10.走ってくる系のオバケに向かって全力ダッシュする話【ホラーコメディ】

 久しぶりにこのシリーズの更新である。

 つまり、かなり久々の、記憶に残った夢の記録というわけだ。

 怖い、と見せかけて非常に愉快だったので自分自身未だ思い出し笑いをしている。


 本日は題の通り。


 ホラー度は低い。というか題名からしてギャグである。

 お楽しみいただければ幸いだ。



 さて、早速。


 夢の中、はたと気づいたときには、私は現実と同じ自分の家の近く、街灯が少なくて薄暗い一本道に立っていた。


 どうにもリアルな、じめっとした湿度が肌に吸い付いていた。半袖だったので、恐らく夏なのだろう。厳冬の今に何故こんな夢を見ているのやら。


 そこでふと、私は薄暗い一本道の向こうに何かが立っていることに気づく。


 灰色の混ざった、白。


 ひょろりと縦に長いそれが何であるか気づいて、夢の中の私はゾッと戦慄した。


 アスファルトを掠めるほどに長い腕、自重に負けてか、くてりと傾いだ頭。そこにはまばらに生えた黒髪がもつれて、体の揺れに合わせてゆらゆらと揺れていた。


 それは、人の姿にほど近い、灰色混じりの白い肌をした何かだった。


 多分それは、気づいたと悟らせてはいけないタイプのモノだったのだと思う。


 魚の目に似た、無感情の黒い目と、視線がかち合った。ぎょろ、というより、ころ、という形容の似合う目の動きだった。


 刹那の沈黙。

 周囲の音すら、その一瞬は静まった。


 そして直後、それはダッとこちらへむかって走り始めた。物凄い早さだった。



 あれをご存じの方は思い出してほしい。


 Bloodborneの通称:貞子。


 ご存じでない方も、このキーワードで検索してもらえればすぐに分かると思う。


 私の夢の中の「それ」の走りはまさにそれだった。



 それが、重みでぐらぐらする頭を左右に振りながら、ズダダダダッと走ってくる。


 夢の中の私は悲鳴を上げそうになり――はたと思った。



 こいつ、自分に向かって走られることは想定していないのでは――??



 何を言っているんだお前は。


 いや、夢の中の私は至極真面目だった。


 覚悟を決めるため、スーーッと息を吸い、走る構えをとる。


 相も変わらず、薄暗い一本道を、それは向こうから走ってきている。


 やるしかない。


 夢の中の私は勢いよく走り出した。あからさまにヤベェものに向かって、全力ダッシュである。


「どりゃぁぁぁッ!!!!」


 などなど、威嚇の意味で雄叫びを上げていたと記憶している。


 直後、相手の速度が緩んだ。


 奴め、私の走りに恐れをなしたな、と夢の中の私はほくそ笑みながら走っていた。もう奴への恐怖はなかった。


「どうだッ! 私の方が速いぞ!!」


 そう言って、さらに足を早める。


 いや、張り合うな。


 しかし夢の中の私は全力ダッシュを続ける。


 ぶつかる――相手の、水死体のような肌の質感がよく見えた。


 ジュッ……


 消えた。ぶつかる直前で奴は黒い煙のようになって消えた。


 多分奴も非常に戸惑ったことだろう。


 走ってくる系のおばけが今まで出会ってきたのは、悲鳴を上げて逃げ惑う人だけ。見てきたのは逃げていく背中だけだったのだろう。


 それが、向かってくる衝撃。


 迫り来る人間の正面図に、恐怖を覚えたのかもしれない。とにかく夢の中の私の作戦勝ちであった。



 そのあとも、色々夢を見ていたような気もするが思い出せない。



 このところ、仕事の繁忙期が馬鹿なんじゃないかレベルの繁忙なので、死んだように眠っているため、夢を見ないのだった。


 それにしても、よく走ろうと思ったなぁと思う。


 それから、こうして「何か」を撃退する夢が多いのが少し気になった。


 もしかしてそれらの「何か」は本当に、夢の通地を抜けて、私のところへ来ようとしているのだろうか。

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