第6話

俺は騎士団長から呼び出され、報告を静かに聞いた。


今回の任務で、隊は敵を追い詰めメンバーの大半を捕縛したが、最後に悪足掻きをしたボスの自爆に複数人が巻き込まれた。



そして、部下を庇ってロルトが死亡したと・・・。



この遠征ではロルトを含む2名が死亡し、怪我人も多数でた。

翌日、2人の遺体と満身創痍の隊員たちが王都に戻ってきた。



俺は、ロルトの妻と一緒に隊の帰還を迎えた。


ボロボロのロルトを見て、ロルトの妻は静かに涙を流し、「まだ受け入れることはできない。しばらくは今後のことは考えられない」と言った。



俺は、あぁロルトも死んでしまったのか、としか思えなかった。




ロルトが抜けた中隊長の席は、俺がしばらく中隊長代理を務めることになった。

ロルトは日頃から仕事の大半を俺に手伝わせていたため、特に引き継ぎの必要もなく俺は中隊長代理を務めた。


まだ未成年のため正式な任命は俺が15になってから、それまでは魔術部隊の他の中隊長や騎士団団長がサポートに入ることになった。





ロルトの葬儀が行われて数日後、フェルゼン侯爵家から、ロルトに会いたいと連絡がきた。


俺は、ロルトは先日の任務で亡くなったこと、中隊長代理の自分が代わりに話を聞くことを手紙に書いて侯爵家の伝令に渡した。




指定された日にフェルゼン侯爵家を訪れると、俺を見た侯爵は驚愕し、侯爵夫人には号泣しながら抱きつかれた。


侯爵は、戸惑う俺を応接室に案内すると、ロルトからもらった手紙を見せてくれた。


ロルトが俺の親族を探していたことなど知らなかった。

しかも、伝えたことのない父ちゃんの名前を知っているようだし。



侯爵に、父母の名前を聞かれたので答えた。

父はウェスリーで母はリリーだと。形見の指輪を見せると、婦人はまた泣いた。



侯爵夫妻は父ちゃんの両親だった。

派閥の問題で父ちゃんと母ちゃんの結婚を認めることができず、駆け落ちした2人は行方知れず、音信不通となっていたそうだ。



その後、父ちゃんと母ちゃんのこと、戦争で敵兵が村に押し寄せて亡くなったこと、お腹の中の赤ちゃんも亡くなったと伝えた。


自分のことも話した。

村でロルトに拾われ、戦争に参加したこと、終戦後は王都に来て騎士団の寮に住んで魔術部隊に所属していること、今はロルトが抜けた後の中隊長代理を務めていることを話した。



しかし俺は、父ちゃんも母ちゃんも貴族だということ、目の前に祖父母がいることに動揺して魔力操作が乱れ、いつの間にか目の色が赤に戻ってしまっていた。



話が終わると、赤い目を持つ君を、ウェスリーの忘形見である君を、フェルゼン侯爵家の血を継ぐ君を、フェルゼン侯爵家の後継として引き取りたいと言われた。

侯爵家には今、後継がいないそうで、父ちゃんの弟が当主を継いでいたが、戦争で亡くなったため、この俺の祖父に当たる人が当主に戻っているのだとか。



戦争孤児となった俺の人生が大きく変わろうとしていた。




俺は騎士団の魔術部隊の中隊長代理をしているため、後継は難しいのではないかと言うと、領地は王都の隣で近いし、侯爵自身が歳のため、今は代官を置いて領地のことはほとんど任せているから問題ないと言われた。


普段侯爵は領地の邸に暮らし、今回は話をするため王都の邸に来たのだと言う。

後継となってくれるなら、王都のこの邸で一緒に暮らそうと言われた。



俺も、天涯孤独と思っていたところに祖父母が現れて、嬉しくないわけではない。

ロルトが俺の未来を案じて血縁者を探してくれていたこともあるし、了承した。



今日から邸に住んでもいいと言われたが、その日は寮に帰り、団長に話に行った。


ロルトは前から俺のことを団長に相談しており、任務へ行く前にもフェルゼン侯爵へ話を進めることを聞いていたそうだ。



そうだったのか・・・。



余談で、ウィルが3年前に天使か妖精に会った話も知ってると言って笑った。

森で天使か妖精が見つかったことを問題視して報告したわけではなく、俺が失踪した時に相談をしていて、俺が戻ってきたのでその報告のついでに話したようだ。


団長も天使か妖精がいるなら見たいと思って森に一度足を運んだらしい。しかし、ウサギしか見つからなかったとか。





寮はいつ出てもいいと言われた。

正式な中隊長任命までは団長がフォローするから、後継の勉強のために時間を使ってもいいとも言ってくれた。



翌日の勤務後に俺は邸に移った。

中隊の隊員にもフェルゼン侯爵家の後継になることと、邸に移り通いになるため、何かあれば伝令魔獣を邸まで飛ばすよう伝えた。



荷物は私服が少しと、騎士団の制服だけ。

中隊長室にお気に入りのカップや最近買った本などは置いてある。


俺は祖父の養子として迎えられた。


手続きは全て祖父が行ってくれた。



これから俺はウィルバート・フェルゼンとして生きていく。

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