繋ぐ街エリーファ

 城下町グラシアから南に進んだ先にある街——エリーファ。

 街の面積こそグラシアより一回り小さいが、王都と主要都市を繋ぐ中継地点として発展を遂げた活気溢れる街だ。


 ここから西に進めば更に小さな拠点と初心者向けのエリア、ダンジョンが、南東に行けば主要都市と中級者向けのエリア、ダンジョンがあるという。

 雑魚敵を秒で蹴散らしながら(※コトが)フィールドを突き進み、ようやく街に到着したところで俺は大きく伸びをした。


「結構歩いたな。街から街までこんなに距離があるとは思わなかった」

「だねー。リアルだったら足痛くなっちゃいそう」


 まさか一時間近くも歩くハメになるとは。

 ゲームマップが広大過ぎるってのも考えものだな。


 一応、一度訪れてしまえば次からはファストトラベルで移動できるようになる。

 国の全体マップを開き、ファストトラベルを選択すれば、転送先にエリーファの名前が追加されていた。


「ちょっと休憩……といきたいが、先に演奏できそうな場所を探すか」

「そうだね。広場的なスポットがあればいいけど……あるかな〜」

「なければ大通りとかになるか」


 とりあえず、街の奥に進むとしよう。


 良いスポットがないか周囲を見渡しながら歩きつつ、ついでにすれ違うプレイヤー達を観察する。


 初期防具のプレイヤーの割合はガッツリと減り、皮鎧や戦闘向けに補強された衣服に身を包んだプレイヤーが多くなっている。

 それと上級者っぽいプレイヤーもちらほらと見かけるが、グラシアと比べると装備の質がワンランク落ちているように見受けられる。


 なんというか……全体的に装備の質が底上げされたけど、代わりに上限は引き下げられたって感じがする。


(——そういや、なんだかんだでまだ防具買い替えられてないな)


 昨日はアイテムを売却した後、武具屋に行くほどの気力はなかったし、今日もここに来るまでの移動時間の兼ね合いから立ち寄ることができずにいた。


 先に言っておくと、防具を買い替えるだけの資金はある。

 昨日、水のダンジョン——水月の鍾乳洞をクリアしたことで獲得した報酬と道中で倒したモンスターがドロップした素材アイテムを全部売却した結果、二万五千ガルを手に入れることができた。


 売った金の半分は餓狼丸の元に行ってるから稼いだ額は実質五万ガル。

 これで餓狼丸からのローンを十分の一返済できた事になる。


 今ある所持金も全部返済に充ててもいいのだが、白碧の青龍蝦との戦闘で耐久の重要性を思い知らされたばかりだからな。

 せめて初期防具からの脱却……欲を言えば、性能の高い防具を入手しておきたいところだ。


(……つっても、契約の誓約書を使ってまでではないけど)


 これまでポンポン交わしてしまっているせいで説得力が皆無だが、本来あれは最終手段だ。

 契約相手はちゃんと選んで見極める必要があるというか、そこまでして防具を揃えるつもりは殊更ない。


 俺が契約の誓約書あれを使うのは、あくまで欲しい楽器が見つかった時であって、契約相手が餓狼丸だからに他ならない。


 見た目こそガチでビビりそうになるくらい厳つい強面だが、中身は乙女で良識人だからな。

 あの人柄じゃなきゃ、コトが一本目のギターを購入するのを止めていただろう。


 そんなことをつらつらと考えているうちに、広場らしき場所に辿り着いた。

 真ん中に噴水が設置された憩いの場……といったような場所だった。


「ねえ、ここが良いんじゃない!?」

「……そうだな。悪くない」


 グラシアの中央広場と比べるとかなりこじんまりとしているが、人通りはそれなりに多く、機材を置いたり観客が足を止めたとしても、そこまで通行の妨げにもならないはずだ。


 早速、噴水の前まで場所を移し、演奏場所を確保すると、コトがメニューを俺を背景に自撮りを始める。


「……よし! 後はこれをSwitterに上げて、っと」


 何枚か撮った後、連携したSNSアカウントに飛び、撮影した写真と共に宣伝の呟きを投稿してみせた。


「うん、これでオッケー! ライブは二十時から始めるから、それまでちょっと休憩ね」

「了解」


 現在時刻は十九時五十二分。

 一息つくには十分か。


 正直、今すぐに演奏を始めてもいいが、そうしないのは……、


「あっ、おコトちゃん!」


 コトを呼ぶ声が聞こえ、振り向く。

 そこには、前の路上ライブで声をかけてくれた二人組の姿があった。


「お姉さん達! 本当に来てくれたんですね!」

「勿論、だって私たちおコトちゃんのファンだから!」

「……あ、あと後ろのドラムくんも! 二人の演奏、楽しみにしてますね!」

「うす。どうもっす」


 俺のこともちゃんと覚えてたんだ。

 てっきりコトだけを応援してるかと思ってた。


 ちょっとだけ驚きつつ周囲を見回すと、見覚えのあるパステルレッドの髪が視界に映った。

 猫背気味の少女は、少し離れた位置で俺たちを窺うように立っていた。


「コト」

「ん、何?」

「あそこ」


 少女がいる方向を指差すと、コトはパアッと笑顔を浮かべ、大きく手を振った。


「おーい! カナデちゃん!」


 それからコトが叫んだ瞬間、カナデはびくりと肩を震わせるも、その場でペコリと会釈を返した。


(へえ、ちゃんと来てくれたんだな)


 コトの誘いに対して、行けたら行きます、って返事を返してたっぽいから来ないもんかと思ってたが、本当に行けたら行くタイプの人間だったか。


 ま、これでともあれ、最低限の集客はできたか。

 後はどれくらい顔と名前を覚えてもらえるかどうか、だな。


 二十時まであと一分を切った。

 インベントリからドラムセットを呼び出し、いつでも演奏できる体勢を整えた後、前に立つコトと視線を合わせる。


 ギターが一本と三点+クラッシュのスカスカなドラムというシンプルな構成。


 互いに頷けば、コトは深く息を吸って高らかに声を上げた。


「皆さーん! これから路上ライブするので。時間があるなら是非見ていってくださーい!」

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