悪魔は光属性と精神攻撃に弱い

「悪魔族の弱点は対極の性質である光属性の攻撃だけど…リゼ、使える?」


「光属性のスキルは何個か持ってるよ」


「じゃあアークデーモンの方はリゼが、仮面の方は俺が相手しよう」


「私はどうしたらいい?」


「クレアさんは俺たちの援護、あと敵が隙を晒したら削り取ってください」


「分かった」


 二人に指示を出して、俺は早速相手に斬りかかる。


「無駄さ」


 斬撃が相手に届くことなく障壁に遮られる。


「お前もか…」


 そういえば召喚士は一定のレベルに達すると召喚した魔物のスキルを使えるようになるんだっけか。


上位悪魔グレーターデーモンの『魔力障壁』が破られるとは思わなかったよ。ま、それも私が彼女を注意していればなんとでもなるがね」


 俺の攻撃を気にすることなく棒立ちでクレアさんを捕捉し続けている。


「俺は完全に脅威じゃないってことかよ…」


「ああ、そうとも。私は今まさに物理攻撃に対する最強の防御手段の一つを手に入れたからね。現に君の攻撃は届いてないだろう?」


「まあ、そうだけど…!」


 俺は一旦離脱してこの壁を壊す方法を考える。


「あー、めんどくさい……アイツがあれば…」


 一応、実現可能な方法は2個ほど思いついた。


 片方は実行に時間がかかり、もう片方は実行するのに体力を著しく消耗する。


 俺は後者を選んだ。


「なあ、なんで『魔力障壁』が物理攻撃に対する最強の防御手段の一つであるか知ってるか?」


「はい?」


 相手は俺の急な質問に少し困惑する。


「ちなみに物理攻撃に対する本当に最強の防御手段は『防御力DEFを相手の攻撃力ATK筋力STRの10倍以上のステータスまで持っていく』ことだ。それで相手の物理攻撃を無効化できる」


 俺は複数のスキルを発動する準備をしながら意識を研ぎ澄ませる。相手の刹那に満たない無那の好きも見逃さず、一撃で決める。


「んで、なんで『魔力障壁』が最強防御手段のなのか。まあこれは魔力の性質上の問題なんだけど」


 俺は手から純粋な魔力を放出する。


「魔力は自分の意志である程度操作することができる。こんなふうにね」


 俺はゆっくりと、学院の上級生が下級生に対して魔法講義を行うように放出した魔力を右手から左手に移す。


「移動できる範囲は人それぞれだけど平均的な範囲は自身の中心から半径3mの円周上。『魔力障壁』はその領域内に自身の高密度の障壁を発生させて物理攻撃を防ぐ。物理攻撃は魔法攻撃に対して無力だから完全防御の完成というわけだ」


「何が言いたい?」


 ああ、やっと隙を見せたな…


「魔力障壁の展開速度は魔力の操作速度と同じ。魔力の操作速度は使用者の反応速度と同じ……ならその速度を超えればいいだけだ」


 スキル発動。


『疾風迅雷』…敏捷性60%上昇


『一写千里』…攻撃スキル発動時に敏捷性30%上昇


『快刀乱魔』…刀スキル発動時敏捷性30%上昇


『気炎万丈』剣カテゴリ装備時敏捷性20%上昇


「『抜刀一閃・瞬』」


 スキルの重ね掛けによって通常の2倍以上の速度で放たれる斬撃。


「…は?」


 相手の反応よりも速く、攻撃を終えた刀を納刀する。


 それを合図に相手の脇腹から肩にかけて斜めに血が吹き出した。


「殺しはしてないよ。流石に武王祭の復活用の腕輪の効果は切られてるだろうし」


 ただ、治癒魔法を使わない限りすぐに回復するのは難しいだろう。だがほとんどの魔力は悪魔召喚と『魔力障壁』に使われているはず。


「ユノ! ちょっとこいつどうにかして!」


 おっとそうだった。相手はこいつだけじゃなかったな。


「リゼの攻撃は? 効いてないの?」


「聞いてるけど、なんか手応えないんだよね。すぐに回復してるのかもしれない」


「なるほど……さすがに厄介だな」


「ほかに弱点ないの? これじゃ埒が明かない」


「あるにはあるけど……リゼ、どのくらい攻撃くらった?」


「え? ほとんどもらってないよ。《魔力砲マジックキャノン》の余波で少し削られたくらいかな」


「なるほどね…よし、やってみようか」


 俺は二本角の悪魔を見据える。


 学院時代、図書館の文献に興味深い記述があった。


 それは古代の独裁国家がたった一体の悪魔に滅ぼされそうになったという内容で、王族を滅ぼしたあと、召喚士に逆らい国民を滅し始めた悪魔をどうやって退けたのか、その顛末が書かれていた。


 その文献によると――






「ダサい角なんか生やしやがってよ! その角へし折ってやろうか、この魔力に頼り切ったヘタクソ魔法師が!」


「!?」


「!?」






 ――暴走した悪魔の前に立ちふさがった子供の罵声で、悪魔は弱り切ってしまった。


「魔法はヘタクソな上にメンタルまで貧弱なのか!? 救いようがないな! あっ、もう十分堕ちてたんだったな! 弱すぎて忘れてたわ!」


「えっ、それが弱点?」


「そんなものでいいのか?」


 俺が適当に精神攻撃ぼうげんを吐くと、リゼとクレアさんが目を丸くした。


「ああ、悪魔は無駄にプライドの高いやつが多いから、精神面の攻撃が効くんだ」


「いや…でも…」


 リゼが気の毒そうに悪魔を見る。


「……ギャオオ」


「情けない声で鳴きやがって! 泣いたら許されるとでも思ってんのか!?」


「……ギャオン…」


「…ユノ君、流石にやめてあげよう、なんだか…可哀そうになってきたぞ」


「え? そうですか……」


 なぜか二人が若干引いている。


「……グオオ!」


 その瞬間に最後の精神力を振り絞り、名誉挽回の《魔力――


「《術式破壊スペルブレイク》。魔法を使うために生まれてきたような悪魔族が、人間に魔法で負けてどうする」


 展開された魔法陣が崩れ去る。


「…グア?」


 悪魔は間抜けな声を出して呆けていた。精神力をすり減らしているため、サイズも小さくなり、捨てられた子犬のような見た目になっている。


「えーっと、こういうのって捕縛したほうがいいのかな?」


 リゼが恐る恐る悪魔に近づく。


「ああ、悪魔の資料は貴重なものだからな。できるだけきれいな状態で生かして国の研究機関に渡したほうがいいだろう」


「へー、そうなんですね〜」


「ッ!?」


 くるりと振り向いた俺に悪魔が身体を震わせる。


独奏ソロ、《雷鳴追走サンダードライブ》!」


「!」


 悪魔を捕獲しようと近づいた俺に、地を這う雷撃が迫る。


「独奏、《防御盾プロテクトシールド》」


俺が攻撃を受け止めると、発生源には先程倒したはずの召喚士が。


思ったより早く回復したな……外付けで他にも魔力の供給元があるのかもしれない。


「ハァ……こんなところで…」


「まだ立てるとはね。とはいえ、万策尽きたんじゃない?」


「ほざけ……僕がこんなところで終わる人間だとでも?」


「俺の目から見ると死を待つより他にない哀れな敗北者に見える」


「っ! おい悪魔! ”俺に宿れ”!」


その言葉に反応し、全速力で主のもとに向かう悪魔。


召喚者による絶対命令。それも悪魔を自身に宿すという危険極まりない命令。


魔力が底をつきてボロボロの状態からでも放てる起死回生、諸刃の一手。


「リゼ! 止めろ!」


「了解!」


リゼがチャクラムを男に向かって投げる。


「悪魔! ”攻撃を防げ”!」


「ガァウ!」


悪魔は主人の命令に従ってチャクラムを弾き落とす。


「クソッ――『抜刀一閃――」


「させない」


そう言って背後から剣が伸びてくる。


「…ヴァンズ」


「悪いが、これ以上の邪魔は計画に支障が出る」


「ヴァンズ! お前何やられてんだ! 僕を守るのが君の仕事だろうが!」


「すまない」


男がヴァンズに愚痴をこぼす


間違いない、この声はヴァンズの声だ。だが、なんで彼がこんなことを?


「ははっ! とどめを刺さなかったのは失敗だったな!」


悪魔がついに男に取り憑く。


「くそっ! 間に合わなかった!」


「ああ! 力が、力が溢れてくる!! 残念だったな! これでお前らを皆殺しに――」


男の言葉は最後まで続かなかった。


「――ガハッ……き、貴様ぁ…なんの、真似だ…」


男の背後に立ったヴァンズが、背中にナイフを突き立てていた。


「……済まないね、ユノ、リゼ。君たちを騙すような真似をして」


「ヴァンズ…そのナイフは?」


俺はヴァンズの突き立てているナイフに注目する。何らかの術式が組まれているようだが…?


「これは挿した相手の中にいる別の精神生命体を所持者に移し替えるナイフだ。つまり――」


ヴァンズの周囲に禍々しい魔力が満ち始める。


「っ……これが、悪魔の魔力か…底なしだな…!」


「っっっ!!! 貴様ァアアアア!!!」


男が激昂してヴァンズに殴りかかる。


「『魔力障壁』…スキル扱いなのかこれ。詠唱必要ないんだな」


拳は障壁に酔って阻まれる。


「召喚士ヴェルチ。お前は任務中、ユノ・アスフェルト及びリゼ・テレストラシオン、クレア・ファンディーテに攻撃を受け、死亡。数的不利と判断した俺は悪魔を憑依させ、本部に戻る。これが筋書きだ」


「そん、な……」


「じゃあな。短い間だったが、もう二度とお前と組みたくはないよ」


そう言って刀を一閃。


今度こそヴェルチと呼ばれた男は息絶えた。


「ヴァンズ! 君、今までどこにいたの!?」


リゼがそう呼びかけるが、本人は薄い笑みを浮かべたまま、こちらに近づいてこない。


「アーセナルのリーダーもいることだ。ちょうどいい、よく聞いてくれ。」


そこからヴァンズが簡潔に報告をした。


「ユノ。お前の武器が流されているところだが……闇ギルド『愚者フール』がバックについている。気をつけろ」


「フールだと…!」


クレアさんが驚愕のあまり目を見開くが俺からすると馴染みのない名前だ。


「闇ギルドの中でも超大規模な集団だ。殺人、略奪、大きいものでは国家転覆など、自分たちの目的の為ならば手段を厭わない奴らの集まり…」


「俺は組織に潜入し、準幹部級まで上り詰めた。このまま組織の中枢に食い込み、情報を探る」


「…分かった」


突然の再会だったが、アイツの正義の心は錆びていなかったようだ。


「それと……幹部は総勢21名、『大罪』、『十戒』、『四凶』だ。覚えておけ」


「分かった。ヴァンズはもう戻るのか?」


「ああ、こいつが死んだことと、任務は完全には完了しなかったことを伝えないとな」


「君とその男の任務っていうのは?」


「悪魔の召喚及びそれを宿し武王祭で虐殺をすること」


「わかったよ。気をつけてね」


「ああ。またどこか出会うだろう。またな」


そう言うとヴァンズは屋根に飛び乗り去っていった。


「ふう……とりあえず、これで終わりかな?」


「あぁ……勝利と言って差し支えないだろう」


「帰ってお風呂入りたい…」


「フールのことは後で話し合うとして…おめでとう新人2人。見事武王祭で優勝を果たしたな。今日は盛大に祝宴をあげよう」


「その前にお風呂…」


「うんそうだな。リゼはお風呂に行きたいな」


かくして戦いは終わり、新たな敵との戦いが始まる――

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武器職人で魔導士で剣士なんだけど、誰か助けてくれない? 梢 葉月 @harubiyori

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