7:良かれはたいがい余計なこと 前編

 ちょっとした騒動があったものの主は無事に冒険者になることができた。しかもランクは星三つであり、始まりとしては幸先がいい。担当してくれた受付嬢はとても驚いた顔をしていたがすぐに気を取り直し、主にクエスト受注の仕方を教えてくれた。


 横で聞いていた限りではクエストボードに表示されているクエストに冒険者ライセンスをかざすだけでいいそうだ。実際に主が簡単に達成できそうな〈薬草集め〉にかざしてみると、ライセンスカードが不思議な青い光を発していた。


「このようにクエストにカードをかざすと受注は完了です。あ、ちなみにですが光の色には注意してくださいね。色によって今の自分にとっての難易度を知らせてくれますから」

「難易度? そんなの教えてくれるの?」


「はい。青はほぼ確実、黄色は五分五分、赤は難しいし危険と覚えてくださればいいです。もし自分の実力に合わないクエストでしたら光で教えてくれますので、それを目安に請け負うか考えてくださいね」

「はぁー、便利ねぇ。おばちゃん感心しちゃうわぁぁ」


 主はまじまじとライセンスカードを見つめている。彼女にとっては単なるポイントカードでしかなかったが、それが思っている以上に利便性があることに驚いているのだろう。私も情報でしか知らなかったが実際に見て驚いているのだから、主の反応は当然である。


 さて、何はともあれこれで冒険者として主は足を踏み出すこととなる。この辺りは私がよく立ち寄る拠点であり、薬草の群生地もわかる場所だ。とすれば早くクエストを終わらせて主が求めてやまないお金を手に入れるとしよう。


「ありがとねぇ。おばちゃん助かったわよ」

「どういたしまして。ではクエスト、お気をつけて行ってきてください」

「はーい。あ、帰ってきたら美味しいもの食べさせてあげるわ。楽しみにしててッ」


 主の言葉に受付嬢はちょっと驚いた顔をしたがすぐに笑顔に変え、「楽しみにしています」と言い放つ。主はその返答に満足したのか嬉しそうな笑顔を浮かべ、私とシロブタを連れ手を振りながらギルドを後にした。


 こうして私達は町のすぐ近くに存在するマラン平原へ向かうことになる。その平原を群生としている薬草を手に入れ、報酬をいただく。そしてお世話をしてくれた受付嬢に美味しいご飯を食べてもらうために全速力でそこへ移動していくのだった。


◆◆◆◆◆


 マラン平原――そこは駆け出し冒険者にはうってつけの探索場所である。お役立ちアイテムである〈ポーション〉の主材料の〈ポポン草〉と呼ばれる薬草が群生している場所として有名だ。出現する魔物もそれほど強くなく、先ほど主が教えてもらった強敵はほぼいない場所である。


 それにここはいい感じに温かな光が降り注ぐ所なので昼寝にもちょうどいい。ただ油断すると雨が降るので、油断するとびしょ濡れになってしまうことがある。


 ほどよく温かく、いい感じに日光が降り注ぎ、困らないほど雨が降るため薬草はたくさん採っても減ることはない。むしろ取り過ぎるぐらいがちょうどいい場所だ。

 太陽が傾き始めた時間帯、私達はそこに辿り着いた。早いところ見つけ出し、クエストを達成し美味しいご飯の材料を買う。そんな目的を抱き私達は活動し始める。


「これすごいわ! スマホみたいじゃないの!」


 薬草を探そうとしている私達だが、主はライセンスカードをいじることに夢中だ。全く、時間がないというのに。


 そんな私の憂慮など気にする様子を見せることなく主はライセンスカードをこちらへ向ける。一緒に様子を見ていたシロブタを彼女が注目するとパシャリという音が響く。不思議そうに眺めると彼女は我々にライセンスカードを見せてくれた。


『これはっ』

『お、おお俺が写ってやがる!』


 見せられたものは私とシロブタの姿が写った画像だ。一体どんな技術を使い、どんな方法でこんな画像を撮ったのか。そんなことを考えていると彼女はこう教えてくれた。


「これスマホね。いやー、まさかこんな便利なものをもらえるなんておばちゃん感激よ。もうヒデキなんて比じゃないぐらい感激しちゃうわぁぁ」

『すまほ、とはなんだ? どうしてこんなことができるんだ?』


「スマホはスマホよ。そうねぇ、おばちゃんも詳しくわからないけどとにかく便利な道具って思ってるわ。あ、そうそう。この前お父ちゃんが買ったスマホは高かったわよ。なんでも十万以上したって言ってたわ。ホント何考えているのかしらあの人はッ! そんなに高いの買うなら旅行に連れていって欲しいわ。あ、でもテレビが古いからそれでもよかったかしら。今度おねだりして買ってもらわないとねッ!」


『な、なあババア。そのてれびってなんだ?』


「てれびはてれびよ。あ、この前なんだけどさ、久々にあの人を見たのよ。えっとなんだっけ? アイドルなのに農作業をやっているあの人ッ! リーダーって呼ばれているんだけど名前なんだっけ? ああ、思い出せないわ。おばちゃん歳ね。若かったらど忘れなんてしなかったのに!」


 よくわからない単語が出てくる。


 なんだあいどるとは? あとてれびも気になる。く、この言葉だけではどんなものなのかわからない。いや待て、そもそも主が理解していない代物だ。そんなものをどうやって我々が理解できるだろうか。


 結論は不可能である。悔しいが、彼女からの情報だけでは到底理解できない。


『ババア、もっとわかりやすく教えてくれよ。すまほとてれび、気になるじゃねーか』

「そう言われてもねぇ。あ、そうだ。今度うちに来なさいな。そうすればどっちも見せられるわよ」

『おおおおおっ! 約束だぞババアっ。絶対に破るんじゃねーぞ!』


 よくわからないが、シロブタこと腐界の王は懐柔されたようだ。まあ、私にとって戦力の増強に繋がるためとても喜ばしいことである。


 それを考えればやはり彼女は侮れない。さすが我が主だ。


「ほんとこれスマホねぇ。なんか面白いアプリがあるし、電話もできそうだし。どの会社と契約しているのかしら? あ、冒険者ポイントだから冒険者って名前の会社かしらッ! なら納得できるわぁ。スーパーみたいなポイントサービスあるしねぇ。あら、今日はスライムってのがポイントがいいの? じゃあちょっとスライムを探してみようかしらッ」


『スライム? じゃあ俺が探してみてやるぜ。なんならついでに狩ってきてやるよ!』

「ケンカはダメよケンカは。あ、でも見つけたらおばちゃんに教えて。ちょっと見たことないから見てみたいわ」

『いいぜ。じゃあちょっと探してくらぁ!』


 シロブタは意気揚々にどこかへ駆けていく。全く、得体の知れないものに興味を持って。しかし、てれびか。一体どんなものなのか気になるな。そもそも私が憑依している電動自転車も未知の存在だ。

 彼女がいた世界は一体どんな世界なのだろうか。どうすればこのような存在を生み出せるのか。気になるものだな。

 次回に続く!

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