第13話「神郷という男」

 電車が駅にとまった。乗客がぞろぞろと出てきて、改札口へと向かう。当然、俺たちは乗車券など持っていないので、車掌ロボットや駅員ロボットの目をくぐりぬけ、線路におりた。ホームからかなりはなれた場所の柵をまたぎ、ノアの街へ入る。

 高性能なAIならすぐに見とがめるかと思ったが、案外簡単に、駅から脱出しノアのメインストリートへくりだすことができた。ひょっとするとこのルートが、〈ドラゴンサーチャー〉における正規ルートなのかもしれない。

「そういえば、〈ドラゴンサーチャー〉の正規ルートはひとつじゃないって、デザイナーが言ってたなあ」三上さんが言った。「いくつものルートで攻略を楽しんでほしいから、一本道はやめたって」

「そいつは助かる」俺は言った。「こっちの工夫のしがいがある」

 俺たちはメインストリートを、人をよけながら歩きはじめた。神郷グループという超巨大企業のお膝元というぐらいだから、もっとスマートな都市を想像していたのだが、実物は雑然としていた。

 両脇には日々のこまごましたものを買える店が並び、店にはさまれるように露店まである。「武器」や「防具」と書かれた看板があるところに、ゲームらしさを感じる。

 空中に目を向けると、立体映像がふわふわと浮いていた。「最新ファッションが今ここに!」「一泊お安くしときますよ!」「最新ゲーム発売中」といった看板や、妖精のようなかわいらしい立体映像がパフォーマンスをくり広げ、人々の目を楽しませ、街に彩りをそえていた。

「PVでちらっと見たグラフィックも凄かったけど」俺は言った。「実物はさらに凄いな。本当にSFの世界に来た感じだ」

「〈トーキョーネオ〉もSFだけど、さすがに〈ドラゴンサーチャー〉にはかなわないね」三上さんが言った。「さすがは大手ゲームメーカー」

「SFなおかげで、助かってる部分もあるね」西条は言った。「私たちの私服、全然目立ってない」

 たしかに、モヒカン頭やけばけばしい洋服を着た女性などと比べると、俺たちの私服は地味すぎてまるで目立たない。俺が持っている剣に目を向ける者はいるが、その程度だ。

「見て、あれ」三上さんが指さした。

 そちらに目を向けると、夜の闇の中に、何かが屹立していた。ノアの中心部、外観は城のように見えるが、こまかな部分は闇に溶けてしまっていてわからない。

「神郷グループの本社ね」西条が言った。「PVにも映ってたけど堂々と社屋を構えてるわね。ま、当然といえば当然よね。ここは神郷グループのお膝元なんだから」

「あそこに乗りこまないといけないのか」俺は暗澹たる気分になった。

 ここがゲームの世界で、俺たちがプレイヤーである以上、普通の人間よりは強い力を与えられているのは間違いない。能力値などを確認できるわけではないが、剣を握ったときの感覚から、その点にかんしては確信が持てた。

 しかし、俺たちの精神構造はいたって普通の高校生だ。いくら身体面で強くなっても、あんな「悪の居城」みたいなところへ突撃する勇気を出すのは骨が折れる。

「まあ、その前にやることがあるけどね」

 西条が言うと「ですね」と三上さんが同意した。

 さっきから思っていたのだが、この二人、意外と通じあっている。やはり、同じRTA走者だからだろうか。

 どうするんだ、と訊く前に、西条と三上さんは手近な武器屋に入ってしまった。

 武器屋はせまいスペースに、剣や棍棒、ナイフなどの近接武器のほかに、拳銃やライフルなどの近代兵器も並べていた。

「長山、剣出して」

「どうするんだ?」

「すいませーん」

 西条が声を張りあげると、奥から中年の男が現れた。「何だい、嬢ちゃん。護身用の武器でもほしいのかい?」

「それもあるけど、まず、これ買ってもらえないかな」

 西条が俺の剣をカウンターに置いたので、俺はあわてた。

「ちょ、ちょっと待てよ西条!」

「何よ、どうしたの?」

「それ、俺の剣……」

「換金して、全員ぶんの装備を買うのよ」西条は当然のように言った。「あんただけ武装してても仕方ないじゃない」

「でも……一回も使ってないのに……見せ場だって言ってたのに……試し切り……」俺はぼそぼそと文句を口にしたが、西条の正論にはかなわなかった。

 武器屋のおじさんは電車内で見つけた剣を抜き、刀身を見て目を見開いた。「こいつはまた凄いもん見つけたな」

「何かあるの?」西条がたずねた。

「この剣、刀身が守護竜の鱗でできてやがる」おじさんは言った。「守護竜の鱗は透けるほど薄い。だが、その強度はありとあらゆる金属を凌駕する。本当に買い取っていいのかい?」

「どうぞどうぞ。その代わり、私たちに武器を見繕ってよ」

 俺と三上さんは、おじさんが査定しているあいだ、店の中を見てまわっていた。

「変な感じだな。拳銃やこの……熱線銃っていうの? こういうのといっしょに、剣やナイフとかの旧時代の武器が売ってるなんて」売れるのだろうかと疑問に思う。〈トーキョーネオ〉は同じSFでも、剣などはなく、ナイフは予備武器でしかなかった。

「〈ドラゴンサーチャー〉はSFファンタジーだからね」三上さんが言った。「街の外へ出れば、拳銃や熱線銃が通用しない怪物もいるから、特殊な製法で作った近接武器が必要になるのよ」

「へえ」

「それに、ウォーリアにも銃弾や熱線、レーザーが通用しない。だからウォーリアと戦うには近接武器に頼るしかないのよ」

「そういやゲーム画面でも、ウォーリアと戦う敵は、みんな近接武器で戦ってて変な感じだったな」俺は言った。

「薬で強化したり遺伝子操作されたりした戦士だから、て設定しか知らないけど。まあ、ゲームだしね」三上さんは言った。

 ねえ、と声をかけられ、俺と三上さんは振り返った。「ちょっと来て」西条は言った。

 カウンターには脇差のように短い剣と長い剣、熱線銃が二丁、置いてあった。武器屋のおじさんは奥に引っこんでいた。

「ここから先、私たちはウォーリアと戦うことになると思う。だから、近接武器は絶対に必要になる」西条は小声で言った。「剣を持つ人はウォーリアと戦ってもらわないといけない。熱線銃を持つ人は、神郷を倒す」

「……で?」

 西条はこたえない。表情は強張り、黙って武器を見おろしていた。

 ああ、そういうことか。

 西条はおそれているのだ。人間と戦うことを。

 これまで、〈ファイナルブレイド7〉でも〈エルダーリング〉でも、敵は怪物だった。〈トーキョーネオ〉では無人兵器であり、人間は乗っていなかった。その戦い自体も、チャートによって可能な限りカットされた。

 だが、今の俺たちにチャートはない。いつどこで、敵と遭遇するかわからない。おまけに、今度の相手は怪物などではなく、人間だ。

「西条」俺も小声で言った。「俺たちは力を合わせて、神郷を倒さないといけない。だが、剣と銃を同時にあつかうような器用なことはできない」

 俺は剣を手に取った。

「露払いは俺がする。お前は神郷だけを倒せ。それ以上、手を血で汚す必要はない」

 西条はかたい表情のまま、うつむいている。カウンターに載せた手に、三上さんの手が重なった。

「私もやる」熱線銃を手に取る。「西条さん、任せて。やるから」

「ごめん」しぼりだすように西条は言った。「ゲームだと思ってたのに、こんなところでおじけづいて」

「仕方ないさ」俺は肩をすくめた。「こんなにリアルなゲームは、存在しない」


 俺たちは武器屋を出ると、メインストリートを歩く人々の流れに乗って、神郷グループ本社を目指した。走りたいところだったが、これだけ人がいてはそうもいかない。かといって、ショートカットできる道を知っているわけでもない。やはり、チャートは偉大だ。西条と三上さん、そして世界中のRTA走者には感服する。

「待て」俺は西条と三上さんを引っ張った。「あれ警察じゃないか」

 俺の視線の先に、防弾ベストを着た男が二人、タブレット端末を見ながら話しをしていた。警察だと思ったのは、日本の警察官に服装がよく似ていたからだ。

「かんちがいならいいんだが」

「ううん、神郷のことだから、私たちを探してるかもしれない。こっちの世界へ呼んだ以上、私たちが神郷のもとへ行こうとしていることは読んでると思うし」西条は言った。

「あっちにも広い通りがあるみたい」三上さんが路地を指さした。「一本向こうの通りに行かない?」

 俺たちは路地に駆けこんだ。人が二人並んで歩ける程度の幅しかなく、視界も悪い。四十メートルほど先の通りが明るいせいで、路地の暗さが際立っている。

 走り抜けようとした足がとまった。

「何だ、これ」俺はつぶやいた。

 路地には子供が大勢いた。地べたに座りこんでいたり、木箱に腰かけたりしている。みんなボロを着て、髪も整えられていない。一目で浮浪者の子供たちだということがわかる。

 しかし妙なことに、全員が真新しいタブレット端末を持っていた。地球ならば十万円以上はしそうなものだ。子供たちは熱心に端末を操作しているかと思えば「これ、どうしたらいいの?」「これはね……」などと、何かを教えあっている。

「何してるのかな」三上さんが小声で訊いてきた。

「さあ……でも、今はかかわってる時間は」

「ねえ、何してるの?」

 西条が近くの子供に話しかけたので、俺は引っくり返りそうになった。西条の首根っこをぐいっと引っ張り、

「今は時間が惜しいんだろ!?」

「そうだけど、情報も必要じゃない? チャートがないんだから」

「それはそうだが、こんな子供たちの話を聞いてどうするんだっ」

「だって、明らかに変じゃない。ゲームにおいて、変なところは、デザイナーからのヒントなのよ」

 そこまで言いきられると、俺は何も言えなかった。

 声をかけられた子供……髪は長いがたぶん男の子だろう……は不思議そうな顔をして、「お姉ちゃんたち、誰?」

「ん? 誰って言われると、そうね」西条はにっこり笑った。「悪者をこらしめる正義の味方?」

「へえ、そうなんだ。凄いね」

「で、何してるの?」

「算数の勉強」男の子が言った。「AIに解き方を教わったんだけど、よくわかんないからお姉ちゃんに訊いてた」

「こら、知らない人と話しちゃ駄目でしょ」隣に座っていた女の子が男の子をたしなめた。

「そっか、タブレット端末で勉強してるんだ。偉いね。でも、みんな同じものを持ってるみたいだけど、どうして?」西条がたずねた。

「配ってくれてるんだよ。僕たちみたいな貧乏人は、高い機械なんて買えないから」

「誰が配ってくれるの?」

「んとね」男の子は立ちあがり空を見たが、目的のものが見つからなかったのか「あっちの方にある会社の、社長さん」と壁を指さした。

 俺たちは指さした方向に何があるか知っている。神郷グループの本社だ。

「神郷グループのCEOが、私たちに勉強の機会を与えてくれてるの」女の子が言った。「いつか必ず役に立つから、勉強はしなさいって」

 俺たちは顔を見合わせた。CEO神郷が家のない子供たちの支援をしている?

「冗談でしょ」西条は言った。

 かんかんかん、と高い音が鳴り響いた。子供たちは端末から顔をあげ、立ちあがった。

「ごはんの時間だ!」

 子供たちは俺たちが向かっていた大通りに向かっていっせいに走りだした。

 俺たちがおくれて大通りに飛びだすと、巨大なトレーラーが一台、大通りの一角を占拠していた。カレーのいいにおいがあたりに漂っている。そのにおいに吸い寄せられたかのように、子供や大人がトレーラーに集まっている。みんな、裕福な人間には見えなかった。

「あの、すいません」俺は近くを歩いていた人をつかまえた。「あれは何ですか?」

「神郷グループの炊きだしだよ」通行人は言った。「一日に二回、お金のない人に食事を配ってるんだ」

「神郷グループが?」

「ああ。神郷グループは貧しい人への支援に熱心でね、教育を受けさせたり、寝床を提供したりしてるんだ」

 俺たちは黙ってトレーラーの方を見つめた。子供も大人もおいしそうにカレーをほうばっている。おかわりは自由らしく、二杯も三杯も食べる者もいた。

「何で神郷がこんなことを」三上さんがつぶやいた。「聞いてない」

「ゲームが進んだら、明かされる事実だったのかもね」西条が言った。「向こうにも向こうの事情がある」

「それでも、俺たちのやることに変わりはない」俺はぱしん、と手の平に拳を打ちつけた。「神郷をぶっ倒して地球を救う」

 そう言った途端、俺の腹が鳴った。

「おい、そこの兄ちゃん」カレーを配っていた若い男が言った。「腹減ってんだろ? 遠慮せずに食っていけよ」

 最後に食事をとったのは何時間前だったか。今ごろ、地球では俺たちがいなくなったことで大騒ぎになっているかもしれない。カレーなど食べている場合ではないのだが……。

「うまいなあ」俺はスプーンを動かす手をとめられずにつぶやいた。「勇ましいこと言ったあとにコレ、っていうのも情けない話だが」

「食べないと生きていけないのよねえ」三上さんが夜空を見あげながら言った。

「ま、まあ気にしない方がいいって」西条が励ました。

 三者三様の感想を述べていると、恰幅のいいおばさんが近づいてきた。

「あんたたち、見かけない子だね。ノアへ来たばかりかい?」

「あ、はい、まあ」俺は言った。

「今晩、泊まるところは?」

「いや、決めてないです……」

「じゃあうちに泊まっていきなよ。大丈夫、金なんてとらないさ」

「それってまさか」

「そう」おばさんは軽くウィンクをした。「神郷グループが経営する宿だよ」


 広い部屋に、二段ベッドがいくつも並んでいる。おばさんに誘われた宿は建物自体は簡素なものだが造りはしっかりしていた。ベッドも真新しいものではなかったが、シーツは清潔に保たれていた。

 上使うね、と真っ先に梯子をのぼっていった西条を見て、「馬鹿と煙」と言いかけたが、どうにかおさえこんだ。

「……何なんだろうね」三上さんが向かいのベッドに腰かけ、つぶやいている。「どう見ても悪い人じゃないよね、CEO神郷」

「うん、俺もそう思う」

「倒しちゃっていいの? そんなことしたら、子供たちや貧しい人たちが困るんじゃない?」

 三上さんの言うとおりだ。俺たちは本当に神郷を倒してしまっていいのだろうか。地球人にとってはよくても、子供たちは困ったことになってしまうのではないか?

「本当に神郷は、〈ドラゴンサーチャー〉のラスボスなんだろうか」俺は言った。「他にラスボスがいるんじゃないのか?」

「他にいたとしても、地球人を滅ぼそうとしているのは神郷よ」西条が上からひょっこりと顔を出した。「枕の下にこんなのがはさんであったんだけど、読む?」と、雑誌を一冊取りだした。

 こんなSF世界でも紙の雑誌は健在なんだなと思いつつ、俺は雑誌をぱらぱらとめくった。経済雑誌らしく、神郷がインタビューを受けている回のものであった。誰かが何度も読んだのか、ページの端がすりきれている。

 雑誌には神郷の生い立ちについて書かれていた。神郷グループを作った、前CEO神郷は、ひとり息子を亡くし、後継ぎとなる子供を探していた。そんなとき、偶然ある孤児と出会い、養子にする。前CEO神郷没後、孤児は自らCEO神郷を名乗り、神郷グループをおさめるに至る。

 CEO神郷は経営面で辣腕をふるうだけではなく、孤児や貧しい子供たち、貧しい人たちに惜しみなく援助を行った。タブレット端末を配り、食事と寝床を与え、いずれひとり立ちができるよう、気を配った。

 成長した子供たちや貧しかった人たちが、神郷グループで働くとは限らない。ただ、今よりもましな生活ができるようになればそれで十分だと神郷は語る。すべては、自分のような貧しい孤児をなくすための行動であった。

「悪い奴じゃないんだな」俺はつぶやいた。

 窓から見える、城のような神郷グループ本社。「悪の居城」と評したが、はたしてそれは正しかったのか。本当に悪いのは、誰なのか。

「転送装置を破壊するだけじゃ駄目なのかな」三上さんが言った。「地球に来られなくなれば、神郷もあきらめるんじゃ」

「それは最悪の手段。どうせ作りなおされるから、時間稼ぎにしかならない」西条はにべもない。「神郷は地球人を憎んでる。自分たちを殺そうとする人間を憎んでる。あきらめるはずがない」

「ずっと気になってたんだが」俺は言った。「〈ドラゴンサーチャー〉はひとつじゃない。何万本も売られている。なのに、神郷はひとりだけ。どういうことなんだ?」

 たぶんだけど、と西条は前置き、「並行世界なんじゃないかと思う」

「並行世界?」

「たとえば、百本の〈ドラゴンサーチャー〉を百人がプレイしたとするでしょ。神郷を倒すところまで進める人もいれば、途中であきらめる人もいる。それらすべての結末が、ひとりの神郷に集まってるんじゃないかと思う。神郷は自分が殺される結末も感じていれば、自分のもとまでたどりつけず倒れるプレイヤーの存在も感じているってこと」

「じゃあ、俺たちがいるこの世界は何なんだ? 戯れの世界を行き来する転送装置なんてものが〈ドラゴンサーチャー〉に出てくるとは思えない。でも、この世界の神郷は作ってる。他の〈ドラゴンサーチャー〉に影響はないのか?」

「影響が出るかどうかはわからないけど、こう考えられないかな」西条は言った。「百本の〈ドラゴンサーチャー〉のうち、九十九本は機械で、一本だけが本物の人間なの。その一本がゲームを作り変えている。まるで、バグを取り除いてよりよいゲームにしようとするかのように」

「大量生産したせいで、イレギュラーが発生したようなものか」この場合、バグと呼んだ方がいいのか。「ひょっとすると、本物の人間が動いているというバグのある〈ドラゴンサーチャー〉が、地球人を取りこんだのかな」

「生物的には、突然変異なのかもしれない」西条は言った。「ほうっておくと、他の〈ドラゴンサーチャー〉にまで影響をおよぼすかもしれない。そのへんについては、実験してみないとわからないけど」

「ねえ、ということは、だよ」三上さんが不安そうに言った。「私たち、知らないうちに『本物の人間』を殺してたってこと? ゲームのつもりで」

 俺たちは黙りこんだ。三上さんの言ったことは、俺たちが考えないようにしていたことでもあった。

 〈幕末龍神伝〉で、クリカラの龍は自分たちのいる世界を「本物」だと言った。それは自分たちがその世界に生きる者で、決して機械やプログラムなどではないという意味ではないのか。

 俺たちは子供のころから言われている。「フィクションと現実をごっちゃにするな」と。だからゲームの世界では、現実ではできないことを思う存分やってきた。どんな残酷なことでも、ゲームの世界なら許された。

 だが、今やフィクションと現実の境目は曖昧になるどころか、なくなりつつある。神郷が転送装置を完成させ、地球へなだれこんできたとき、俺たちはどれほどの制裁を受けるのか。

 俺は立ちあがった。「行こう」

 西条と三上さんが俺を見あげた。

「神郷がどれほどいい奴だろうと、地球人を滅ぼそうとする奴を野放しにはできない」

 できることなら、こんな役回り、誰かに代わってほしい。警察や自衛隊が乗りこめるなら、すべて任せてしまいたいぐらいだ。

 だが、今この事態を知り、動くことができるのは俺たちだけだ。いやおうなしに、俺たちがやらなければならないのだ。

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