、二歩、打ち歩詰めの禁止などは理解しているが、初級設定のコンピュータ相手に五分五分程度である。

 EH組では篠崎は全く将棋のことが分からないと白状した。

「なので大鷲さんが指してください」

 この二人はお互いの本名を明かし合うまでの仲になっている。

「しかし、それでは篠崎さんが血を抜かれてしまう。体重の八パーセントが血液で、その五分の一程度を抜かれると身体に危険が及ぶ。体重の重い私の方が多く血を抜けるはずだ」

「でも、私は全く分かりません。負けるに決まっています」

 FJ組は、垣屋が素人レベル、坂巻はそれよりはマシという強さだった。

 KM組は、城井が意外な強さを見せる。

 翌日にはくじ引きで試合の順番が決定された。

 各チームは作戦を慎重に練る。

 最初の二戦は大勝ちすることもできない。

 Cが生きていれば、敵チームをすべて失血死させて、このゲームで勝負を決めようとした可能性はある。

 ただ、その作戦は非常にリスキーだった。

 最初に戦う相手のパートナーが死亡すれば、残りの二チームは、そのチームとの対戦において不戦勝になってしまう。しかも、不戦勝チームのパートナーはまったく失血していないので、次の試合で無理ができる公算が高かった。

 そこから導き出される最上の作戦は、自分の損害を抑えつつ、奇襲的に相手を倒すことを狙うものである。

 言うのは簡単だが、難しいかじ取りを各組の棋士は求められることになった。

 

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