トーンを付けた紙の上から始まる物語

 私は今、東京都心の南東部にある中目黒にいる。

 駅の入り口をバックに環状六号線という道路を挟んで向かい側にいるはずの同じ制服を着ている女子高校生を見つめているはずである。

 近くには見えないが桜が舞っているようだがどうなんだろうか。背景には描かれている。

「おーい!夢乃ゆめの!」

 そう私が叫んだら目の前が一瞬暗くなって、気づけば列車の中にいるようだ。

 どうやら中目黒の駅を出た直後の桜を見ることもなく、恵比寿を過ぎて広尾と六本木駅の間を列車は走行しているようだ。

 隣の席には夢乃が座っており、私に話しかけている。

「今日は部活ないの?こんな日中に帰るなんてさ~」

「そ、今日はオフなんだよね。」

 そう述べている私の表情は暗い。この表情をした後に突如、視界にモヤがかかる。

 太陽の位置的に今日の早朝だ。おそらく7時前かと思う。

「あれが唯香ゆいかさん、去年のインターハイで決勝で……」

 顔は白く見えないが、部活の同級生や先輩が嫌みのようにコソコソと、新入生にそう伝えている様子が浮かび上がってきた。遠くで私はサッカーのドリブルをしている。

 毎年、私の通う高校では他にも類似しているケースもあるだろうがインターハイをもって3年生の最後大会となっている。

 練習試合も含めて完全に部活参加が不可となる大事な女子高校生として最後のサッカーの試合。

 当時、1年生の私は能力を認められ、また少ない3年生の人数合わせとして、決勝戦の試合に出た。

 ドリブル中に相手選手に転ばされ、がむしゃらに誰か拾うことを願って、ボールを蹴った。

 自陣ゴール近くのために、だれも拾わず。ゴールキーパーも来るとは思わずにそのままオウンゴール。

 状況も参加選手全員わかっており誰も責めてこなかったが、チームは当初ほとんど3年生だったために、彼女らが卒業までは何ともなかった。

 しかし、新年度になると事情を知っている当時の3年生の圧もなくなり、言いたい放題となった。

 まさか、今日の朝練で新入生の入部体験者全員に悪者として伝えられているのを知ってしまった。


 思い出していたら列車は、神谷町を目指していた。

「どうしたの~?浮かない顔して」

 夢乃がのぞき込んでくる。それだけでない、座っている席の向かい側の窓からも何となく視線を感じたが、気のせいだろう。

「ううん、何でもない」

 左右に顔を振るモーションを付けながら強く振った。一粒涙がこぼれる。

「ふ~ん」と言いつつ、夢乃がニヤニヤし始めた。

 その瞬間、また一瞬暗くなり記憶が飛んでいく。

 なぜか地下鉄の轟音とともに乗っている車両のシーンとなってすぐに消える。

 霞が関や銀座を越えて、シーンは電車が小伝馬町駅に到着をしてドアが開いている。

「久々にさ、秋葉原で遊んでかない?」

 夢乃が言い終わるよりも少し前に、少し暗い顔をした私がちょっとうなずく。


 シーンは変わりゲームセンターのようだが私たちは確認できずにクレーンゲームのクレーンだけが見えている。

「中学の頃から、電車乗り換えなしで来れるから来てたよね~。」

 夢乃が突然話し出すから、私も答える。

「当時、サッカー少年のアニメが好きで見てたね。一緒に。」

「そうそう、それでグッズ買ってコスプレしてさ、「マンガマーケットに出よう!」なんて話してさ。」

 マンガマーケットというお台場のイベントだけ同時に答える。

 クレーンゲームの景品は取れずに、次はダンシングゲームのシーンになり、夢乃と私は戦っていながらも会話をしている。

「唯香は凄いと思うよ。そこでサッカーが好きになってやってるんだからさ。」

 夢乃が全身を見せつけるようにゲームをしている。

「そんなことないよ、ただそこに部活があってやってるだけ。」

「その活動力がすごいんだって!私はおとなしく帰宅部だからさ。何があったか知らないけども、練習をさぼったでしょ。」

 図星である。朝練の話をしようとしたところ視界が、再び暗くなった。


 再び、電車の中のシーンとなった。ちょうど、鉄橋を渡っている。

「まもなく、北千住~。北千住~。」放送が響き渡る。

「そう言えb」私が言いかけた時に、端の方から視界がゆがみだす。

 隣にいるはずの夢乃の顔がいつもとは違う人の顔になっていた。

 どんどん周辺がゆがむ。


「だぁぁぁぁ!!これじゃだめだ!!」

 野太い声が聞こえてくると思えば、若い青年の声も聞こえてきた。

「先生、締め切り間際ですよ!」

「スランプ!スランプだよ!絵が納得いかない!」

「最後のだけ書き直せばいいのに……なんで全部ぐしゃぐしゃにするんですか?」

「今月は連載休止!!来月未定!」


 今度は視界が真っ白になって、私も夢乃もよくわからない世界に飛ばされた――。

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