幕間 アキラの故郷編

 秘宝を取り渡し終えた私たちは、ショウとマサムネが住んでいる村に来ていた。ショウとマサムネの村は猫耳族しか住んでいないらしく、歩いている人全員が猫耳族だった。私たちの村は木製の建物ばかりだったが、レンガ造りの家が何軒か並んでいる。

「ショウ!マサムネ!久しぶり」

「杏奈。久しぶりね」

 私はショウに抱きついた。ショウは嬉しそうに抱き返してくれる。マサムネはそれをじっと見ていた。

「杏奈のやつめ。ショウに抱かれて、ずるい」

「何に嫉妬してるんだよ」

 皐月がため息をついた。

「怪我は何ともなさそうだな」

 アキラがマサムネを見てそう言った。マサムネは腕を見せて、治ったぜと言った。マサムネの腕は元の色に戻り、包帯もしていなかった。傷跡は少し残っているけど。

「変な男の人に助けられたのよ。名前は聞きそびれたけども」

「そうなんだ。治ってよかったね!」

「ええ。杏奈たちは、秘宝を探せたの?」

 ショウは、私を見て、聞いてきた。私たちは、近くの木陰に腰を下ろし、秘宝を見つけた話をショウたちに話した。

「宇宙旅行!?」

 ショウとマサムネが同時に叫ぶ。

「そうなのよ。楽しそうでしょ?良かったら、一緒に行かない?」

「素敵な話だけど……私たちは良いわ。ね、マサムネ」

「そうだな。ここで金を稼がないといけないからな」

「そうなのね。また、遊びに来るから!」

「ええ。待ってるわ」

 私たちはショウとマサムネに別れを告げて、馬車に乗り、次の街へと向かうことにした。馬車の時間があるから、あまり話せなかったけど、ショウたちにまた会えて良かった!

 私たちは、宇宙旅行の出発点である東の街へ向かっていた。

「東の街はどんな所なのかしら!宇宙旅行も楽しみねー」

「姉さんはそればかりだな」

「仕方ないじゃない!初めてのことなんだから。皐月ももっと盛り上がりなさいよ!」

「まあ……楽しみだけども、姉さんほどはしゃいだりしないよ。そういえば、アキラ、さっきからずっと黙っててどうしたんだよ」

「いや、あのさ。実は、東の街は俺の故郷なんだよ」

「え!?」

 私と皐月は、驚き身を乗り出した。

「そんな驚かなくても良いだろ」

「もっと遠い所から来ているものだと思っていたわ」

「俺も。しかし、何でそんなに嫌そうなんだよ」

「嫌ってわけじゃないさ。帰るのが2年ぶりだから、少し気まずいだけだよ」

「2年ぶり!?」

 私と皐月はまたもや驚いてしまった。

「まあ、長く旅をしてたからな」

 それから、アキラはまた話さなくなってしまった。アキラは本当に自分のことをあまり話さない人だ。

 三日三晩、馬車は走り、東の街へと着いた。

 東の街は、以前いた街と同じく大きな壁に囲まれていた。大きな門を潜ると、色とりどりの建物がたくさん連なっていた。黄色に水色、オレンジ色の建物の隙間をまた色とりどりの人が歩いている。

「すごい。キレイな色」

「色の着いたレンガを作る職人がたくさんいるんだよ。建築に強い職人も大勢いて、安い家から高い家まで作られやすいんだ」

「へー!さすが、故郷なだけあって詳しいのね」

「そ、そうかな!杏奈、褒めてくれて嬉しいよ!」

 アキラは私の手を握ってきたので、振り払った。

 少しは元の調子に戻ったのかしら。

「まずは、アキラの家に行きましょうか」

「えっ?な、なんで?」

「なんでじゃないだろ。家族に会いに行かなくていいのかよ。2年も旅に出てたんだろ」

「そ、そうだけど、ほら、あの、うーん」

「何よ?」

「彼女を紹介するのって恥ずかしくないか?」

「誰が彼女よ」

「え?杏奈のことだよ?」

「違うわ!あんた、もしかして、それでずっと黙ってたの?」

「ああ、そうだよ」

 ああ、そうだよ!?何言ってんのこいつは!!心配して損したわ。

 皐月はため息をつき、呆れて物も言えないようだった。

 とにかく、私たちは恥ずかしがるアキラを連れて、アキラが指さす方向……アキラの実家へと行くことにした。

「お兄ちゃん!?」

 一人の女の子が、アキラに向かってそう言い放った。女の子は、アキラの服の袖を掴み、ぶんぶんと振り回す。

「リラ!元気だったか?」

「元気に決まってるでしょ!お兄ちゃん、2年も家を開けて!心配したんだから」

「ははは。ごめんな、心配かけて」

 アキラは、リラという妹なのか、女の子の頭を撫でた。

「それより、そのチビは何なのよ!」

「チビ!?私の事?」

 リラは、私のことを指さして、近づいてきた。

「そうよ。何よこのチビは!」

 リラは私より少し小さかった。そんな子にチビって言われる筋合いはない。

「誰がチビよ。あなたの方が小さいじゃない」

「きー!チビのくせに!お兄ちゃんに近づかないで!」

「別に好きで一緒にいる訳では……」

「杏奈!酷いじゃないか」

「あんたは、ややこしくなるから、話さないで!」

「えー!」

「お兄ちゃんに近づく女狐め……」

「誰が女狐よ。アキラが勝手に着いてきてるだけで」

「あんたみたいなチビにお兄ちゃんは渡さないんだからね!リラ、塾があるから!お兄ちゃん、あとで家に寄ってね!」

 リラはそう言い残し、別の道へと行ってしまった。

「誤解が生まれたわ」

「嵐のような子だったな。思い込みの激しさはアキラに似てるな」

「そうか?」

 私たちは、再びアキラの家へと向かうことにした。街の中心に行くほど、高さのある家が増えてきた。

「高い建物ね」

「2階建てくらいだな。ここは住宅街で、さっきまでいた所が商店街だな」

「2階建て!初めて見るわ」

 眺めていると、アキラが何かに気づいた。

「アメニオス!」

「兄ちゃん!?」

 私たちが先を行こうとした時に、アキラが金髪の少年に話しかけていた。彼はアキラを兄と呼んでいる。さっきも思ったけど、アキラって兄属性なのね。全然わからなかった。

「兄ちゃーん!」

 アメニオスと呼ばれた少年はアキラに飛びついた。

「久しぶり!久しぶり!兄ちゃん、背伸びたね!」

「アメニオスも大きくなったな」

「へへへ。兄ちゃん程じゃないよ」

「……アキラ、あなたお兄さんだったのね」

「ん?まあ、三兄弟の長男さ」

「兄ちゃん、この人、ガールフレンド?」

「そうさ!」

「違うわよ!」

 私はアキラの腹に肘で鉄拳を食らわせた。

「いたっ!」

「こっちは、ボーイフレンド?」

 アメニオスは、皐月を指さしていた。

「違う!」

 アキラと皐月は同時に叫んだ。

 アメニオスは、嬉しそうに笑い、アキラから離れた。

「母ちゃんが待ってるよ!行こう、兄ちゃん」

「ああ」


 何分か歩くと、先程の家々より大きな建物が並ぶ場所に出た。3階建てなのかしら。

「ここが、俺たちの家だよー。ガールフレンドさん」

「違うから」

「さあ、入るか」

 アキラは鍵を取り出し、扉を開けた。中に入ると、大きな壺が正面に置いてあった。

「あ、靴を脱ぐタイプの家だから、脱いで」

 アキラはそう言い、靴を脱いで整えた。私たちもそれに習い、靴を脱いだ。靴を脱いで家の中を歩く習慣がないから、すごく気になった。

「母さん、ただいま」

 中に入っていくと、豪華だと思われる家具がたくさん並んでいた。上質そうな生地でできたソファに、花が飾られたテーブル。ガラス扉のある棚には、水晶玉がたくさん飾られていた。

「おかえりなさい。アキラくん。そろそろ帰ってくる頃だと出ていたわ」

「そうでしょうね。さあ、杏奈、皐月。座って」

「お邪魔します。失礼します」

 私たちは促されるままにソファへと座った。

 アキラの母親は、私たちに対面して座り、アキラは横の1人がけのソファに座った。アメニオスは別の部屋へと行ってしまった。

「あなたがイヴ」

 アキラの母親が、私をイヴと呼んだ。

「あの、イヴとは何なのですか?」

「イヴはイヴです。あなたは間違いなくイヴ」

「やっぱり!俺は間違ってなかったんだな!やっぱり、杏奈はイヴなんだ」

 アキラは嬉しそうに言った。

「あの、意味がわからないのですが」

「いずれわかるでしょう。運命のままに生きなさい」

「は、はあ」

 アキラの家族って、アキラにそっくりで話を聞かないのか?

「また旅に出るのよね。アキラくん」

「そうですよ。2日後には出ます」

「それまでは家にいなさい」

「わかってますって」

「……ありがとう」

 アキラの母親は優しく微笑んでから、立ち上がった。

「お仕事の合間でしたので、私はこれで。アキラくん、客間に通してあげてね」

「はい」

 アキラの母親は、部屋の外へと出ていってしまった。結局、イヴが何なのかわからなかった。

「アキラ、イヴって何なの?」

「イヴはイヴさ」

「それがわからないんだけど」

「……実は俺もイヴが何者なのか知らない」

「え?」

「でも、杏奈に出会って確信したよ。運命の人だってな!」

「はあ!?何それ!?」

「さあ、部屋に案内するよ」

 何だか、またはぐらかされた気がするなと思いながら、部屋へと通されてしまった。


 次の日、私は1人で街を散策することにした。アキラは案内すると言っていたけど、無視して出ていった。皐月もついて行こうとしてきたけど、こっそり抜け出したのだ。

「あら、杏奈ちゃんじゃない」

 私は声をかけられて振り向くと、みずほさんがいた。

「みずほさん!なんで、ここに?」

「あら、新しい宝の情報を手に入れに、ここら辺で1番大きな街に来ただけよ」

「そうですか……」

「杏奈ちゃんは?」

「私は、宇宙旅行に行くためにここへ」

「あー!あれね。噂になっていたわ」

「あ!みずほさん、良かったら、行きませんか?」

 私はチケットを2枚出した。

「2枚、余ってるんです。良かったら誰かと」

「あら、ありがとう。もらえるものは、もらっとくわ」

「明日が出発日ですけど」

「そう。娘たちにあげようかしら」

「え?」

「近くの村に住んでるのよねー。明日なら間に合うわね」

「娘?」

「そうよー。私、シングルマザーなの。うふふ」

「え、ええーー!?」


 私はみずほさんと別れ、アキラの家に帰ってきた。帰ってくると、皐月がとても怒っていたけど。勝手に出歩くなとか、1人で誰かに絡まれたらどうするんだとか。治安も良さそうだし、大丈夫だと思ったんだもの。

「さあ、明日に向けて、買い出しにでも行くか?」

アキラがそう言った。

「そうね。せっかく金貨ももらったんだし、行きましょうか」

「私も行く!チビ女なんかと2人にさせないから!」

 リラが叫んで、アキラの腕に手を絡ませる。

「俺もいるんだけど」

 皐月が呟いた。

「アメニオスも行くよな。何か買ってやるよ」

 私たちは、金貨を3等分していた。アキラはいらないと言っていたけど、無理やり渡したのだ。

「わーい!兄ちゃんサイコー!」

「リラも欲しい!」

「もちろんだよ」

 この2人といる時はお兄さんみたいで、良いんだけどなー。

 私たちは、明日の旅行に向けての買い物へ行くことにした。

 明日の旅行から始まるたくさんの出来事に、思いを馳せながら。


キャット・トリップ・ワールド シーズン2へ続く

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【完結】キャット・トリップ・ワールド シーズン1 秘宝編 夜須香夜(やすかや) @subamiso

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