ローンを返済するために
初の路上ライブから一日が過ぎたオリヴァ内。
俺とコトは、城下町の外にある小さな森を訪れていた。
「よーし、お金稼ぐぞー!」
目的はレベリングと金策だ。
いくら攻略に興味がなくとも国を超えるには、高レベルのモンスターがウヨウヨ徘徊するエリアを突破しなきゃならないし、別の大陸を渡るにはダンジョンを攻略しなければならない。
その為には相応にレベルを上げて装備を整える必要がある。
俺もコトもそれなりに戦闘に自信はあるが、『プレイヤースキルだけでどうとでもなります^^』……なんて、豪語できる程の実力ではない。
それにパラメーターを器用さ極振りにしている弊害で、余計に戦闘の難易度が上がっているというのが実情だ。
別の国や大陸に向かうのはまだ先の話とはいえ、今からコツコツレベルを上げて置いて損はないはずだ。
——まあ、これはあくまでついでなんだけどな。
「二十五万か……かなり気が遠くなる話だよな」
「だよねえ。いつになったら返せるんだろうね」
一番の理由は、餓狼丸から借りたローンの返済の為だ。
利子がついてないから急ぐ必要がないといえばないのだが、借金を背負っているという状態が落ち着かない。
早いところ自由の身になる為にも、いち早く金を稼いでおきたいところではある。
「とりあえずはEXモンスが出ないくらいに雑魚敵を狩りまくるのが正解か。つーわけだから、掃討頼んだぞ」
「全く、仕方ないなあ。じゃあ、後始末は任せたからね」
コトは初期武器のギターを装備し、ストラップを肩にくぐらせると、早速弦を掻き鳴らし始めた。
ブリッジミュートとパワーコードを掛け合わせたリフ。
アコギ特有の柔らかくもパワーコードによる力強い音色が木霊すると、木々や茂みに潜んでいたモンスター達が一斉に騒ぎ出した。
一昨日の緊急メンテで攻撃範囲が狭くなったとのことだが、それでも十分なくらいに広範囲に攻撃が届いているようだ。
ただ、チュートリアルエリアの奴と比べてHPが高く設定されているせいか、何体かのモンスターが微塵も弱った素振りも見せずに俺らの前に姿を現す。
巨大な蜂、大ムカデ、芋虫……虫系ばっかじゃねえか。
わらわらと出て来た途端、コトの表情が恐怖で引き攣った。
「ひっ……む、虫!?」
「あー、そういや虫駄目だったな。でも、演奏は止めるなよ」
言いながら俺は、腰から初期武器の太鼓バチを取り出し、奴らの攻撃に備える。
俺もコトも餓狼丸から買った楽器を使わないのは、攻撃力が低いからだ。
どうやら外観と音の再現性にリソースを全て注ぎ込んだことで、数値は残念なことになってしまったらしい。
それにこのゲーム、ちゃっかり武器破損も存在しているから、おいそれと戦闘で使う訳にもいかないというのも理由の一つではある。
この中だと最も警戒すべきは巨大蜂か。
見た感じ動きが素早そうだし、尻尾の針に毒がある……なんてパターンも十分にあり得るからな。
見た感じ、奴らの狙いはコトのようだ。
ダメージを与えられているせいか、単純にモンスターにとって楽器の音が不快なのか。
理由はさておくとして、ここは俺から仕掛けるんじゃなく、奴らの行動に合わせて迎撃するのが無難ではありそうだ。
これならAGIが低くともどうにかなるはずだ。
バチを構えて様子を伺っていると、巨大蜂が攻撃を仕掛けてきた。
不規則な軌道で高速飛行しながら、あっという間に距離を詰めて来る。
——が、最後はコトに向かって馬鹿正直に真っ直ぐ飛んできたので、間に割り入るようにしてMPを籠めたバチによる一打を叩き込む。
捉えたと同時に和太鼓を叩いた時のような音が響くと、巨大蜂は簡単に吹っ飛んでいく。
そのまま近くの木に激突するとそのまま動かなくなった。
ただ、まだポリゴンとなって四散していない辺り、一応HPは残っているようだ。
まあでも、このまま起き上がらないならギターのダメージでHPを削り切るだけなので、今は放置しても問題ないだろう。
「へえ、意外とブッ飛ばし性能高えんだな」
ジャイスラにぶちかました時はタックルの軌道を逸らすのが精一杯だったが、あれはジャイスラの巨体と俺のSTRの低さが原因だったか。
けど、巨大蜂程度の大きさなら容易く吹っ飛ばせるみたいだ。
だからと言ってバンバンぶっ放せるわけでもなさそうだけど。
ちらりと視界の左上に映るMPゲージを確認する。
今の一撃でMPの大半が持っていかれていた。
コトもそうだったが、音楽士のMPを使った攻撃は燃費が大分悪いようだ。
……いや、単純に俺らのMPが少なすぎるだけか。
真面目にビルドするんだったら、MPに多くパラメーターを割り振るのが賢明だろうな。
などと頭の片隅で考えつつ、俺は次の攻撃に備える。
蜂が片付いた今、次に警戒すべきは大ムカデか。
それなりの速さで地上を這いずり、こちらに近づいてくるがさっきの巨大蜂と比べれば大した脅威ではない。
大顎で噛みつかれないようにだけ注意を払い、頭を叩き潰してから掬い上げるようにして遠くへ飛ばす。
グロテスクな表現を避けるためか叩いた頭部から中身が飛び散ることはなく、代わりに緑色のポリゴンが噴き出していた。
宙を飛んでいる間にポリゴンへと散っていくのを横目に、最後に残った巨大芋虫へと接近する。
俺を近づけさせまいと芋虫は糸を吐いてきたが、初速が遅かったおかげで簡単に躱すことに成功する。
そして、両手のバチで何度か滅多打ちにすると、敢えなく芋虫もポリゴンへと散っていく。
最後に近くで動きが止まっている巨大蜂にトドメを刺すべく接近するも、それより先にギターの音撃が巨大蜂の息の根を止めてみせた。
(これで、一旦は片付いたか……)
が、まだ戦闘は続行させる。
いちいち休憩していたようじゃ、いつまで経ってもローンは返済できないだろうしな。
コトと視線を合わせると、向こうも同じ考えだったようで、うんと頷きながら演奏を継続させていた。
それからしばらくの間、俺らは連戦に入ることにしたのだった。
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