アカウント開設とユニット名

前話の後半を少し修正しました。

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「まあこんなもんか」


 放課後の音楽準備室——兼軽音部の部室。


 前回の路上ライブで演った曲のうち一曲を差し替えた計三曲。

 一通りの合わせを終えて俺はうんと頷く。


「今日はこれで演ってみるか」

「だね。二回目の路上ライブかー、楽しみだなあ!」


 ギターをスタンドに立てかけながら、琴音は声を弾ませる。

 二日振りの路上ライブ——今日は、グラシアか違う街に移動して敢行してみるつもりだ。


 集客のことを考えるのであれば、グラシアか隣接している王都でやるのが一番なんだろうが、元々の目的は全ての街での路上ライブだ。

 次にやるのは、国内にある街全部を回ってからになるだろう。


「人集まるかな?」

「まあ、ゼロって事は無いと思いたいな。金曜だからログインしてくる人も多くなるだろうし、前に琴音とフレンド登録した人達が来てくれるかもだし」

「そうだね。後で今日やりまーすってメッセージ送っとかなきゃ。あ、それとカナデちゃんにも声掛けてみようかな」

「来るかどうかビミョいけどな」


 かなりインドア派っていうか、人前に出るの苦手そうだし。

 ……VRでインドアって表現はおかしい気もするけど、そこは一旦置いておくとしよう。


「まあまあ、声を掛けるだけ掛けてみるよ。もしかしたら来てくれるかもだし」

「それもそうか」

「それにカナデちゃんともっと仲良くなりたいしね」


 言って、琴音はにししと笑みを浮かべる。


「まあ、色々と面白い奴だったもんな」


 コミュニケーション能力にこそ少し難があるものの、初めて話しかけた時の挙動だったり、餓狼丸と対峙した時のリアクションだったりと、表現が豊かで何と言うか見てて飽きないキャラをしていた。


「京雅もそう思うでしょ。……よし、決めた。今メッセージ送ろう! 善は急げとも言うし!」


 言うや否や、琴音はARフォンを取り出し、オリヴァの連携アプリを起動する。

 ゲームにログインしていなくても、このアプリがあればゲーム内のフレンドにメッセージを送ることができる。


 他にもゲーム内の掲示板を利用したり、フレンドのオンライン状況を把握したりできるとのことだが、まあ俺には無関係な機能ばかりだ。

 なんだかんだ琴音としかフレンドになってねえし。


「——はい、送信完了! そうだ、このままお姉さんたちにもメッセージ、を……」

「……ん、どうかしたか?」


 ふいにピタリと動きが止まったので、訊ねると、


「あーーーっ!!! しまった、忘れてた!!」

「うるせっ!? おい、急に大声出すなよ……!」


 普通にびっくりしたわ。


「つーか、何を忘れてたんだよ?」

「アカウント!!」

「アカウント……? あー、もしかしてSNSの?」

「そう! それとユニット名!!」

「……そういや、そうだったな」


 路上ライブをした後、女性プレイヤーと交わした会話を思い出す。

 そういえばあの時、SNSアカウントを作ってユニット名も考えておくって約束したんだったか。


 頭の片隅にはあったが、この日に路上ライブをやろうって予定を立ててもなかったし、琴音も話題に出さないから放置していた。


 ……俺から話を振るべきだったか。


「——というわけで、緊急会議を行います! 議題はユニット名をどうするか! アタシはこれから速攻でSNSアカウントを作っておくから、その間に京雅は何か良さげなの考えておいて!」

「丸投げかい。……ったく」


 琴音が慌ててSNSのアカウントを作成に取り掛かるのを横目に、


(さてと……どうしたもんか)


 思えば、ユニット名とかそういうのちゃんと考えたこと無かったな。

 卒業した先輩と組んだバンド名も『みよちゃん先輩と思い出作り隊』だったし。


 ちなみに命名者は琴音だ。


 あくまでゲーム上での活動名義だから、プレイヤーネームを考えるくらいの軽い感じで良いとは思うが、とはいえ仮にも名前を売ってくわけだし雑に決めるわけにもいかないか。


(うーん……悩むな)


 頭の中で朧げにアイディアを出しては消し、また出しては消しを何度か繰り返しているうちに、琴音の画面を操作する手が止まる。


「思いついたー?」

「まだ」

「そっかー。じゃあ、アタシも考えるね」


 むむむ〜、と声を唸らせる琴音。

 数秒後、


「——あっ、これはどう!? 名付けて——おコトとケイガ!!」

「まんまじゃねえか!」

「え〜、ダメ?」

「流石にもう少しそれっぽい名前にはしようぜ」


 というか名前の付け方が、卒業した先輩のバンド名考えた時と一緒だ。

 あの時は先輩が琴音の案に乗ったから『みよちゃん先輩と思い出作り隊』なんて名前になったが、あれは一回限りのバンドだから許された感はある。


 カッコいいとまではいかずとも、せめてバンド名っぽい名前にはしておきたいところだ。


「ん〜……じゃあ、これはどう? ——コトケイ!!」

「今度は略しただけじゃねえか。……まあ、悪くはないけど」

「じゃあ……KKケーケー!!」

「もっと略せば良いってもんじゃねえぞ」

「もう、さっきから文句ばっかりだな〜。じゃあ、京雅も何か考えてよ」


 腰に手を当て、琴音はぶーぶーと唇を尖らせた。


「そうだな……」


 ツッコミはしたものの、方向性としては間違っていない思う。


 KK……か。

 ここから何か発展させられたら……。


 頭をフル回転させる。

 考え抜いた末、ようやくふっとアイディアが舞い降りてくる。


「——KKキングスキーってのはどうだ?」

「キング好きー?」

「俺も語感的にそう思ったけど、そこはスルーしてくれ」


 一息挟んで、


「Kings Key——KingsとKeyそれぞれのの頭文字を取って、KKキングスキー。コトとケイのイニシャルを二つ並べたKK。それとKKが二つ並んでキングス……まあ、ちょっとした言葉遊びみたいなもんだ」


 ベストとは言わないにしても、これならユニット名っぽくはなるはずだ。

 自分たちをキングを称するのは、ちょっと恥ずい上に傲慢な気がするけど、まあ名乗るだけなら自由だ。


 それに、いつか——。


「おお……おお〜っ!! いいねいいね! それで行こう!!」


 琴音は目をキラキラと輝かせながら、作成したばかりのアカウントのユーザー名を変更する。


 初期アイコンにまだ手付かずのプロフィール。

 そこに加わるKKの二文字。


 これでユニットを結成した感が増した気がする。

 元から組んでるようなもんだったけど。


「……これでよし! 後はプロフィールとアイコンを変更すればお姉さんたちにアカウント作ったって報告ができる。よーし、後は帰りながらやるぞー!」


 気づけば、もうすぐ下校時刻になろうとしていた。

 そろそろ帰る準備をしないと、か。


 時間も丁度いい頃合いになったので、ここらで部活を切り上げて、帰りの身支度を整えることにした。

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