第4-2プラン:革新的な経営方式!? 株式会社の設立!!

 

 興奮が冷めやらぬ中、私は心を落ち着けて次の話を始める。


「ありがとうございます。早速ですが、お店の運営に関して皆さんに提案がふたつあります。ひとつ目は出資についてです」


「出資? まぁ、運営や開業にカネが掛かるのは分かるが、どの店も厳しい状況だからそんなに出せないと思うぞ?」


 ランクさんは低く唸り、眉を曇らせた。ほかの人たちの多くもその声に頷いている。


 ――でもその反応は私の想定内。だって今回は彼らの懐が直接痛むことなんだから。もちろん、みんなが満足するような話をきちんと考えてきている。


 それは私が昔に思いつき、ずっと温めてきた切り札。まだ世界でもそれを実行している人はいないと思う。もし成功すれば商業界に革命が起きると言っても過言じゃない。


 だから私は目を輝かせつつハキハキと説明を続ける。


「私たちへの信用だけで出資することに抵抗がある方がいらっしゃるのは当然でしょう。ですから出資していただく代わりに『株券』というものを発行します。1口あたり1万ルバーで、ご希望の数だけ出資していただければと思います」


「なんだい、その株券ってのは?」


「出資者特権を保有する証書のようなものです。特定の期間――最初は1年を想定していますが、その間に利益が出たとしましょう。保有している株数に応じて、利益の中から配当金として株主の皆さんへ還元します。もちろん、赤字となった場合は配当金がゼロとなりますが」


「つまりセレーナの店が儲かれば儲かるほど、株主も受け取れる配当金が増えるわけだな」


「基本的にはそうなりますが、そうした配当金に関することや運営方針などの重要事項は株主総会――つまりこの商店街加盟店組合の会合のような場を開いて決定することになります。その際、保有株1口につき1票の権利を持ち、投票による多数決で決定します」


 その説明にあちこちから驚きと興味深げな声が上がった。おおむね反応は良いみたいだ。


 やっぱり何の対価もなしに出資してくれと言われるよりも、何か見返りがある方が気持ちも動きやすい。


「要するに保有株数が多ければ多いほど、発言権が強くなるってことか」


「そういうことです。株主の皆さんにとっては、もし私の店が赤字を抱えて廃業となっても経営責任を問われることはありません。株に対する出資金を損するだけです」


「その配当金は毎年もらえるのか?」


 会場の隅にいた武具屋のおじさんが前のめりになって質問してきた。これはかなりの好感触だ。ランクさんとの話に割って入ってくるくらいだから。ほかにも色々と訊きたそうな顔をしている人がたくさんいる。


 だから私はこの空気を壊さないよう迷いなく即答する。


「決算期間を1年ごとにするなら、そうなりますね。株を持ち続けている限り配当金は受け取れます。最初は1株あたり10ルバーとか、そんなもんでしょうけど。でも利益が増えれば、いずれは配当金も増やしていけると思います。ですから、私たちのお店が大きくなると思うならたくさん株を持っておけば儲けも大きくなります」


「逆に見通しに疑義があれば、株をわなくてもいいわけだな。もしキミの店が破綻したら、株の代金が損になるんだから」


「確かにそこは皆さんの判断になります。私としてはある程度の運営資金を集めたいので、1株でも多く買っていただきたいですけどね」


 それを聞いて武具屋のおじさんは納得したように何度も頷いている。さすが商売をしている人というか、リスクとリターンをきちんと把握してから判断をするようだ。


 でも私にとってもきちんとリスクを説明することは話に真実味を持たせられるし、納得してお金を出してもらいやすくもなる。だからこれは渡りに船な問いかけだったと思う。


 ここでさらに私は1冊のノートを取り出し、そこに記載されている名前をみんなに提示する。


「ちなみに私が店舗を借りたシャオさんには、すでに1株買っていただいています。シャオさんには1株保有の証書を手渡し、こちらの株主名簿には名前が記載してあります」


「シャオがセレーナの店の株を買ったのかっ!?」


 魔法道具屋のお爺さんが驚愕すると同時に、その場にもどよめきが起きた。やっぱり現実に株を買った人がいると分かれば、他の人の心理的な抵抗も低くなる。


 まぁ、それも見越してシャオさんには5000ルバーに割引いて株を売ったんだけどね。もちろん、帳尻を合わせないといけないから割引いた分の5000ルバーは私の個人的な持ち出しになってるんだけど。これはみんなには内緒っ♪



 ――そう、実は家賃交渉が終わったあとに私はシャオさんへ株の購入を持ちかけたのだ。


 割引いた価格だったとはいえ、彼が話に乗ってきた時点でこの『株式会社』という画期的な運営方式に私はある程度の手応えを感じていた。だって商売にあまり詳しくない第三者でさえ仕組みを理解して、出資してくれたのだから。


 それだけ分かりやすくて魅力的な話だということ。


「よし、試しに1株だけ買おうじゃないか」


「俺も1株だ」


「せっかくだからワシは3株くらい買うぞ」


 堰を切ったようにあちこちから株の購入を希望する声が上がった。この感じなら想定していた分くらいの株は売れそうだ。当面の運営資金にも困らない。



(つづく……)

 

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