幽霊屋敷の殺人

雨沢花名

第1話

 「アイドルオーディション、一緒に受けませんか?」

さして親しくもない後輩の茜ちゃんからとんでもないことを頼まれ、私以外の人に話しかけているのか? と辺りを見渡してしまった。どうやら私に話しかけているようだと分かってからも、新手の罰ゲームではないかと疑心暗鬼だった。

「葵先輩、めっちゃ顔整ってるから。確か頭も良いですよね。このアイドルオーディション、2人か3人で応募しなきゃなんです。選考も特殊で.....」

茜ちゃんが熱っぽく説明してくれる。どうやら本気で私に頼んでいるらしいが、ペアで受けなきゃいけないオーディションなんて本当に存在するのだろうか。茜ちゃんが出る分には応援するけど、実のところ自分が応募するのはあまり気乗りしていなかった。

「アイドルって。私すごい音痴だし、他にもクラスに可愛い子いっぱいいるでしょ」

角が立たないようやんわり断ると、茜ちゃんは得意げに言った。

「実は一次選考、写真とPRの文章だけなんです。私と葵先輩なら絶対合格できるんで」

茜ちゃんは、出しておきますね、と言って走って行ってしまった。私は、出してもどうせ受からないだろうと思い、その後すぐに忘れてしまった。


 2か月後、「にじいろカンパニー」なる怪しげな事務所から一次選考通過の連絡が来た時、私はオーディションのことなど端から忘れていた。「選考結果のご連絡」という件名を見たときは詐欺を疑ったくらいだ。何だったっけとしばらく考えたのち、茜ちゃんがアイドルグループのオーディションに応募していたことを思い出した。

 メールを読みながら、思わずため息をつく。二次選考のことは知らなかったけど、まさか泊りがけとは。初対面の人と喋ると挙動不審になってしまう陰キャ代表の私としては、参加したくない。とりあえず茜ちゃんに確認しようと思い、インスタを開いた。まだストーリーには上がっていない。いやあげちゃダメか。LINEで聞いてみることにした。

「茜ちゃん、選考結果のメール見た?」

二次選考行きたくないんだけど、と書いて消した。悩んで結局、喜んでいる熊のスタンプを送る。なぜ私は喜んでいるフリをしているのだろうと思いつつ、他のことをする気にもなれずネットサーフィンをしていると、茜ちゃんから返信が来た。

「見ましためっちゃ嬉しいです! やったー!!」

超絶単純人間な私は、茜ちゃんのテンションの高い返信を見ていると行ってもいいかもと思ってしまう。二次選考のことを聞く間もなく、茜ちゃんのメッセージが続く。

「あれ実は、1万人以上の応募から7人しか通ってないらしいです。二次選考どうしても行きたくて」

返信を見て、1万人中7人、という数字に驚愕した。クラスでも十番以内に入ったことがない私にとって、未知の確率である。そんなに高い倍率だったとは。それに通ったってことは、茜ちゃんは相当気合を入れてPRの文章を書いたのだろう。なんだか行かなくては悪い気がしてくる。夏の思い出作りだと思って参加しようか。どうしよ、行きたくないけどな、と考えていると茜ちゃんからさらにメッセージが届く。

「一生のお願いです、参加してくれませんか?」

私は迷いながらも、承諾した。

「わかった。力になれるかは分からないけど、一緒に頑張ろう!」

恐る恐る送信すると、OKというスタンプとともにメッセージが送られてくる。

「4時から駅前のスタバで作戦会議しません?」


 時計を見ると、3時40分。私は大急ぎで支度をして、駅までダッシュした。その頃にはちょっとだけ、自分が特別になれたような、ワクワクした気持ちになっていた。

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