もみぢの枝に真珠のしずく ☔

上月くるを

もみぢの枝に真珠のしずく ☔





 いつの間にか人の背丈になっているもみぢの木には、まだ葉が出て来ていません。

 細い枝に雨粒が横一列になって、ときならぬイルミネーションをつくっています。


 その枝も幹も内から滲み出るような深紅色で、だれがなんといってもくれなゐで。

 しっかり地中に這っているであろう根の先の先まで紅色であることが分かり……。


 数年前に体調をくずしたとき、東側の窓から見える植物に少しでも呼吸を楽にしてもらえたらと、文字どおり藁にすがって買い求めたときにはまだ小さな苗木でした。


 いまは堂々たる幹を真っ直ぐ天に伸ばし、となり合うそよごと背丈を競っている。

 その裾野の薔薇、ミニ紫陽花、沈丁花にもやさしく降りそそぐ春の雨、愛おしい。




      🌺




 雨に労わられ、太陽に励まされ、風にひやかされ(笑)しながら大きくなった樹。

 おかげで心身の病は小康状態を得て、息が出来ない恐怖におそわれることもなく。


 静かな歳月を重ね、いつか空で待つ犬のもとに行く日が来るだろうが、そのとき、この愛し子たち……もみぢやそよご、薔薇、ミニ紫陽花、沈丁花はどうなるだろう。


 心療内科の先生には、自分がいなくなったあとのことまで心配するとわらわれる。

 そうだね、どうしようもないことを気にしても、それこそどうしようもないよね。


 そのときはそのとき、この家の新しい持ち主が植物好きであることを祈るばかり。

 それに、子どもたちのどちらかが、自宅の庭に移してくれるかも知れないし……。


 


      🌞




 気づけば、音もなくやわらかく降っていた春の雨は、いつの間にかあがっている。

 いろいろあった人生のさいごに残された穏やかな時間に感謝して今日を生きよう。


 もう一度よく見ると、真珠の雨粒を並べたもみぢの枝先に、小さな芽が出ている。

 すごいよね~、自然って、放っておいても季節を循環するんだから。👏👏👏👏




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もみぢの枝に真珠のしずく ☔ 上月くるを @kurutan

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