龍を拾った。配信者になった。

菊理

第1話 龍を拾った。

 

 それは、ある日のこと。


 ──白蛇が倒れていた。


 家の庭に、真っ白で、神秘さを感じさせ、何よりも美しい小さな蛇が倒れていた。


 一瞬ビビって後退りそうになったが、堪えてその白蛇に俺は近づいた。そして、よく観察する。


「蛇……じゃ無い?」


 よくよく観察してみると、所々違っていた。

まず、四本の足が存在していた。

そして、頭には二本の小さな角が生えていた。


 これを見て、蛇では無いことを確信した。


 「……っ、ひとまず治療しなきゃ」


 そもそも、この存在について考えている場合では無かった。まだ、こいつが何者かわからないから白蛇と呼称するが、こいつは明らかに衰弱していた。身体の至る所に傷痕が存在していた。今もなお、生きてるのが不思議なくらいに。


「もう少しの辛抱だ。後ちょっと耐えていてくれ。」


 俺は白蛇にそう声をかけると、急いで家にあるモノを取りに行く。


「よし!!これでなんとかなるといいけど。」


 目的のものを見つけ、すぐさま庭に戻ってきた。


 とってきたのはポーションと呼ばれる、液体の入った瓶。このポーションがあれば部位欠損程度であれば再生できるというもので、俺の両親が万が一の時のためにと、俺にくれたもの。

 

 その中の液体を、刺激を与えないように、白蛇に浴びせていく。


「よし、傷は治ったか。」


 少なくとも、傷は治った。さっきまであった痛々しい傷は何処にも見当たらなかった。


 だけど、白蛇の意識は戻らないままで、未だぐったりと倒れているだけだった。


「まぁ、取り敢えず家の中に入れるか。ごめんな、ちょっと触るぞ。」


 そっと、丁寧に白蛇の身体を持ち上げ、抱き抱える。


 ……へぇ、堅いな。もっと柔らかいのかと思ってたんだけど。


 触ってみて初めて分かったことだが、想像以上に白蛇の身体は堅かった。少なくとも、並大抵の刃物では傷つけられないくらいには。


 だから、なんであんなにも傷ついていたのか気になるけどね。


 白蛇を抱き抱えながら、俺は自分の部屋に戻ってきた。


 今、白蛇はクッションの上で横になっている。暫くは様子見かもしれない。


◆◇◆◇


 今から約半世紀前のこと。

世界中に突如として、迷宮ダンジョンと呼ばれるものが現れた。それと同時に、同調するように、人類に[スキル]と呼ばれる異能が発現した。あるものは剣術が飛躍的に上昇したり、あるものは、炎、氷、雷などを生み出し操ってたり、またある者は傷を癒す力を持っていたりと、摩訶不思議な現象を起こすことの出来るものが人類には発現したのだ。


 また、迷宮ダンジョンには、魔物モンスターと呼ばれる幻想生命体が存在する。魔物モンスターを倒すことにより、様々な素材が入手できたり、今となっては世界中のエネルギー供給源となら魔石を入手できたりと、迷宮ダンジョンが現れたことによる恩恵は計り知れなかった。


 それは兎も角、俺の仮説ではこの白蛇、魔物モンスターではと考えている。


 尤も、本来魔物モンスターが地上に出てくる時はとある一つの事象を除いて存在しないとされている。


 だからこそ不思議でならないが、そんなことを考えてもどうしようもなくから一旦、考えるのを止めた。


 現在、俺は横になっている白蛇をいつ目覚めてもいいようにと、見守っていた。そして、手には【鑑定のルーペ】と呼ばれる魔道具を持っていた。


 魔道具。

それは、迷宮ダンジョンから入手した、または、とあるスキルを持った人間が作り出した、[スキル]が付与されている道具のことを指す。


 俺が今持っている【鑑定のルーペ】。これはその名が示す通り、[鑑定]と呼ばれる、対象に使用することで、その対象の情報を読み取れるというスキルが付与されている。

 

 例えば、俺に対して使ってみるとする。

すると、半透明な、文字が書かれた板が出現する。


───────

【名】白神しらがみ龍樹りゅうき

【種族】人間

【スキル】

───────


 こんな感じで、この[鑑定]と言うスキル、生物にも使えるのだ。まぁ、デメリットがそれなりにあるけど、使うと相手に気づかれるんだよね。だから魔物相手に使用すればこちらに気づいて襲ってくる。

 人、相手には許可なく使用すれば捕まる。思いっきりプライバシー違反になるから、妥当と言えば妥当だけど。


 因みに[スキル]がまだ何も所持してないのは、俺がまだ魔物を倒してないから。原理は不明だが、魔物を倒すことにより[スキル]が手に入る。尤も、迷宮ダンジョンに入るためには16歳以上にならないと入れないし、それまで色々な審査があるのだ。俺はまだ16歳になっていないからまだ[スキル]を得ることは出来ない。


 なんか脱線しすぎた気がするのだか。

まぁそれはともかく、俺が【鑑定のルーペ】を持って白蛇の前に待機してるのは、こいつの正体を知るため。今は白蛇呼ばわりしてるけど、種族は違うだろうしね。


 ただ、下手に刺激を与えないために白蛇が起きるまで使えないんだけど、と言うか起きてからも使えるかどうか怪しいんだけど。


「────!?」


 そんなことを考えていた時だった。

目の前で、横になっている白蛇が動き出した。


 白蛇の目が俺をじっと見つめる。

真っ白な身体とは対照的な、何処か恐怖すら感じさせる漆黒の瞳。それでいて、美しく、神秘的な瞳。


 俺は、その瞳から目を離せないでいた。


『人間。お前か。傷を癒したのは。』


「──は」


 突如として、声が聞こえた。

男性の声とも、女性の声とも断言できない、声が。それでいて、とても威厳のある声。


 何故か、俺は漠然と目の前の白蛇が発しているのだと思った。


「────」


『お前か、と聞いている。答えよ。』


「えっと……白蛇──貴方の傷をと言うことで?」


『……白蛇では無いが、そうだ。』


「それなら、俺がやったけど……」


『そうか。感謝する、人間。』


「あーそれで、一つ聞きたいんだけど、なんであんな事になっていたんだ?」


『さぁ?』


「えぇ……」


 なんか、さっきまで威厳たっぷりだったのに、なんか急になくなったんだけど。


「……分かんないの?」


『分からん。』


 そっかー分かんないかー。迷宮ダンジョンじゃなくて、外に出てる魔物だから、その経緯を知りたかったんだけど。っていうか、会話できるんだなこの白蛇。魔物の中には話す事の出来る魔物もいるから不思議では無いけどさ。


「あー白蛇さん?なんとか思い出せない?」


『思い出せん。それと、白蛇では無いぞ!!人間!!』


「じゃあ、何者なんだ?あと俺にも龍樹りゅうきっていう名前あるから。」


『龍だ。』


「えっと……何が?」


『何がって、龍樹りゅうき、お前が聞いてきたものだろうか。』


「あー……ってことはお前の種族は龍ってこと?」


『そうだ。』


「龍ってあの龍であってる?」


『お前がどの龍のことを指しているかは知らんが、我は龍だ。』


「あー疑ってるわけじゃないけど、ちょっとこれで鑑定しても?」


 俺はそう言って、【鑑定のルーペ】を見せる。


『好きにするがいい。』


「じゃあ、遠慮なく。」


 こいつの許可が降りたので、【鑑定のルーペ】を使う。

 半透明な、文字の書かれた板が表示される。


───────



【種族】─────龍



───────


 まともに表示されたのは、ただ一つだけだった。他は文字化けしていて何も分からない。


 分かったのは、こいつが言っていた通り、龍であること。


 どうやら俺は、龍を拾ったらしい。

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