第6話 4月の5「焼きそばパン買ってこい」

「なぜこんなにもたくさんの部活が成立しているのか、その理由のひとつにクラスタシステムがあるみたいですね」

 倉田はうなる。

 タブレットには、部活の名前が線でつながれていて、いくつかはイエスノーテストみたいに、枝葉に分かれている。

「餃子焼き部は……もともとは旧家庭科、生活科のクラブから、料理部ができて、そこからわかれて……そのひとかたまりを、クラスタ、料理クラスタというようです」


 銀河学園はクラブの掛け持ちももちろんOKだ。同じクラスタで掛け持ちするパターンも多いだろう。情報交換も活発に行われているとしたら、いくら「末端」の部活に入っても、横というかクラスタのつながりで、なにかすればみんなの知るところとなる。


 そのせいか、朝に教室に入ったときも、俺に気づいて振り向くクラスメートが増えた。いや、朝読とか、宿題とか、予習とかしててええんやで……。

「秋沢おはよー」

「おう」

 俺の方こそ、そろそろみんなの顔と名前を覚えないとな。



「秋沢君!」

 数人の女子が机に集まる。これはまずい。倉田を脇において、俺だけが取り囲まれる状況は外した。


「餃子焼き部で、神対応したんだって?」「すごいー」「料理男子かっこいいじゃん」

「いや、ただ俺は慣れてただけで……」

「秋沢君は家でも普通に家族のご飯を作ってるそうですよ! いやーすごいですねー」

 ……余計なことを言うな倉田!


「お弁当は作るの?」

 ある女子がきく。どう答えれば残念に思われるか、ちょっと迷ったが、たぶん無難なところとした。

「いや、いま弁当いるの、俺だけなんで。食堂か購買でいいかなって」


「優しいね、家族に気遣ってるじゃん」

 いや、そんなつもりはないぞ。俺が家族の弁当を作ったときは、きっちり300円もらってたし。

「じゃあ校外学習のときに秋沢君のお弁当が見られるんだ」

 それは困る。……たぶん作ると思うけど。

「今日から購買のパン屋も新年度オープンらしいよ、みんなで買いに行かへん?」

「行きましょう!!」

 ……なんでお前が返事してるんだよ倉田!



 ******



 三限と四限の間の休み時間、倉田がその後の昼休みに向けての「作戦」を提案してきた。

「パシリ?」

「そうです! 王道オブ王道の嫌な奴がやるやつ!」

 俺がパシらせたことにして、倉田がパンを買いに行くのだという。


 かくして昼休み。俺たち、倉田と女子二人、俺の四人で、隣の建物に向かう。食堂は、立食パーティーなんかもできるイベントホールといっしょになっていて、建物の入り口横には購買がある。ふだんは制服や体操着の注文販売をしていて、昼間はパン屋と弁当屋が来る。


 パン屋と弁当屋は、学園のある市内に店があって、どっちも人気らしい。


「ランチパンセット、あるかなー」

 惣菜パンや菓子パンが日替わりでランダムに3つ入っていて300円、なかなかに安い。


 今日は、焼きそばパンと、メロンパン、そしてチョコクロワッサン。明らかにランチパンセットを買う人の行列が長い。


 でもってこの行列でどうやって倉田は……と振り向いたら、こつぜんと消えていた。

「あれ? 倉田君は?」

「……いた!」

 女子ふたりは、天然パーマの彼が行列の『先頭』にいることをみとめた。ドヤ顔を俺にむけている……。


「ちょっとパシらせて……」

 棒読みではあるが、多少は印象が悪くなるだろう。

 ところが。

 突然、購買の臨時レジのほうから、ガランガランと手で振るベルの音が鳴り響いた。空太郎おじさんのチーズケーキかできたときのアレのように。


『みなさん今日は新学期サービスです!いつもの倍は用意してありますよ!』



 ……そして倉田はパンを一袋だけさげて帰ってきた。



「いやー、一人一つまででした! どうぞ秋沢君」


 ……この状況でもらえる神経は持ち合わせてないし、並んだら今日はみんな買えるからもらう意味がない。


 そしてあのベルの音で、俺のセリフもかき消されたから、女子から見ると倉田のアクションが一番奇っ怪に見えてしまっていた。今日の作戦は体をなすこともなく失敗した。



 ところで三つのパンのうち、メロンパンはなかなかよかったので、こんど学校の帰りに買って帰ろう。




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