第20話「碧靂の出遭い」

 ある縁日の事。


『ぴよぴよ』『ぴっぴっ』『ぴこから~♪』

「へぇ、カラーひよこか、珍しいわね……」


 何となく立ち寄った屋台で、少女は今時珍しい「カラーひよこ」を発見した。

 カラーひよことは、読んで字の如く、塗料で染め上げられたひよこである。見た目こそカラフルで可愛らしいが、その染色過程で熱風に晒される為、短命に終わる事が多く、的屋からは「ハヤロク」呼ばわりされていたりする。ついでに言うと、直ぐに羽毛が生え変わってしまうので、この七色七変化を拝める期間は、そう長くない。

 ようするに、旧き良き動物虐待だ。今やったら確実に周囲から叩かれるし、何ならネットに上げられて人生終了である。この屋台の人は何でこんな物を売ってるんだろう?


「………………」


 しかし、的屋の店主は反応しない。幾ら目の前で手を振ろうが、堂々と動画を撮ろうが、気にも留めず、唯々ひよこを勧めて来る。


『ピヨッ♪』

「……買ってしまった」


 店主の圧に負けてしまった。完全な売り勝ちだ。


「まぁ、良いか」


 可愛いは正義である。儚い命を愛でるのも乙だろう。育成ゲームをしているような物だ。動かなくなった暁には本気で泣くのかもしれないが。


「名前は「みどり」にしよう。緑色だからね」

『ピヨッ!』


 名付けられたのが嬉しいのか、カラーひよこ改め「みどり」が嬉しそうに踊る。言葉が分かるのだろうか?

 まぁ、そんな事はどうでも良い。これ以上祭りの最中を歩く意味も無いし、さっさと帰るとしよう。


『……ピヨピヨ』


 一瞬、みどりの目が光ったと思ったが、気のせいにしておく。


 ◆◆◆◆◆◆


 ある縁日の夜道。


『コォオオオン……』


 走る疾走る、迸る。稲荷火纏いし野狐が、直走る。

 彼なるは妖狐。獣を超えし、神に至らぬ紛い物。

 故に求める。神域へと進まんが為、狐は狩る。犬と言わず、猫と言わず。鼠すらも逃さない。


「うぅ……」


 見付けた。火灯しの器。罅割れだらけな心の隙間から取り憑けば、彼の者は人の世に解き放たれるだろう。


『コァアアアッ!』

「うっ!? ……あぐ、がが、ぐぁ……うぅんっ!」


 狐火の見せる幻が少女を包み、野狐は人妖一体となる。


『キュァアアアアアッ!』


 いざ行かん、邪なる神の黄泉路へ。


 ◆◆◆◆◆◆


 ここは閻魔県要衣市古角町、峠高校。

 そして、ここは二年三組の教室。今日も今日とて生徒たちがざわめき、実りの無い会話で溢れ返る。


「ふぅ……」


 そんな中で、夜鷹よだか 星花せいかは特に誰と話すでもなく、ぼんやりと窓の外を眺めていた。別にボッチという訳ではない。気掛かりな事があるだけだ。


「どうしたの?」


 と、星花に話し掛ける少女が一人。彼女は稲葉いなば 時雨しぐれ。星花の友人である。


「いや、ちょっとね……」

「何よ、隠し事? 水臭いわねぇ。話してご覧なさいな」

「お節介な奴だなぁ。……まぁ、良いか。別に減る物じゃないし」


 星花は頬杖を着きながら、時雨は椅子の背もたれに胸を預けながら、会話を始める。まさに青春の一ページだ。


「で、どうしたの?」

「いやさぁ、この前、縁日の祭りがあったじゃん?」

「ああ、あったわね。それがどうかした?」

「そこでさぁ……何か勢いで買っちゃったんだよね、カラーヒヨコ」

「ええっ、そんなのまだあったの!?」


 星花の発言に、時雨が驚く。当然の反応だろう。今時こんな動物虐待行為が流行る訳が無いのだから。


「……って言うか、買っちゃったんだ」

「うん。店主の圧に負けちゃって……」

「良いカモねぇ、あんた」

「お黙りんしゃい」


 だが、その通りではある。言い訳の仕様もない。


「だけど、買ったからには、ちゃんと飼いなさいよ?」

「分かってるよ。だから、どう飼えば良いのか思い悩んでるんじゃん」

「まぁ、ひよこなんて飼った事無いわよねぇ……」

「そ。……確か、あんた家で鶏飼ってたわよね?」

「飼ってるわねぇ」

「……この通りです、飼い方をレクチャーして下さい」


 星花はパァンと手を合わせた。蚊を叩き潰すような勢いで。煩い。


「………………」

「……何で鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔してんの?」

「お相撲さんもビックリな猫騙しをしといてよく言うわね。……ま、良いわ。なら、私からもお願いがあるんだけど」

「お願い?」

「うん。実はね――――――」


 その内容とは、


「何で私がこんな事を……」

「友人の頼みだと思って、お願~い♪」


 時雨と一緒に「コトリバコ」へ手紙を出す事だった。もちろん依頼主は時雨本人だし、星花には何の関係も無いのだが、まぁ怖いのは確かだから仕方ないだろう。これも「みどり」も為である。


「手紙を出したのはお前らか?」


 すると、何時の間にやら噂の説子が、二人の背後に立っていた。


「あ、えっと、私は付添人というか……」

「依頼をしたいのは私の方です! でも、ちょっと一人だと不安なので、一緒に来て貰いました」

「そうか……まぁ、それもそうだな。良いだろう。付いて来い」


 そういう事に為った。


『………………』


 そんな彼女らを、怪し気な双眸が見送った。


 ◆◆◆◆◆◆


 その日の夜。


「ふぅ……」


 何やかんやで無事に付添を果たし家に辿り着いた星花は、思わず溜息を吐いた。


「それにしても、時雨にあんな悩みがあったなんてね……」


 そう、時雨には誰にも言えない、信じてくれそうもない悩みがあったのだ。



 ――――――数日前から、鬼火に付き纏われている。



 それが、彼女の悩みだった。彼氏の瀬碓せうすくんと縁日に行った帰り道に偶然目撃し、それ以来、事ある毎に視界の隅をチラつかれて困っているのだという。特別害がある訳では無いが、確かにそれはウザったい。


「鬼火ねぇ……まぁ、良いだろう。聞き入れてやる」


 噂のマッドサイエンティストは一瞬含みのある視線を時雨に向けたが、割とあっさり承諾した。内容が簡単だったからだろう。

 さらに、今夜中に解決の為に乗り出してくれるのだとか。善は急げという事だろうが、随分と慌ただしい。何れにしろ、ひよこの飼い方についてはまた明日である。


「ただいまー」


 そして、何もやる事がなくなった星花は帰宅した。誰も居ない家に・・・・・・・


「ただいま、みどり。良い子にしてた?」

『ピヨピヨピヨ』

「そっか。……なら、ちょっと散歩にでも行こうか。月が綺麗だしね」


 しかし、暇を持て余すのも勿体無いので、その足で夜の町へ繰り出す。一抱えもある程に成長したみどりを抱いて。


 ◆◆◆◆◆◆


 一方その頃、時雨たちはというと、


『シャアアアッ!』

「まーたこういうパターンか」

「商売上がったりも良い所だな」


 思い切り敵対していた。

 正確に言うと、既に妖怪に・・・・・身体を・・・乗っ取られて・・・・・・いた時雨・・・・が、里桜と説子に襲い掛かっていたのだ。


「二年三組、稲葉 時雨。クラスメイトの瀬碓せうす 来田らいでんとかいうキラキラネーム野郎とお付き合いするも、奴が四股を掛けていた事が発覚し、縁日の帰り道にして刺殺。その際、何らかの妖怪に取り憑かれ、成り済まされていた……と、こんな所か」

「四股はヤバいな。お盛んな事で」


 つまりは、そういう事・・・・・だった。


『コァアアアン!』


 と、時雨の生気を吸い尽くし、取り憑いていた物が羽化するかの如く分離した。青白い毛並みに覆われた、大きな尻尾を持つ狐だ。周囲には時雨の語っていた鬼火が漂っている。


「野狐……いや、「バロウギツネ」か」


 野狐やこ(「野犴」と呼ばれる場合もある)とは、成りたての妖狐であり、ランクで言えば最底辺の化け狐である。

 そして、バロウギツネは野狐の一種であり、背後から負ぶさるように取り憑く、所謂「おんぶお化け」の一種でもある。先程の様子を見るに、寄生生物としての側面が強いようだ。



◆『分類及び種族名称:焔泡超獣=バロウギツネ』

◆『弱点:尻尾』



『コォオオン!』


 バロウギツネが吠え滾りながら、不思議な泡を吐いてきた。中には青紫色の焔が宿っており、ユラユラと揺らぎつつ宙を舞う。


『フシャアアアッ!』


 さらに、泡と同じ色の液体を高圧水流として放ち、周囲一帯をヌルヌルにしていく。



 ――――――ボァアアアアッ!



 しかも、この液体は引火性の強い油のようで、僅かな火種で辺りを火の海にする程。まるでナパームだ。


「チッ……!」


 そして、あっと言う間に炎に囲まれてしまった説子。上は大火事、下も大火事。一歩進むだけで火達磨になる為、逃げ場は全くない。


『キュァォッ!』


 その上、バロウギツネの毛皮は耐火性に優れているらしく、煉獄の渦中を燃える事無く滑らかに移動している。泳ぐような足運びからして、自分の撒いた油を潤滑剤にしているのだろう。その様は、氷上で舞い踊るスケート選手だ。同じ引火液使いの蟹坊主と比べても、扱いの巧みさが窺える。


『調子に乗るな!』

『キュァアォッ!?』


 だが、残念ながら説子も耐火性が非常に高い。それも火ではなく爆炎を操るのだから、油に点いた程度の火炎では死なないのである。彼女に火傷を負わせたければ、マグマに突き落とすくらいはすべきだろう。


『コァアアアアアォォォンッ!』


 いとも容易く反撃されたバロウギツネが、怒りの咆哮を上げる。小柄な身体からは想像し難い、かなりの大声量であった。


『ホァッ! ホァッ! ホワタァッ!』


 さらに、さっきの数倍はあろうかという燃ゆる泡沫を空中へ散布して、


『コァアッ!』

『うぉっと!?』


 高速で宙返りをしながら尻尾を叩き付ける。岩盤が捲れ上がる程の威力があり、直撃せずとも衝撃波で説子を吹っ飛ばした。


『キュァアアッ!』


 そして、バロウギツネは着地したその場でグルグルと回り出し、次の瞬間、針のような物をばら撒き、説子を針の筵にした。おそらく針毛を意図的に抜いて飛ばした物と思われる。


『うぉあっ!?』


 しかも、空中に待機していた泡を正確に射抜いて、全方位から一斉に、説子を焔で集中砲火した。幾ら空気中とは言え、全集中した炎は超高温であり、これには説子もダメージを受けた。


『ヴォァアアアアアアッ!』

『………………!』


 しかし、強い再生力を持つ説子にとっては大した物ではなく、それ処か火炙りにされた事で、彼女の怒りは一気に沸点を突き抜け、火山が大噴火した。稲妻を纏いながら燃え上がり、大地を踏み鳴らしながら歩く姿は、まさしく地震・雷・家事・説子だ。


『キュァアアアッ!』


 本能的に生命の危機を感じ取ったバロウギツネが、反撃の暇を与えず一気に仕留めてしまおうと、再び泡撒きと針の筵によりうコンボ攻撃を仕掛けようとしたが、


『ゴヴァアアアォッ!』

『ギュァアア……ッ!?』


 自爆による熱波で一切合切を吹き飛ばす説子には通じなかったばかりか、特大のダメージを受けて戦闘不能となった。熱に強くとも、物体を透過する放射線や防御力を貫通してしまう衝撃波には勝てなかったよ。


『コォォォォ……ッ!』


 さらに、怒れる説子が溜め攻撃を放とうとし始め、いよいよ以てバロウギツネの最期が訪れる……かに思われたが、



 ――――――ザァアアアアアアアアッ!



 突然の大豪雨、狐の嫁入りである。


『ぬぅ……!?」


 呼吸も儘ならず、叩き潰されるような勢いの雨に、攻撃を中断してしまう説子。彼女の熱と耐久力なら問題無いのだが、唐突な展開についつい思考が止まってしまったのだ。知的生物共通の弱点と言える。


『クゥゥゥ……』


 その隙にバロウギツネは鎮火され滑りが良くなった油を利用し、スルスルと逃げ出してしまった。


「チッ……まぁ良い。あの傷じゃあ、暫くはどうしようもないだろう」


 最悪そのまま息絶えてしまうかもしれない。そんな奴を追い打ちする程、説子はブチ切れていなかった。精々プチ怒り程度であり、バロウギツネは彼女の気紛れに救われたと言える。


「それにしても、さっきの雨は何だったんだ?」


 それよりも、この突然過ぎる通り雨の方が気になっていただけ、とも言えるが。


「とりあえず帰るか……」


 何れにしろ、戦いは終わった。本当なら死体を回収したい所であるが、こんな土砂降りの中で探すのは面倒だし、サンプルとして残った油を持って帰れば、一先ずは里桜も文句は言わないだろう。


「――――――良くやった。褒美に死をやろう!」

「うぉおおおっ!?」


 許されなかった。酷い話である。

 と、その時。


「あらら、終わっちゃったの? 残念ねぇ~」『ピヨピヨ』


 この修羅場に似つかわしくない乙女が、大きなひよこを抱いて現れた。戦いの行く末を草葉の陰から見守っていた、星花とみどりだ。顔に笑みこそ張り付いているが、目は笑っておらず、完全に座っている。

 そもそも、みどりの嘴から血肉の油・・・・が滴っている時点で、色々とおかしい。


「何しに来た……と言いたい所だが」

「その様子だと、お前もかぁ?」


 そんな彼女の様子から、里桜たちは全てを察する。要するに、こいつも屑って事だ。


「“そいつ”は波山ばさんの雛だな」


 みどりを見た説子が呟く。

 「波山ばさん」とは「犬鳳凰いぬほうおう」とも呼ばれる、口から火を吹く鶏の妖怪である。主に四国地方の竹藪に棲息しており、鶏の癖に夜行性で、真夜中に人里に現れては不気味な羽音を立てて獲物を誘き出すという。見た目通りの肉食性であり、火で焙ってから食らうらしい。


「そうよ。縁日で買ったの。をあげたら、こんなに大きくなったわ」

「そりゃあ、大人を二人・・・・・も食えば・・・・、成長もするわな」

「いいえ、妹もよ・・・。どうせ誰も私を要らないんだから、その逆もまた然り……でしょ?」


 星花は化け物の雛を愛おしそうに撫でながら答えた。その瞳に、光は無い。


「それで、次はお友達を……って訳か。当てが外れたな」

「そんな事は無いわ。目の前に居るじゃない、美味しそうな獲物が! さぁ、行くのよみどり!」


 そして、嗾けられたみどりは、


『ガブッ!』

「えっ……こけぇっ!?」


 目の前の・・・・美味しそうな・・・・・・獲物に・・・、頭から齧り付いた。それはもうムシャムシャと。


『グヴェエエエイァアアアアッ!』


 さらに、鶏冠や翼の鈎爪、尻尾の鋏に炎が灯り、全身の羽毛までもが七色に輝き出す。みどりは波山として覚醒したのだ。



◆『分類及び種族名称:火山怪鳥=波山ばさん

◆『弱点:鶏冠』



「なるほど、親殺し・・・までが本能か。どっちにしろ、見る目が無かったな」


 今は亡き母親気取りの少女に、里桜が冷笑を浮かべながら見下した。子供はあくまで子供。親心など分かる筈が無い。それが一方的な物なら尚更の事だ。可愛いは正義だが、正義が本当に善い事なのかは別なのだから。


「……で、どうする?」


 呆れ顔で嘆息する説子が、何時までもニヤ付いている里桜に問う。


「もちろん、捕獲するさ。生死問わずにな」


 彼女にとって正しい答えは一つしかなかった。こんな四国産の珍しい鶏を放っておく手はない。


「仕方ないな。……行くぞ!」

『キュヴァアアアアアアッ!』


 そして、妖魔説子と覚醒波山が激突する。


『キャヴォォォッ!』

「鶏が空を飛ぶな!」

『クァカァギィッ!』

「鳥脚キックぅっ!」


 先手は波山。鶏とは思えない見事な飛翔からの連続スライディングキックを繰り出して来る。


『クァッ!』「ぐへぇっ!?」


 さらに、長い尻尾を振るい、白熱化した羽毛を飛ばして来た。高熱を帯びているからか、これがまた鋭い切れ味で、“出血多量には至らないが少しでも力むと血が滲んでくる”という、開き掛けの傷みたいな切り口となる。


『グヴェェイヴァアアアッ!』

「ぐっ……こいつ!」


 しかも、伝承通り口から火を吐く事も出来るようで、火炎弾を複数ばら撒き、逃げ道を塞いでから爆炎を放つというコンボ攻撃を仕掛けてきた。

 その上、翼の鈎爪から炎の刃を形成しつつ、五月雨斬りを放ってくる。高熱で威力を増した連撃は、容易く説子の四肢を分断するだろう。それどころか全身がバラバラである。


『……舐めるなぁ!』

『グヴェイヴァッ!?』


 だが、やられっぱなしの説子ではなく、鈎爪を伸ばして炎を宿し、対抗する。同じ高熱同士であれば、物体が当たるより先に熱で弾き合うので、切り結ぶ事が出来るのだ。


『はぁああっ!』

『ギャヴォッ!?』


 そして、猫又の尻尾を生やして、波山の頭部に叩き付ける攻撃を二連打ァ!

 さらに、怯んだ隙に大きく息を吸い込み、爆炎を超えた熱線を吐いて、波山を吹き飛ばした。プラズマ光を放つ程の強力な電磁場でコーティングされた不可視のトンネルは、膨大な熱エネルギーを余す事無く伝達し、相手を被爆させる。人間どころか、象ですら一撃で沈める必殺技である。


『グヴェエエエイァアアアッ!』


 しかし、元より炎を扱う波山にはあまり通じないらしく、精々表面の羽毛を継続的に焼き続ける程度のダメージしか通らなかった。


『なら、遣り方を変えよう』


 すると、説子は炎を引っ込め、代わりに全身を激しく帯電させ始めた。以前倒した雷獣の力を里桜に移植された事で、雷も操れるようになったのだ。背骨を中心として発電している為か、背中が青白くスクロール点滅している。


『シャアアアッ!』

『ギュァアアッ!?』


 と、説子が電荷を帯びた鈎爪を苦無のように発射した。刺さると感電する上に、新陳代謝を異様に上げているおかげで直ぐに生えてくる為、何度でも飛んで来る、相手に取っては厄介な技である。


『シャラァッ!』

『グウルゥッ!』

『チィッ……!』


 だが、飛ばす為の予備動作が少々大きいので、冷静に対処すれば回避も可能だ。動きの素早い波山であれば余裕であろう。

 しかし、耐熱と耐電は別物(ゴムが熱に弱いのと同じ)であり、痺れる身体を熱で無理矢理に動かしている波山にとっては、割と辛い状況ではある。


『グルシャァッ!』

『グギィッ……!』


 しかも、説子は電気で高速移動しながら素早い連撃を放ってくる為、どうやっても避け切れない。


『グゥゥゥ……キャァアアアアアッ!』

『ギャヴォオオッ!』


 その上、熱線の代わりに集束したマイクロ波を吐いて爆砕するようになったので、余計にやり辛かった。一番被弾していた右の鈎爪が壊れ、息も絶え絶えである。自慢の鶏冠も引き千切れそうだ。


『キシャァアア!』

『グヴェェィ……クァアアアアアッ!』

『ぐぁっ!?』


 だが、やられっぱなしではいられない。波山は持てる力を振り絞り、鶏冠に熱エネルギーを集中させ、巨大な炎熱刃を形成、再び連撃を放とうと向かって来た説子を邀撃した。金属が蒸発する程のパワーを秘めた攻撃は凄まじく、鶏冠がぶっ壊れたが、説子も袈裟斬りにして吹き飛ばした。


「ハイ、ノッキング」

『カッ……!』

『おぃいいいいい!」


 まぁ、大技の後に隙が出来るのは世の常であり、波山もまた高みの見物をしていた筈の里桜にノッキングされ、見事に捕獲されてしまったのだが。まさに漁夫の利。真面にやる気のない、里桜らしい勝ち方であった。


 ◆◆◆◆◆◆


『キュゥゥゥン……』

『お帰り。よく頑張ったわね』

『クゥ~ン……』

『大丈夫よ。仕込み・・・は済んだから』


 誰かがニヤリと嗤った。

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