第三話

 翌日、

「じゃ、さっそく動画取りましょっ」

という岡島さんの一言で、私は(なんの練習もなしに!)ブッコローの「声担当」としての初仕事をすることになった。その間、ブッコローはピクリとも動かない。昨日の会話は夢だったのか? 声担当としての不安を近くに居たお姉さんに小声で伝えると、笑顔で励ましてくれた。

「.....ということで、岡島さんが文房具紹介をするので、進行しながらツッコんだり合いの手入れたりしてください。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ、自信もってください!」

内容まで丁寧に説明してくれたが、自信はまったくない。過去動画、一本でも良いから見てくればよかった.....。

「では、始めます!」

お姉さんが声をかけて、とうとう動画が始まってしまった。どうしよう、とりあえず企画を説明すれば良いのか?慌てていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「有隣堂しかしらない世界ー、今回はこちら!超実用的、ガラスペンの世界ー」

んんん?ブッコロー、喋ってる?私はあわてて周りを見た。先ほどの女性が親指を挙げて微笑んでいる。これで良い、のか?

「え、お値段ってどれくらいなんですか?あ、これが。へえー、軸ってこれ木ですか?はあ」

ブッコローがどんどん喋っていくので、私は出る間もなく立ち尽くしていた。ブッコローは見事に進行を勧め、あれよあれよといううちに撮影は終わってしまった。


「茜さん、めちゃくちゃ良かったですよ」

「選ばれただけありますね、いやーさすが」

「皆さん中身が変わったの、気が付かないんじゃないですか?」

皆さん口々に褒めてくれるが、あれは私じゃないんです.....、とも言えず曖昧に頷く。どうにかこうにか乗り切ったけれど(乗り切れたのか?)、これからどうなっちゃうんだろ??

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