第2話

 スタバにつくと、奥の席から茜ちゃんが手招きしていた。急いでキャラメルフラペチーノを頼んで席に座る。茜ちゃんが真ん中にiPadを置いて、何やら資料を出してくれた。

「じゃじゃん! 葵先輩が二次選考について何も知らないことを見越して、パワポにまとめてきました!!どうだ!」

 茜ちゃんの大げさな喋りに思わず吹き出しつつ、拍手をする。

「まず、この選考の趣旨はですね……」

 ポップな文字が躍るスライド資料のほかに原稿まで作ってきてくれたらしく、選考に関する説明はスルスルーと進んでいった。

 それから小一時間茜ちゃんが説明してくれたことによると、二次選考はとある島にある鏡館という建物で行われるらしい。夏休み期間に1週間ほかの候補者とそこで生活をして、適性検査を経て最終決定となる。島の様子はリアリティーショーとして事務所のYouTubeチャンネルで放映されるので、もし選ばれなかったとしても15万円の報酬が貰えるそうだ。

「ごめん、リアリティーショーってあんま良いイメージ無いんだけど.....、大丈夫なのかな?」

 一抹の不安がよぎり聞いてみる。それに素人の出演料にしては高くない?と続けると、茜ちゃんがどや顔で肩を小突いてきた。

「葵先輩ならそういうと思って!実はこれ、以前にも行われたことがあって、私その時の動画をみつけたんですよ」

 見ます?と言いながら茜ちゃんが動画を再生する。お洒落なラウンジのような場所の、150時間弱の動画だった。

「普通に一週間過ごしている動画でした。実際は誰も映ってないシーンも多いので、寝てたり各自の部屋で過ごしていたりするのかも。私たちの時も、プライベートは確保されるんじゃないかなー、と思ってます」

 まあ受かりたいんならなるべく出ろってことだと思いますけどねー、と困った顔で茜ちゃんが言う。私は甘すぎるフラペチーノを一気飲みして、ふむふむと頷く。部屋で本を読んでいていいなら気楽でありがたい。

「では、本番もどうぞよろしくお願いします。」

 突然茜ちゃんが大げさに頭を下げる。思わず私も、こちらこそ、と頭を下げる。姿勢を戻すと目が合って、二人で吹き出した。

「じゃあ、当日は東京駅待ち合わせで良いですか?一週間後、楽しみで今日から眠れないかも」

 茜ちゃんが言う。私たちはその後細かい打ち合わせを済ませ、ホクホクとした気持ちで家に帰った。


 オーディションがあんなことになるなんて、この時はまだ考えもしなかった。

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