第7話 4月の6「体験入部(ネットワークインフラストラクチャ)」

 クラブに入らないという選択肢もあったが、それよりも嫌われる可能性が少しでも高いならば、と、4月中の体験入部期間中にもういくつか見に行きたいとは考えていた。


「なあ、あのクラスタなんとかシステム、どうにかならんかな」

「それがですね」

 休み時間に話しかけると、倉田は用意していたらしい学園のクラブ名一覧表をタブレットに映して見せてくる。

「今日、僕が体験入部に行こうと思っているクラブなんですけど、どうもこのクラブは、どこともつながっていないみたいなんですよ」


 この前見せてもらった、クラブのジャンルが似てるようなのが、線でつながっているあれに切り替えてもらう。確かにそれは一つだけ、浮いているように見えた。そのクラブの名前は……



「……ようこそ……ネットワークインフラストラクチャクラブ、略してへ……」



 副担任の小柴先生が顧問をつとめる、インフラ部(略)だった。俺たちは職員室の横にある部室のドアの前にいた。ICカードが無いと開かない扉が、少々ものものしい。


「このクラブ、シーシーエヌエー部とか、低レイヤー部、シーサート部、あるいはスカジー部とか、クラスターでつながっていてもおかしくないと思うんですが、何かあるんですか?」

 倉田がさっそく質問した。どれもインフラ部(略)とは何らかの関連がありそうだと言っていたものだ。俺には専門用語すぎてわからないが。

「それは……ガバナンスの……ためです……」

 小柴先生は小さな声で答える。ガバナンスってなんだろ。あとでタブレットの辞書をひいてみるか。(学園には、学校中では疑問があってもググるのと、チャットAIに授業の問題を解かせるのはダメという謎の校則があった。)


「学園のインターネットネットワークシステムを担っている……からです……」

「すごい!!」

 おそらくその言葉ガバナンスの意味を知っているらしい倉田は感心している。

「それでは……どうぞ」

 小柴先生は俺たちにゲストカードというICカードを渡してくれた。ピッと入り口にかざすと、自動ドアが開く。


 中は職員室よりも広く、アニメとかの指令室みたいな勢いでコンピュータの画面がいっぱいあって、せわしなく先輩たちがキーボードを叩いたり、チャットでミーティングをしたりしていた。倉田と先生の会話をきいていると、学園内と外のインターネットをつなぐところとかのソフトウェアや、ネットワークのケーブルをつないでいるハードウェアの動作を確認するという。もちろん、プロのネットワークエンジニアの社会人はいて、部員は、プロの人からアドバイスをもらって、ネットワーク技術やプログラムの勉強をするんだそうだ。

 そして学園の大事な情報をやりとりするから、ほかのクラブと関係を持っていない--この謎の閉そく感というかドライさ、餃子焼き部よりもフレンドリーさは感じられない。これなら、入部してもんじゃないか、と思ったその時……


「小柴先生、この前のプログラム、やっぱりうまく動かないんです」

「……ああ、これ」

 ノートパソコンを持ってきて話しかけてきた女子先輩に、小柴先生は画面を見て、そこに書かれている英語とかの謎の文字列をさっと確認して、こう言った。





「子供も殺さないとだめ……」




 ……はい?




 俺がびびっていると、倉田が助け舟を出してくれた。


「秋沢君、あれはほんとに〇すってのじゃないです! あれはきっと、プログラムで発生したプロセスっていう小さなプログラムみたいなやつが、たくさんしてて、それもってことで」


 そ、そうなの……? でも小柴先生の口から出るとちょっと怖いんですけど……。小柄で普段は弱そうでおっとりしてるあの小柴先生ですよ……?



「そうなんだぁ。もう1回見直してみます」

「ええ……ね」



 栗色ストレートのセミロングヘアの小柴先生は、もうホームルームや総合英語で見る時の先生じゃなく、秘密結社の幹部みたいになっていた。



 他にも、いろんな専門の機械とかを紹介してもらったけど、時々部屋では「さわる」「なめる」「タッチする」「叩く」なんて言葉も飛び出していて、気が気じゃなかった。全部、コンピュータ操作の時とかの方言スラングだと、倉田は言っていたが。



 結局、インフラ部(略)は「簡単なんだけど……」と小柴先生がいう入部試験があり、俺は丁重にお断りし、倉田は本気で挑戦したけど不合格となった。


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