ついでに自分も

 契約の誓約書ギアスノートに書かれていた内容をまとめるとこうだ。


・購入プレイヤー(おコト)は商品の支払い(計十五万ガル)が終わるまで、獲得したガルの半分を販売プレイヤー(餓狼丸)に譲渡する。

・商品を購入するあたり、購入プレイヤー(おコト)と保証人プレイヤー(俺)は販売プレイヤー(餓狼丸)に頭金として一人二千ガル、合計四千ガルを支払う。

・購入した商品のメンテナンスは『ガロウマル楽器店』でのみ行う。


 以上、三点が武器を購入する為の条件だった。


 これが相場の契約内容なのかは分からないが、悪くない契約ではあると思う。

 割引した値段で売ってくれた上に利子も無し、それに頭金も少し手心を加えてくれたから所持金がギリギリ底を突かずに済んでいる。


 念の為、もう一度契約内容に目を通してから、差し出された署名用ウィンドウにサインをすると、勝手に所持金から二千ガルが消失した。


 これは契約成立……ってことでいいのか?


「毎度ありがとうね。これでそのギターはおコトちゃんのものよ」

「本当ですか!? えへへ、やったー! 大切に扱いますね!!」


 コトが無邪気な笑みを浮かべて礼を告げると、


「良いってことよ。その代わり、ガンガンに弾いてお店を宣伝していって頂戴」


 餓狼丸はお返しと言わんばかりにパチリとウィンクを決めてみせた。


 なんか目元にハートのエフェクトが発生したのは、きっと気のせいだろう。

 ……うん、そうに違いない。


「任されました! グラシアに素敵な楽器店があるってゲーム内全部の街を宣伝して回りますね!」

「あら、随分と壮大にやってくれるのね」

「ええ。元からケイと二人でワールドツアーをやろうってことでOROを始めましたから!」


 あー……そういえば、オリヴァ始めた目的それだったな。


 ここまで色々あったから忘れてた。


「ワールドツアー! 素敵な目的ね。いいじゃない! 応援してるわ」

「はい、ありがとうございます! ……じゃあ、次はケイの分だね」

「……ん、俺?」

「うん。まさか、その太鼓のバチだけでライブするつもりじゃないよね?」

「いや、流石にそれはやらねえけど……」


 俺だっていい加減、ドラムスティックに持ち替えたくはあるし。

 何なら良さげなのあれば、後で買おうかなとか考えていたところだ。


「でも、ドラムスティックだけあったって仕方ねえだろ」


 言って、店内を見渡してみる。


 店の中にあるのはギターやベース、それとキーボードに管楽器が何種類か。

 残念ながら打楽器と呼べる物は置かれていない。


 ストリートであればバケツやらガラクタやらで代用して演奏するってのも一つの手ではあるが、ゲームの中だと逆にそういった物は集めにくいだろう。


 なんて思っていると、


「あるわよ。ドラムセット」

「……マジすか?」

「ええ。お店の中に置こうとするとスペースを取るから展示してないだけで、ちゃんとカタログは用意してるわ。ちょっと見てみる?」

「だったら、是非」


 お願いします、と頭を下げれば、餓狼丸は快くウィンドウを飛ばしてきた。


 とりあえずページ全体をザッと流し見てみる。


(へえ……ちゃんと部品ごとに揃えてあるんだな)


 基本的な部品を一通り揃えたセットから、スネア、バス、タムと言ったように一つ一つバラ売りもされてある。

 太鼓類だけじゃなくて、ペダルにシンバル類、他アタッチメント系統も細かく掲載されている。


 それとギター同様、ドラムもリアルに寄せた奴とファンタジーって感じのデザインの奴まで色々と揃えてあった。

 多分、後者は戦闘用に合わせて作られた物だろう。


 眺めているうちにふと、ある疑問が脳裏に浮かぶ。


 ……そういや、ドラムってどうやって戦うんだ?


 座って戦う……だと、隙がデカすぎるよな。

 というか、回避できないから狙われた時点で結構マズい事になる。


 現実的に考えれば、マーチングドラムみたいにホルダーを担ぎながら戦う、ってのが妥当だけど、それでもギター以上に戦いづらそうだよな。

 となると……なんだかんだバチでぶん殴るのが一番無難か。


「ケイー、決まったー!?」

「おわっ!? びっくりした。耳元で大声出すなよ」

「ごめんごめん。それで何かいいのはあった?」

「……そうだな」


 改めてカタログに目を通す。

 実際に音を聞いてないから、これだっていうのはまだないが、気になる商品はあった。


「これら……かな」


 俺が指を差したのは、バラ売りの部品達だ。


 木目が斜めに走る墨色のシェルが特徴のバスドラムに、ジェットブラックの外観がよく映えるやや小ぶりなスネアドラム。

 それとハイハットの基本の三点にクラッシュシンバルを加えた最低限のセット。

 あとフットボードがちょっとだけ長めのシルバーのシングルペダルを選択し、買い物カゴに入れる。


「あらあら、とてもシンプルなドラムセットね」

「タムとかライドとか買ってる金ないからな。それにビートの軸になる基本の三点とその周りだけは拘りたい派なんだ。どれだけ金がかかろうと……」


 言いかけて、ピタリと固まる。


 合計の値段——三十万ガル。

 ……完全にやり過ぎた。


「……契約の誓約書ギアスノート、交わす? 頭金は免除してあげるから」

「うす。お願いします……」


 こうして、ゲーム開始初日にして二十五万ガル(五万はおまけしてくれた)のローンを背負うことになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る