呪われた魔眼だからと追放されたので、自由に生きてみようと思います

ふぃるめる

第1話 紫眼の少女と少年と

 突然だけど僕の名前はリュカ、今はもうただのリュカだ。

 という自己紹介は今さら陳腐すぎる気もするけど本当にそうなってしまったんだ。


 「冒険者カードの発行をお願い出来ますか?」 


 故郷から遠く離れた異国のギルドでの冒険者登録。


 「ステータスの開示をお願いできるかな?」


 受付嬢は、訛りの違う僕の言葉にもしっかりと応対してくれた。


 「"ステータスオープン"―――――これでいいですか?」


 と改竄済みのステータスを開示する。


 「普通だけど、オールマイティなのね」

 「器用貧乏なんです」


 愛想笑いを浮かべてそう言えば、怪しまれることもない。


 「そんな歳で、なんで冒険者になろうと思ったのかを聞いてもいいかしら?」


 受付嬢は手続き作業の合間に話を振ってきた。


 「他に道がながらです」


 普通の人なら何かを察してそれ以上、首を突っ込んでくることは無いはずだ。


 「そうなんだ……でも私と約束してくれないかな?」


 どこか儚げな瞳で受付嬢は言った。


 「何をですか?」

 「死ぬような無理はしないってこと。君は年齢的に幼いしステータスを見てる限りじゃハッキリ言って強くない。だから高ランクの魔物と遭遇したら多分勝てないわ」


 わざわざ約束までしてそう注意してくる受付嬢には、きっと苦い経験があるに違いない。

 もちろん、それを詮索するような野暮なことをしたりはしない。

 

 「安心してください、自分のことは自分が一番わかっているつもりです」

 「エマお姉さんとの約束だよ?」


 そう言った受付嬢は、ピンッと小指を立てた。

 仕方なく指切りげんまんをして去る頃には、秋の日は鶴瓶落としという言葉のとおりで日は傾いていた。

 

 ◆❖◇◇❖◆


 その夜、借りた宿の一室で僕の見た夢はつい先日の光景だった。


 「リィナ、危ないッ!!」


 妹との外出中に起きたアクシデント―――――と言うには随分作為的な出来事から全ては始まった。

 

 「Whoow!!」


 威嚇するような鳴き声とともに突如として襲ってきたのは、最近の流行りの曲芸サーカス団が連れてきていたトロールだった。

 咄嗟に庇った僕は無意識下で魔法を発動させていた。

 妹を守るためとはいえ、それはあまりにも浅はかな行動だった。


 「お兄ちゃん……眼が……」


 リィナに言われて気づいた頃にはもう遅かった。


 「おい、今の見たか?」

 「呪われた魔眼じゃなかったか!?」

 「来るなぁッ」


 口々に騒ぎ立てて逃げていく周りの人達。

 自分の魔眼ひとみの色は呪われた魔眼と言われる紫だった。

 火属性なら赤、水属性なら青、と言ったように属性ごとに魔眼の色は決まっていた。

 その中でもっとも稀有で、そして忌み嫌われるのが闇属性に特化した紫の魔眼だった。

 理由は僕の生まれたアリエージュ王国の歴史にあった。

 かつて大魔術師と呼ばれた一人の少女は、魔法において右に出る者はいなかった。

 そして他とは隔絶した圧倒的な力を持つ少女の魔法属性は闇属性だった。

 魔獣狂騒スピンダードの対抗策として担ぎ出された彼女はしかし、その魔法に飲まれてしまったのだった。

 次第に、誰彼構わず人を殺すようになった彼女は最終的には寝込みを襲われ命を落とした。

 それからというもの紫色の魔眼を持つものが現れるようになり、見つかった者は殺されてきたのがこの国の歴史だった。

 そんな過去から闇属性は大魔術師だったイリスの呪いだというのが通説になっていた。

 僕がそれを知ったのは自身の瞳の色が変わってすぐのことだった。

 八歳を迎えたその日、魔眼の色が変わったことを母に伝えると母は声を潜めて教えてくれた。


 「リュカ、あなたのその魔眼は特別なものよ。だから決して人に見せてはなりませんよ?」


 今でもそのときの母の顔はよく覚えている。

 顔面蒼白で怯えたような眼差しを僕に向けていたのだから―――――。

 それから僕は王立図書館の奥にある閲覧禁止の書庫にこっそりと潜った。

 幸いにして隠蔽魔法は闇属性の十八番だったから潜入には苦労しなかった。

 そこで知ったのが、大魔術師イリスのことだった。

 そしていつもこの夢はあるところで途切れるのだ。

 

 「ねぇリュカ、私を殺してくれない?」


 儚げな表情を浮かべた少女の魔眼は僕と同じ紫色。

 知らないはずのその少女を僕は何処かで繋がっているという奇妙な感覚。

 そこで夢は終わりを迎えるのはいつものことだ。


 「またこの夢か……」


 脳裏を反芻する少女の声に、急かされながら窓を開けると東の空は白んでいた。

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