第2話 一目惚れ

 

 ──龍。


 曰く、それは最強の生命種。


 曰く、それは厄災の具現。

 

 こと、最強魔物談義において、真っ先に名が上がる存在。


 迷宮ダンジョンが出来て半世紀。世界を見渡しても、討伐された報告は両手で数える程度である

 

 そんな存在がこんな所で、しかも迷宮ダンジョン外で暴れられたら対処のしようが無い。だからこそ、まだ話が出来るうちに迷宮ダンジョン内に戻って欲しいのだ。


「あーひとまず、龍なのは分かった。で、お願いなんだけど、迷宮ダンジョンに戻ってくれませんかね?」


『……それに答える前に、一つ問おう。』


 龍の発する圧が高まる。

本能的に、ヤバいと、脳が警鐘を鳴らす。

だが、逃げ出すことも、目を離すことも、俺には出来なかった。


『何故だ。何故、お前はを助けた。人間にとって魔物我らは悪であり、倒すべきもの。あのまま放置していれば死ぬと分かっていながら、龍樹……お前は我を助けた。』


 魔物とは、迷宮ダンジョンに巣食う、人にとっての敵対者であり、魔物使いテイマーによりテイムされた者を除けば、それは全て人類にとっての倒すべき者である。


 だからこそ、俺が自分を助けた意味が分からない。そう、あいつは思っているのだろう。

そして、あいつが言っていることは紛れもなく正論だ。あいつは魔物で俺は人間。俺が魔物を助けるなんて意味はなくて、後々敵になると分かっている存在を助ける意義など存在しない。


 ああ、だけど俺はそれを分かっていながら助けてしまった。


「そうだな……改めて何故?って問われると難しいけどさ。まぁ、そうだね……生きてて欲しかったんだよ。お前に……死んで欲しく無かった。だから俺は助けた。ただそれだけのことだ。あー……こうやって言うのは恥ずかしいけどさ、お前を一目見た時、カッコいいと思った。美しいと思った。まぁ、端的に言えばってやつ?」


 はっきり言って、自分がおかしな事を言っていることはわかってる。でも、それは本当のことなのだ。あいつの姿を見て、俺はカッコいいと、美しいと思った。もっと見ていたかったし、動いてるところを見たかった。だから、助けた。ただそれだけ。……納得してくれるかは分からないけどね。


『────』


 話し終わり、龍の姿をみる。

絶句していた。固まっていた。まぁ、分かっていた反応ではあるけど。普通、あんなこと言うとは思わないよな。


『──そんな理由でか……そんな理由で我を助けたと……まったく……我には理解できん。

だが……面白い。たかが、ひと時の感情で、己が種族の敵対者を助け、自分の未来すら賭けるとは!!実に人間らしいなお前は!!』


 なんか急にテンションが上がった。

目の前の龍は唐突に浮遊すると、俺の頭の上に乗ってきた。いや、ちょっと頭の上乗んないで……こう、なんかムズムズする。


「おーい。何で上に乗ったんだ。と言うかさっきの質問の答えを聞いてないんだけど。」


『え、嫌だが。』


 嫌って……


「嫌って……」


『お前が、一目惚れしたなんて言うからだぞ。龍樹、お前に興味が出た。故に、我はお前と共にゆく。異論は認めんぞ。』


 あー……もしかして俺のせいか?これ。

俺が一目惚れしたなんて言っちゃったからか?

はぁ……まぁ、仕方ないか。惚れた弱みってやつ?他の人に危害を加えないならいいか。俺もあいつと一緒にいられるのは嬉しいからな。


「分かった。迷宮ダンジョンに戻んなくて良いよ。扱いとしてはテイムした魔物でなんとか……ならないだろうけど、そこら辺はなんとかするしか無いなぁ。」


『……龍樹。』


 唐突に、俺の名を呼んできた。


「どうした。改めて。」


『我に名をくれ。』


「はい?」


『これからお前と過ごす事になるだろう?その時、名前がないと不便では無いか。あと、単純にお前呼びは嫌だ。』


「お、おう……そうか。」


『だから何か考えるがいい。我に相応しい名をな。』


 急に、名前をくれと頼まれた。まぁ、確かにお前呼びは不便だわな。……それにしても嫌だってなんか可愛いな。


『龍樹、今変なことを考えただろ。』


「いや、なんのことかな?知らないなぁー」


 おっと……バレてた。


 それにしても名前かー。うーん、龍だし威厳のありそうなのが良いよなぁ。あと呼びやすいの。うーん……………………………………

あ………………いいの思いついたかも。


──よし、決めた。


「アルビオン。アルビオンはどうだ?」


 アルビオン。それは白を意味する名。こいつの真っ白な身体から連想したんだけど。カッコいいし、我ながらいいネーミングセンスしてるんじゃない?


『アルビオン……アルビオンか。良い名だ!!気に入った!!』


 アルビオンはそう嬉しいそうに言うと、何度もその名を反芻する。うん。気に入ってくれたみたいで良かった。

……なんと言うか、何度も、噛み締めるように自分の名を反芻するのなんか可愛いな。


「気に入ってくれたみたいで何より。アルビオン、これからよろしくな。」


『我こそな。龍樹、お前のこれからの物語を楽しみにしている。』


 

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