15:旅のお供にお役立ちアイテムを 後編

 冒険者ライオの故郷へ向かうために私達は食材を買った店主の元を訪れる。主から大金をもらったということもあり、そのお礼としてアイテムを見繕ってもらうことになった。

 少し暇な時間を過ごしていると、私はシロブタと一緒に妙なものを発見する。それはとんでもない代物だった。



『なあ、この剣ってあれだよな』

『ああ、エクスカリバーだ』

『なんで聖剣がここにあるんだ?』

『わからん。というか聖剣は聖地で封印されていたはずだが……』


 様々なナマクラがカゴの中に突っ込まれている中に、聖剣があった。なぜ、どうして、貧乏だった店主の手元にあるのかと考えたがわからないものはわからない。

 ひとまず聖剣だから意志はあるはずだ。そう考え、私は言葉をかけてみる。


『聖剣よ、私の声が聞こえるか?』

『その声は、ヴァルトラ!』


 懐かしい幼い少女の声が響く。どうやら別れてからもあまり変わりがないようだ。いや、そんなことよりもどうしてこいつがここにいるんだ?


『お前、なんでこんな所にいる? 聖地で悠々自適に暮らしていたはずだろ?』

『そ、それは、うぅっ! 話せば長くなるよ。聞いてくれる?』

『手短に頼む』


 聖剣エクスカリバーは私の要望を聞くことなく長話をし始めた。

 彼女のことを要点をつまんでまとめると、聖地で悠々自適に生活していたのだが魔王軍が侵攻し、あれよあれよとやられてしまったようだ。仲間である聖盾、聖杖、聖槍とバラバラになってしまい、聖剣である彼女はどうにか逃げ切ったものの力尽き倒れた。そんな時にたまたま通りかがった店主に拾われ、ナマクラと一緒に売り出されていたそうだ。

 なんとも言えない悲しい顛末だが、だとしてもなぜ逃げなかったのだろうか。


『うう、呪いをかけられちゃって。鞘から抜けないと力が発揮できないんだよー』

『封じの呪いか。うーむ、さすがに私でもどうにもできないな』

『しかもこの鞘、ねちっこいんだよ! いつもいつも私の弱いところを攻めてきてさ、泣いているのにさらに攻めてくるんだよっ! もうやだこいつ!』


 何の話をしているんだ、お前は?

 まあとりあえず、助けておいたほうがいいだろう。


『シロブタよ、悪いが主に頼んでくれないか?』

『えー、いいじゃんかよ。このままでー』

『頼みを聞いてくれたら美味しいハチミツの場所を教えてやる。いいだろ?』

『仕方ねーな。絶対に教えろよ!』


 私はシロブタに主を呼んできてもらうように指示する。ちょっと乗り気ではないシロブタだが、餌には勝てないのかちゃんと連れてきてくれた。

 さて、ここからが勝負だ。


「どうしたの神様? また変なものが欲しいの?」

『そんなところだ。このカゴの中にある一番派手な剣が欲しい』


「剣? 物騒なものを欲しがるじゃないの。そういえば物騒で思い出したんだけど、お父ちゃんも似たような木刀を持ってたわよ。なんでもアタシと知り合う前は木刀を持ってケンカしてたんだってッ! 隣町の学校にカチ込みに行って、弱い者いじめした不良を懲らしめてたって聞いたわよ。ホント物騒よねぇ! あ、そうそう。物騒ついでに思い出したんだけど、最近うちにある包丁の切れ味が悪くなったのよ。もうキュウリを切ろうとしたけど切るじゃなくて叩き折ってたわッ! あれもうダメね、新しいの買わないといけないわよ!」


『ならちょうどいいのがあるぞ。この剣、切れ味は抜群だからな』

「あら、そうなの? じゃあキュウリでちょっと試し切りをしてみようかしら」


 いいぞいいぞ。いい感じに主を誘導できたぞ。

 私は何気ない素振りで聖剣を見る。すると彼女はポカンとした表情を浮かべていた。まあ、初めはそうなるだろうな。


「それじゃあこの鞘を抜いてっと」


 呪いがかかった鞘が引き抜かれる。すると妙に艶めいた悲鳴が聞こえた。私は聞かなかったことにし、聖剣を見るとしてやったりという表情が目に入ってくる。

 どうやら成功したようだ。


「あら、いい切れ味ね。びっくりするほどスパンスパンって切れるじゃないッ!」

『だろう。お金を払っても欲しいだろ?』

「いいわねいいわね気に入ったわ! ちょっとお兄さん、これ欲しいんだけどいい~?」


 彼女は店主を呼び、聖剣を見せた。すると店主は「タダでいいぜ」と言ってくれる。主はお金を払おうとするが頑として店主は受け取らない。結果的に聖剣はタダで主のものとなった。

 こうして頼もしい仲間ができる。ここを出てから剣がどんな存在なのか教えよう。


「さて、買い物はこれぐらいでいいかしら」


 いい感じにアイテムがそろい、旅の準備が整った。これで移動にも困らないだろう。


「まいどあり! いい旅になることを祈ってるぜ!」

「アンタもお店、頑張りなさいよ!」


 準備を整えた私達は店主と別れを告げ、出発の支度をする。

 ふと、何気なく聖剣に目を向けてみると彼女はなぜか泣いていた。よくよく見るとその刃は先ほどの鞘に収まっており、また力を封じ込まれているようだ。


『うぅ、こいつと別れられると思ったのに……あ、ちょっ、どこ触ってるんだよ! 今近くに人がいるだろ!』

『うえへへ、僕から逃げようなんて甘いよ。大甘だよ。罰としてたくさんかわいがってあげるからね~』

『やだ、やめて、だめぇっ! だ、誰か、誰か助けてぇぇぇぇぇ!』


 私は目を逸らす。どうやら聖剣の受難はまだまだ続くようだ。

 ひとまず、頼もしい仲間ができた。これで旅は比較的安全になるだろう、たぶん。

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