8:良かれはたいがい余計なこと 後編

 どうにか冒険者登録を済ませ、初めてのクエストを私達は受けた。お得な魔物スライムを求めシロブタはどこかへ言ってしまったが、そのうち帰ってくるだろう。

 さて、私達は薬草を探すとしよう。日も暮れてきたし、早く見つけたいものだ。



「だいぶ日が暮れてきちゃったわね。神様、さっきあの子が言ってた薬草ってどこにあるの?」

『薬草ならすぐ目の前にあるぞ。だが少し傷んでいるな。もっといいものでないと品質で報酬が下げられてしまうかもしれない』

「あら、意外と面倒ね。おばちゃん手っ取り早く済ませたいんだけど」

『少し場所を移動してみようか。もしかすると求めている薬草が見つかるかもしれない』


 私がそう促すと彼女は賛同してくれたようなのか、移動し始める。赤焼けた大地を眺めつつ進むと、妙に大きな岩が現れる。ここは私のお昼寝場所であり、今の時期だと岩肌がいい感じにひんやりして気持ちいいお気に入りの場所だ。

 しかし、ここには薬草はない。私がそう教えると主はちょっと残念そうにため息を吐いた。ひとまず移動を促すが、主は大岩に腰を下ろす。

 疲れたのだろうか、と考えていると主はこんなことを口にする。


「なんだかすごいイベントね。みんなすごい仮装しているし、おばちゃんちょっとビックリしてるわ」

『主よ、急にどうした?』


「おばちゃんこう見えても繊細なのよ。突然違う世界に迷い込んだ気がするわぁ~。早く帰らないとお父ちゃん達、お腹を空かせているかもしれないし。あの人達って料理できないからね。まあ、男だからカップ麺とかでどうにかしちゃうと思うけど。あ、そうだ。カップ麺で思い出したわ! この前お父ちゃん、すっごい辛い焼きそばを食べたのよッ! もうホントにヤバかったみたいで何度もゲーゲーしてたわ。声にならない悲鳴を上げてたし、あれはホントやばいわッ。名前に最終兵器ってついてたから、伊達じゃなかったわッ!」


『そ、そうなのか。それは大変だったな……』


「後片付けも大変だったのよ! もう匂いまで辛かったしッ! いい、神様。何かに挑戦することは大切だけど、ちゃんと後のことも考えておきなさいよ。じゃないと後片付けが大変になるからね! わかった、神様ッッッ!」


『わかった、肝に銘じよう』


 なんだか心配して損をした。おそらく主は大丈夫だろう。


 私はそう考え直し、沈んでいく夕日を一緒に見つめる。そろそろ本格的に夜を迎えるため、少し用心をしよう。負けることはないが、夜になると魔物は凶暴化するからな。もし出くわしたら憑依を解いて戦うしかない。


 そう考えていると唐突に主は立ち上がる。


『どうした、主よ』

「見たことがある人がいるわ。あれ確か、ギルドってところにいた人よね?」


 彼女が指し示した方向を見てみると、そこにはあの時の男性がいた。何やら魔物と戦っている様子だが――


「あら、なんか大きいわね。王冠被っているし、ぶよぶよしているし。赤く見えるのは西日のせいかしら?」

『いや、違う。あれはヤバいぞ!』


 あれは〈極限爆裂のレッドスラキング〉じゃないか。なんであんな魔物がこんなところにいるんだ。少しの刺激で一帯が焦土と化す爆発を起こすスライムだぞ。それをわかっているのか、あの男は!


『主よ、逃げるぞ!』

「何言ってるのよ。あれ結構かわいいじゃない」

『そういう問題ではない! 早く逃げないと私達は爆発に――』

「あ、もしかしてあれがスライム? ならもっと近づいて見なきゃねッ! おばちゃん、ヤジ馬根性はすごいわよぉぉッ!」


『え? いや、そうじゃなくて。待て、私の話を聞いていたか!?』

「さあ、行くわよ神様。スライム捕まえるわよッッッ!」


 待て、待ってくれ。さすがにあいつの爆発はどうにもできない。

 ああ、主よ。ダメだ、そっちはダメだぁぁぁぁぁ!


 私はこうして主と共に極限爆裂のレッドスラキングの元へ向かい、戦う羽目になるのだった。

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