ガロウマル楽器店

 道中で遭遇した雑魚敵は蹴散らしつつ、暫く平原を歩き、ようやく街に辿り着く。


「やっと着いたー! ここが最初の街かー」

「みたいだな。景観は普通っぽいな」


 RPGではよくある中世ヨーロッパ風の城下町って感じの街並みだ。

 ただ、通りに等間隔で設置されている街頭は特殊な鉱石みたいなのを使っている辺り、そこは魔法の世界って感じはする。


「とりあえず、奥に進むか」

「だね。レッツ、街探索〜♪」


 街の中を歩きながら、周囲を見回してみる。


 へえ、最初の街だけど、プレイヤーによってかなり装備の格差があるみたいだな。


 すれ違うプレイヤーの装備を横目に、俺はそんな感想を抱く。

 というのも、俺らみたいなNPCが着ていそうな衣服のプレイヤーから、全身モンスターの素材で作られたであろうフルプレートアーマーにごつい大剣を背負った歴戦の猛者みたいなプレイヤーまでピンキリだったからだ。


 ああいう凄え装備見ると、ちょっとモチベ上がるよな。

 俺も同じような装備を手に入れたくなるってものだ。


 ——ま、今回は目的が違うから、出来たらやるって感じだけど。


 視線を前方に戻しつつ、俺はメニュー画面を開いてみる。

 ステータスやら装備やら幾つかある項目の中からマップをタップすると、画面が現在地周辺を移した地図に切り替わる。


「おお、凄え。コト、見てみろよ。作り込み半端ねえぞ、このマップ」

「どれどれ……おおっ、ホントだ! どこにどんな店があるのかまで表示されてあるね」


 路地裏や入り組んだ道といった細かな地形だけでなく、街の中のショップがどこにあるかまで事細かに記載されてある。

 しかも、アイコンで何の店なのか分かる上に、ついでに店名まで書かれているおまけ付きだ。


 それとマップの左上には現在地が書かれている。

 城下町グラシア——マップを拡大してみると、どうやら王都と隣接しているらしい。


 なるほど、通りで装備が整ったプレイヤーが近くを通りかかっていたわけだ。


 ピンキリだった理由に納得しつつ、マップを最初の状態に戻す。


「コト、どっか寄ってみたいところとかあるか?」

「んー、そうだなあ……あっ、こことかどう!?」


 マップを軽く操作してからコトが指差したのは、武具屋のアイコンだった。

 店名は『ガロウマル楽器店』——プレイヤーが経営する店のようだ。


「いかにも音楽士専用のショップっぽい名前だな。にしても、音楽士が実装されたの今日なのにもう店が建てられたのか……?」

「まあ、細かいことは気にしないでとにかく行ってみようよ! ほらほら、ゴーゴー!」

「あっ、おい押すな!」


 というわけで、マップに従いガロウマル楽器店とやらに向かうことにする。


 結構近場にあるようで、歩いて十分と経たずに店の前に辿り着く。


「ここが……ガロウマル楽器店。一見の客は入りづらそうな外観してんな」


 廃屋寸前みたいな寂れた暗い色合いの外壁にあるのは、風化したけたポスターとそれらが剥がされたような跡。

 ドアや窓の塗装は若干剥がれ落ち、なんかもう閉店されてんじゃないかとすら思えてくる。


「いいね、いいねー! このダークな感じ、名店って雰囲気がプンプンするよ! ほら、ケイ。突っ立ってないで中に入るよ!」

「はいはい」


 コトに腕を引っ張られ店内に入る。

 外観のイメージ通りというべきか、店の中の照明は薄暗く、ぶっちゃけあんま長居はしたくないっていうのが第一印象だ。


(客は……いなさそうだな)


 唯一いるのは、カウンターに座る厳つい顔の男プレイヤーだけだ。


 額から右の頬にかけて深々と刻まれた三本の爪痕に、両耳にたくさん入れられたピアス。

 左の頬から肩にかけて彫られた独特な模様のタトゥー。

 よく見れば、指先まで含めた腕周りや胸元にもガッツリタトゥーが入れられている。

 それと髪型は襟足がやや長めのツーブロオールバックで、ハーフアップみたく後頭部辺りで髪を結えている。


 見た目は完全にアウトローのそれだった。


 言っちゃなんだが、現実で遭遇したらあまり関わり合いになりたくないタイプだ。

 だけど、コトは臆することなく男に声をかける。


「すみませーん」

「あ”ぁ”?」

「楽器店って聞いてやって来たんですけどー」


 男はぎろりと睨め付けるように俺らを見据える。

 ドスの利いたような低い声と気の弱い人からすれば今にも泣き出したくなるであろう鋭い眼光に、ついちょっとだけ身構えてしまう。


 しかし——、


「あら、ヤダ〜! 随分可愛らしいお客さんじゃない!」

「……ん?」

「あっ、いけない。あまりにお客さんが来ないからお部屋を暗くしたままだったわ。すぐ明るくするからちょっと待っててね」


 男はすぐに椅子から立ち上がると、メニューウィンドウを操作して部屋の照明を明るくする。


 明るくなった部屋を一望すると、壁や陳列棚に様々な音楽士専用であろう武器が飾られてあった。

 他にも様々なピックやら弦やら、ドラムスティックやらも置かれてある。


 ……こうして見ると、本物の楽器屋っぽいな。


「自己紹介遅れたわね。私、餓狼丸。ここの店主で生産職やってまーす。音楽士実装に合わせて今日から楽器系の武器専門のお店を始めたのは良かったけど、誰もお客さんが来ないからどうしようと思ってたところだったのよ」

「へえ、そうだったんですね。あ、アタシはおコトって言います! それと隣にいるのはケイ。二人で新米音楽士やってます」

「うす」

「おコトちゃん! 名前もとっても可愛いのね! そっちのケイくんもかなりのイケメンくんじゃない。二人はカップルだったりするのかしら」

「アハハ。残念ながらケイとは、ただの幼馴染みですよ」

「あら、ごめんなさい。野暮な詮索をしてしまったわね」


 ……やべえ、見た目と中身のギャップで脳がバグりそうだ。

 というかコトはよく普通に接してられんな。


 最早、どこからツッコめばいいのか分からないので、口を噤んでいると、餓狼丸はにこにこと笑みを浮かべながらこちらに近づいてくる。


「良かったら、お店の中を見ていって頂戴。リアルの楽器に寄せた物からゲーム攻略に向けた物まで色々揃えてあるわよ」

「本当ですか!? 見ていこうよ、ケイ!」

「……そうだな。音楽士の武器専門店とか他にそうそうないだろうしな」


 店主のクセが強いだけで、俺としても品揃えは普通に興味あるし。


 そんなわけで、店の中を一通り見て回ることにした。

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