第2話

誰も居ない倉庫。

私、レイとビャクヤは、自分たちの家でもあるアジトに帰った。

「ただいま」

そう言えば必ず「おかえり」と言葉が返ってくる。

それだけで、自身の安心感は満たされていた。

帰れば自分を迎えてくれる人間がいる。

そう思えるだけで、 安心できる。

「レイさん、ご飯食べてないでしょ」

「…食べたよ」

すぐに私にそう尋ねたアオバ。

もちろん食事などとっていない。


アオバ。 25歳の情報屋。

私の仲間の中で唯一、自ら私のもとへやってきた。

情報提供者として組織に入れてほしい。

単刀直入に言われ、大きな驚きと共に、それよりも大きな不安に襲われていた。

本当に信用して、組織の一員として扱ってもよいのだろうか。

ビャクヤやアオイ、その他のメンバーをどう引き入れたか、全く記憶にない。

その理由もわからぬまま、私は彼女らと共に過ごしてきた。

けど、突然現れた人間をすぐに仲間に引き入れることなんてできなかった。

すぐに答えを出すことができない私を見て、彼は『一度自分の仕事ぶりをみてからでも良い。 信用も、しなくていいさ』

彼は私にそう言った。

もちろん、それだけでは信用する気にはなれなくて、正直今でも信用できていない。


「はい、準備はできてるよ」

そう言ってテーブルを指さすアオバ。

「…有難う。…いただきます」

できたばかりのようにも見えるうどんを一口、口に運んだ。

できてさほど時間は経っていなかった食事は、まだ温かかった。

アツアツ、という訳でもなく、私にはちょうど良いくらいで、続けてスープも飲む。


「…ごちそうさま。有難う、アオバ」

「…口に合わなかった?」

五回ほど口に運んで中断した私に、心配そうに聞いてきた。

違う。

確かにおいしかった。

けれど…。


「ううん、ちょっと、多かったかな」

私には多すぎた。

このうどんの量が、私の胃には収まらないのだ。

ダシも濃くなくて、丁度よかった。

けれど、彼が来る前からほとんど食事をとらない生活をしていたせいか、食べられる量も次第に減ってしまった。

毎食しっかり食べなければ死ぬ訳でもないのだ。

そのせいで、食事を『無駄な動作』だと脳が認識してしまっている。

特に生活に支障がないため、気にせずに放置している。

『食べたところで』

そう思っているのだ。


「そっか、食べられない量出しちゃって、ごめんね」

律儀に謝るアオバに大丈夫だと伝え、私は睡眠をとるためにソファに座った。







***






翌日の午前4時頃。

コーヒーを飲みながら、昨夜のことを思い返し、彼女の食事はどれくらいの量が丁度良いのかを考えていた。

そうしていると、レイが目を覚ました。

「おはよう、ビャクヤ」

レイはすぐにビャクヤに挨拶をした。


彼女は、一番長くこの組織にいるらしく、レイが唯一笑顔を見せる相手だ。

レイは表情を見せない。

表情の変化はあるのだが、見せるのは常に作ったもの。

愛想笑い、それよりも作り物の、作り笑い。

以前、『なぜ笑わないのか』と尋ねると、「笑ってるよ?」と言われた。

明らかに笑顔が偽物なのに、なぜ誤魔化すのだろうか。


「おはよう、アオバ」

不意に声をかけられ、振り返れば貼り付けたような笑顔のレイさんが。

「…おはよう,レイさん」

気配も無しに,貼り付けたような笑みで現れた彼女に恐怖を感じる。

「朝食、できてるよ」

そう声をかけると、有難うとだけ言い、朝食を口にした。

焼きたてのトーストがサクッと香ばしい音を鳴らす。

美味しそうに食べていても、これが演技なのではないかと思うとゾッとする。


「有難う、美味しかったよ」

にこり。

また笑うレイさん。

なぜそのように笑うのか。

調べようにも、彼女の情報は全く出てこない。

彼女がデータを消したのか、あるいは…


『元から存在していないのか』…。


外から調べても出てこない以上、内から探り、調べるしかなさそうだ。


「レイさん、今日は…」

「今日はここで仕事。書類の整理が終わったら夜に取引」

言葉を遮られ、聞こうとしていた事を先に話すレイさん。

毎日朝に聞いていれば習慣になったのだろうか。

「…けど、その前に…」

上着を羽織って、外に出ようとする彼女に「何処へ行くのか」と尋ねると、昼食を買いに行くと言った。

「またカロリーメイトとか、飲料ゼリーで済ませようとしてるでしょ」

俺がいないと、いつもそんなものだけで食事を済ませる。

今日は食べるつもりでいるのだからまだいい。

酷いときは全く食べないのだから。

「そんなことないよ。じゃあ、行ってくるね」

「…いってらっしゃい、」

彼女を見送って、ビャクヤに話しかけた。

「ったく、あんなんじゃ身体壊すよな、ビャクヤ」

話しかけても、ビャクヤは全く反応しなかった。

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秘密の独り言 ヒイロレイ @hiiro0501rei

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