第4-1プラン:最初の一手! 商店街のみんなを説得せよ!!

 

 後日、店長の呼びかけで商店街加盟店組合の臨時会合が組合会館で開催された。


 何人かは欠席になったけど、ザックの両親やサラの両親など全組合員の9割以上――36人が参加となっているので議決された事項は有効となる。


 もちろん過半数さえいれば議決の条件を満たすけど、こうした重大事項の決定に関わるのはひとりでも多い方が好ましい。その方があとになって揉め事が起きる可能性も低くなるから。


 議事進行は店長。招集の目的などについては私が説明をすることとなり、補助としてサラとザックがいてくれている。


 なお、組合員の皆様方には事前に『総合商店の開業に伴う商店街の顧客減少およびその対策について』とだけ伝えてある。具体的な内容は情報漏洩を防止するため明かしていない。


 そして会合は始まり、挨拶が済んでから私に発言の機会が回ってくる。


「皆さんにお集まりいただいたのは、事前にお伝えしているように総合商店の件です。あの店が開業して以降、商店街のお客さんは激減しました。それは皆さんも実感があるのではないかと思います」


 そこまで話すと、参加者の面々は一様に表情が曇った。空気も一段と重いものになる。特に生鮮食品を取り扱う商店は影響がより甚大なのか、そこに属する人たちは悔しさや悲しみも強く滲み出ている気がする。


 私はそれを認識しつつ、言葉を続ける。


「私やサラ、ザック、ミシェルの4人は商店街の衰退を危惧しています。そこで総合商店へ反転攻勢をかけるべく、打って出る決意をしました。皆さんにもそのご協力を賜りたく、こうしてご足労いただいた次第です」


「セレーナ、趣旨は分かるが具体的に何をするつもりなんだ?」


 ランクさんは腕組みをして壁に背中を持たれ掛けさせながら、鋭い目つきで問いかけてくる。現時点で彼が私たちの話に対して好意的だという印象は受けない。


 少しイライラしているのは総合商店に対するものなのか、それとも私に早く本題へ入れと催促しているからなのか。


 いずれにしてもこの場は絶対に失敗できない。私はさらなるプレッシャーを感じつつ、冷静に話を進めていく。


「商店街に集客の核となる店を開業します。運営は私とサラとザックが中心になり、ほかにバイトも雇うつもりです。店はテイクアウト専門店です――」


 私は以前にサラたちに話したことと同じ内容を説明していった。それでようやく私たちがやろうとしていることを理解してくれたようで、わずかだけどみんなの顔から訝しげな色は薄くなる。また、自分たちが損をすることはないと知って、安堵している人も見受けられる。


 もちろん、だからといって即座に賛同してくれそうな人はひとりかふたり。反対はしないが勝手にやってくれという反応が大半な感じだ。


 特に懐疑的なのがランクさん。さっきと比べてむしろ一段と表情が険しくなる。自分の息子がこの事業に深く関わっているからこそ、厳しい視点で捉えているのかもしれない。


 でもそれはきっと応援したい気持ちの裏返し。厳しさは優しさから来るもので、決して気に食わなくて否定しているわけじゃないと思う。


 サラのご両親も今のところは無言を貫いているけど、同じ気持ちに違いない。


 早速、ランクさんは私に念を押すように言葉を投げかけてくる。


「話は分かった。確かにそれなら俺たちの店に損はないな。だが、商売はそんなに甘くないし、うまくいくとも限らないぞ」


「私は皆さんの目と技術と経験を信じてます。逆に言えば、私たちの設立するお店の成否は皆さんの力に掛かっているということでもあります。そりゃそうですよね、私たちの店で扱う商品は皆さんの店から仕入れるんですから」


「……へっ、プレッシャーをかけてくれるじゃねぇか、セレーナ」


「少なくとも私はサラやザック、それに商店街の皆さんの能力を評価しているからこそ、この話を進める決意をしました。これは皆さんに対するです。そうじゃなかったら、誰がこんな火中の栗を拾うようなことをしますか? 私にとって最も賢い選択は静観することですから」


「なるほどな。俺たちと比べればセレーナは部外者に近い。商店街が廃れようと影響はほとんどないばずだ。だが、単なる『想い』だけで動いているわけじゃなく、ビジネスとして取り組むってことなら説得力が出てくる」


「商店街が廃れると私にも影響がありますよ。ランクさんのお店のコロッケが食べられなくなるのは、私にとって大きな痛手ですから」


 その言葉にランクさんはもちろん、場のあちこちから小さな笑みが漏れた。


 少しは空気が私の方に流れ始めたような気がする。雰囲気もだいぶ良い。私はこれを機にたたみ掛けていく。


「宣伝や販売、戦略、経営は私が責任を持ちます。自信もあります。だからこそ、商品の品質に関しては経験と実績のある商店街の皆さんに頼るんです。私たちの個々の力では総合商店に勝てませんが、各分野に特化して見るならば能力は私たちの方に優位性がある。だったら力を合わせることさえ出来るなら、勝てるはずです」


「皆さん、ボクたちに力を貸してください。一緒に総合商店へ反転攻勢を仕掛けましょう」


「お願いします、皆さん!」


 私の言葉に続き、ザックとサラは深々と頭を下げて想いを吐き出した。シャオさんを説得した時と同様に、良いタイミングでの援護だ。もしかしたら私たち3人は意識を共有しているんじゃないかって気さえしてくる。



 あれ……なぜか嬉しい……。



 話がうまく進んでいるってこととは違う気持ち。特別な何かを感じて胸の奥が熱い。


「……分かった。俺はザックが自分の息子だからということを抜きにしても、その想いに応えてやりたい。このまま総合商店にやられっぱなしってのも悔しいしな。俺は協力するぜ」


「私たちもサラの意思を尊重したい」


 ランクさんに続いてサラのご両親も私たちに賛同してくれた。それをきっかけに場の空気は完全に私たちを応援するものへと傾き、あちこちから賛同する声が上がる。


「私の店で使うモノは、あらかじめ定めた量を皆さんの店から仕入れます。その量を超えて仕入れる場合は私の裁量に任せていただきます。ほかにも経営の基本に関することは『定款ていかん』という書類に記します」


「商店街各店とセレーナの店との間で交わした契約や取り決めをまとめたモノって感じか」


「そうです!」


「よし、それでいいだろう。ミシェルさん、議決に入ってくれ」


「――では、皆さん。商店街加盟店組合はセレーナが代表を務める店に全面協力するということでよろしいですかな?」


 空気を見計らい、店長が声を張り上げてその場の全員に問いかけた。


 すると一体感のある『異議なし!』の声が大きく響き、私たちの店は商店街加盟店組合の協力を取り付けることが決まったのだった。


 私は思わずサラと抱き合って喜び、その様子をザックと店長が温かな目で見守っている。みんなからの拍手も聞こえてくる。


 これでようやくスタートラインに立った気がする。もちろん、まだまだやらなければならないことがあるのは理解しているけど、大きな山をひとつ越えたのは間違いない。



(つづく……)

 

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