異世界三種のチートスキルが今逆に新しい

おでんのたまご

第1話 トラックってホントに異世界に跳ばすんですね

 春の陽気な日、眠気をこらえながら高速を車で走っていたときだった。後ろから、ドンという衝撃。一気に目が覚めて後ろを見ると、白いワゴン車に追突されていた。


 そこそこの衝撃だと思ったが、車はトランクが軽く凹んだ程度。そのまま道路の端に寄せて止まった。ワゴン車も、私の車の後ろに止まり、若い女性が慌てて降りてきた。


「も、申し訳ございません・・・」


 ペコペコと平謝りしてくる女性。20代前半だろうか。ワゴン車には、高校生くらいの子供が何人か乗っているのが見える。ここから見える助手席の女子は、心配そうにこちらを見ているが、後ろの男子は面倒そうな顔をしていた。


 幸いというかどちらも怪我はなさそうだが、どうしたものだろうか。42歳。これまでそこそこ運転はしてきたが、ぶつけれられたのは初めてである。


「えっと・・・」


 とりあえず、倍くらいの年齢がの男性が、平謝りの若い女性に対して黙ったままではよくないだろうと思ったところで、大きなトラックがこちらに向かって走ってくるのが目に入った。車も私も、道路の脇の避難場所のようなところに止めていたのだが、そこに道路から逸れたトラックがまっすぐ向かってくる。


 徐々にスローになっていく視界の中で、トラックの運転手がうつむいているのが見えた。寝てるのか気を失っているのか。おそらくそれを確かめるすべはないのだろうな、と吹き飛ぶワゴンと迫りくるトラックを見ながら思ったのであった。


 ◇


「あの・・・」


 若い女性の声で目が覚める。どうやらいつの間にか寝ていたようだ。固い石の上で寝ていたのか、身体が痛い。


「ここは・・・?」


 やや寝ぼけながらも立ち上がる、そこは石の壁に石の床、高い位置から日の光が入っているが少し薄暗い、小学校の体育館くらいの広さの空間であった。


 私の周りには、先ほどワゴン車を運転していた女性、そして、どこかの高校の制服を着た男女が6人立っていた。


 少し離れた位置に、私たちを囲むようにして槍?を持った兵士たち。金属ぽい鎧に頭までバケツのような兜をかぶっている。


 黒いローブを纏ってフードをかぶった人が数人。


 そして少し台のように高くなった場所に、頭に冠をのせた初老の男性と、ティアラを付けた高校生くらいの女性。


 これは。と思う。


 異世界召喚。20年くらい前、10代20代の頃に通勤中に読んでいたネット小説にあったような展開だ。


 結婚し生活が変わり、いつの間にか読まなくなってしまったが、結構ハマっていたのでまだ覚えている。


『異世界の勇者たちよ、言葉は通じるかね?』


 黒ローブが、兵士を数人連れて近づいてきた。どうやら言葉は通じるようだ。声からすると壮年の男性っぽい。


「すみません、ここはどこでしょうか?」


 異世界の勇者とか言われて、何と返そうと考えていると、運転手の女性が高校生たちをかばうような位置に移動しながら返していた。なんとなく部活の高校生と顧問の若い先生のように見えるなと、どうでもいいことが浮かぶ。


『ふむ、言葉は通じないようだね』

「すみません。そーりー。ぺるどん。みすくーじぃ。うーん、日本語がわかる方はおられないでしょうか?」


 通じてるように見えるのだが。


『これを着けなさい』


 ローブの男性がどこからかネックレスのようなものを出して、こちらに差し出してきた。細い鎖のチェーンにサイコロのような四角い白い石が付いている。これはまさか、ネット小説に出てきた『隷属の首輪』的なものではないだろうか。召喚した異世界人を操り人形にする悪い道具だ。


ーーーーーーー

翻訳のチェーン

ーーーーーーー


 警戒しながらチェーンをじっと見ていると、ふとそんな名前が頭に浮かんだ。この展開も読んだことがる。異世界に召喚されると手に入る「鑑定」スキルというやつではないか。ということは、言葉がわかるのは「異世界言語理解」とかだろうか。


 推定顧問の女性が、差し出されたチェーンとこちらを交互に見る。高校生たちは黙って見ている。42歳。男性。中堅文具メーカーの部長職。ここは頑張らねばなるまい。


 黙ってローブの男に近づいて、チェーンの束を受け取る。8本。どうやらちゃんと人数分あるようだ。


 首にかけるのだろうか、1本取って、輪っかが小さいと思ってローブの男を見ると、額を指でコツコツと叩いている。どうやら、ヘアネックレスらしい。白いサイコロの部分がおそらく前だろう。頭に装着して、残りを推定顧問の女性に渡した。


 女性と高校生たちが着けている間に、コッソリ付けたり外したりしてみる。どうやら大丈夫らしい。


「これで言葉は通じるかね」

「あ! 言葉がわかります」

「お、すげー!」

「えー、なんで・・・」


 チェーンを装着した我々にローブの男が話しかけると、今度は女性と高校生たちにも通じたようで声が上がった。


 ◇


「・・・というわけだ」


 黒いローブ男の長い説明が終わった。


 どうやら台の上にいる冠男が、このペリル王国の王様で、横のティアラ女性が王女様らしい。ペリル王国は魔王討伐のために異世界から勇者を召喚し、この世界から見て異世界である地球で、死んだ直後の我々がここに喚ばれたのだとか。


 この世界には魔法があり、魔物や魔王がいて、職業とは別にジョブがあり、スキルがある。異世界から召喚された者は、特殊なスキルが与えられるそうで、異世界召喚は魔王を討伐できるジョブやスキルを持った者を喚ぶらしい。


「マジか!」


 高校生の内のひとり、サッカーとかやってそうな男子は、説明を聞いてちょっと嬉しそうだ。


「えええ、死んじゃったの? 帰れないの?」


 助手席に乗ってた女子はすごく悲しそう。


「ユーちゃんのせいじゃん!」


 茶髪のギャルっぽい子が推定顧問の女性に向かって言う。


 そうこうしている内に、いつのまにか王様と王女様はいなくなっており、説明してくれた黒ローブ男とは別の黒ローブが、大きな水晶のような玉を持って近づいてきていた。


「では、勇者様方、こちらに触れてください」


 説明ローブ男が言う。この展開も知ってるやつだ。ネット小説って、実際に異世界に行った人が書いてるんだろうか。


 水晶玉をじっとみると名前が浮かぶ。


ーーーーーー

鑑定の水晶玉

ーーーーーー


 近くにいた推定サッカー男子が水晶玉に触れた。


「ジョブ、勇者! 聖剣召喚、聖剣術、火魔法!」


 水晶玉を持っていた黒ローブが、水晶玉を見ながら読み上げる。そして、勇者というジョブを聞いたローブや兵士たちから歓声が上がる。


 その後、高校生たちが順に鑑定を受け、聖女、武王、聖騎士、大魔導、賢者と読み上げられ、その度に歓声が上がった。


 そして顧問女性、推定ユーちゃんの番。


「テイマー、眷属化、眷属召喚、眷属強化」


 歓声は上がらなかった。たしかに私も、これまでの勇者や聖女に比べるとテイマーは弱い気がする。


 最期に私の番。近づいてきたローブ男が持つ水晶玉に触れる。こんな状況なのにちょっとワクワクする。


「異世界人! 異世界言語、鑑定、アイテムボックス」


 おや?


「異世界人? 彼のジョブがそうなのか?」

「はい。異世界人と出ました!」

「・・・それはジョブなのか?」


 黒ローブたちが集まってヒソヒソと話しているが、それは私が聞きたい。とりあえず鑑定水晶の結果は以下のとおり。


ジョブ:勇者

スキル:聖剣召喚、聖剣術、火魔法


ジョブ:聖女

スキル:治癒魔法、聖女の祈り、光魔法


ジョブ:武王

スキル:武芸百般、闘魂、風魔法


ジョブ:聖騎士

スキル:守護、鉄壁、土魔法


ジョブ:大魔導

スキル:重力魔法、空間魔法、闇魔法


ジョブ:賢者

スキル:看破、支援魔法、水魔法


ジョブ:テイマー

スキル:眷属化、眷属召喚、眷属強化


ジョブ:異世界人

スキル:異世界言語、鑑定、アイテムボックス

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