第6話 終末論者たちとイリスと

 「うちのパーティに入らない?」

 「いやいや、俺のところに入れよ」


 昨日の懐疑的な態度はどこへやら、翌朝に依頼を求めてギルドへ向かうと色んな人達が声をかけてきた。


 「すみません、でも僕まだFランク冒険者なので……」


 すまなそうに冒険者カードを見せると誘いに来てくれた人達は、驚いたような顔をした。


 「頑張ってランク上げるので、いつか一緒に依頼を受けましょう!!」


 声をかけてくれた人達は、みんなBランクやCランクのパーティだった。

 というのもそれ以下のランクのパーティは上位ランクパーティに遠慮しているような感じなのだ。

 

 「おう、その日を心待ちにしてるぜ」

 「そうね、規則上だと依頼は下位ランクに合わせなきゃいけないもんね」


 と言った具合に、誘ってくれた人たちは満足した。

 そのことに僕はホッと胸を撫で下ろす。

 なにしろ唯一使える魔法は闇属性。

 そしてそれは国を敵に回すほどのもの、その悪評は広く知れ渡っていた。

 ゆえに闇属性の魔法を使えることは伏せておきたいというのが本音なのだ。


 「ふふっ、そんなこともあるかと思って実はオーギュスタさんの計らいでリュカくんのランクアップが決定しました!!D級への二階級ランクアップです!!」


 明るい声でそう言ったのは、昨日アレクさんたちを出迎えた受付嬢だった。

 素直にありがたいと思う反面、メンバーの過半がCランクで構成されているパーティとならCランクの依頼を受けることも出来てしまうということで―――――

 

 「それなら話は変わるじゃない!!」

 「おう、リュカを他に渡すんじゃねぇ!!」


 という具合に散りかけていた冒険者たちが再び集まりだし、受付嬢を恨むことになるのだった―――――。


 ◆❖◇◇❖◆


 「まさかこんなにも綺麗な状態で残っていようとは……」


 セヴェンヌ大森林の奥、鬱蒼とした樹海のなかにある神殿に数人の黒いローブを纏った終末論者たちの姿があった。

 

 「彼女の苦難の道を思えば、その残留思念が魔法を発動させていたとしても不思議ではあるまいて」


 口髭を扱きながら男はもっともらしく言うと、少女の納められた硝子の棺に手を当てた。

 憂いをたたえた表情で静かに少女は、幾重にも封印魔法の楔で縛りつけられていた。

 だが封印魔法に抗うように少女の身体からは淡い光が溢れていて周囲を白緑に照らしている。


 「もともと我々が主流なのだ、その座を再び取り戻すための聖戦を始めようでは無いかッ!!」


 目深に被ったフードの下には、野心にギラついた双眸があった。


 「「「おおおおおおおおおおおお」」」


 広がるざわめきは旧約派の信徒たちのもので、彼らのざわめきは静かに樹海を満たした。

 そして彼らは密かに入手していた封印魔法の解除方法に従い、かつての大魔術師イリスを目覚めさせたのだった。

 もっともイリスに意思はなく、ただ自身を支配する破壊衝動に従うのみなのだが。

 さりとて、終息したかにみえた新約派と旧約派の宗教闘争は再燃のときを迎えようとしていた――――。

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