まだまだ分からない武王祭

「……了解、でかいの一発ぶちかますぞ!」


 武王祭開始20秒、約190人の参加者が俺たちの下に殺到した。


 なお、注意を向けていた3組の内2組は開始早々にその場を離れて様子見を決め込んでいる。


「リゼ! 跳べ!」


「了解!」


 俺は5メートルほど跳び上がると、参加者で密集する地面に向けて対広域魔法を放つ。


「《疾風烈帛クロントルネード》!」


 俺を中心として放たれた暴風は周囲の参加者を蹴散らし、着地した俺達に十分なスペースを与えてくれる。


「よしリゼ、囲まれないように行こうか」


「はいよー!」


 俺は立ち上がろうとした参加者の一人を蹴り飛ばして戦場を駆け回る。


 ちなみに致命傷を受けた参加者は瞬間転移と自動治癒魔法が搭載された腕輪で助かることができる。


 ので、遠慮なくトドメをさせるというわけだ。


「はああっ!!」


 前方にいるリゼの方はと言うと、群がってきた参加者たちの急所を的確にレイピアで突いていた。


「ちょっと! なんで私の方にばっかり来るの!? ユノの方にもいけよ!」


「きっとリゼは女の子だから弱いと思われてんじゃないの?」


「はぁ!? ……絶対許さないから!」


 そう言うと、リゼは後ろを向いて突進系スキルを発動した。


 1歩踏み込み、高速で俺に突っ込んでくる。


「は!? 嘘だろ!」


 俺は半身になりレイピアを躱し、そのままリゼの手を掴んで足を軸にして回転。


 靴底が地面との摩擦で煙を上げる。


「行っけえええええー―!!」


 ちょうど1回転、つまりリゼが飛んできた方向に、思いっきりリゼを投げる。


 速度が倍加された突進は、群がる参加者たちをなぎ倒し……壁に突き刺さった。


「むーっ!!」


 俺は走って壁に刺さるリゼに追いつくと、足を掴んで引っこ抜く。


「死んじゃう! 久しぶりに調子乗ってこれやったけど死んじゃう!」


「はいはい、死なない死なない」


 ぎゃーすかと喚くリゼに治癒魔法を施し、周囲を見回す。


 群がっていた参加者は全員倒れ伏し、数組が残っているという状況だった。


「そこまでぇーっ!」


 と、ここで予選終了のアナウンスが流れる。


「リゼさんとユノさんの一方的な蹂躙でちょうど本選出場者が8組に絞られました! 今立っているペアの皆様は本戦出場決定となります! 本戦は2時間後を目安に始めさせていただきます。開始の際はアナウンスをさせていただきますので、観客の皆様も」


「……終わっちゃったね」


 リゼがつまらなさそうにそう言う


「あの人間大砲、久しぶりにやったけど効果ありすぎたかな」


「弱い人の処理任されて少し疲れただけじゃん…ユノももう魔力回復してるでしょ?」


「まあね。本戦も全力で行けるよ」


 二人がそう悠々と話している外で、












「あれ程の規模の魔法を使えば、魔力枯渇は必至。大勢を蹴散らすために先走りすぎたな」


「あの魔法が連発できるならウチにも勝てただろうけど、ちょっと油断しすぎたみたいだね」





 この後、確実に痛い目を見るであろう勘違いが二人。













「あれは……えげつないな。瞬間的な魔法構築速度、制御術、何もかも世界最高峰だ」


「あれがユノだ。リゼとはまた違った、本当の天才だよ」


 正しく彼の脅威を認識した二人がいた。


 =============


「おつかれさま、ってわけでもなさそうだな。2人なら楽勝だったか」


 本戦開始までの休憩時間、俺たちは客席にいるアーセナル応援団のところに座り、クレアさんと話していた。


「いや、あの老人にはしてやられましたよ。まさか参加者の全員を敵に回しちゃうなんて」


「あの人は見た目に反して切れ者だからな。君も気をつけるといい」


「はい」


「で、本戦へは全力で挑めそうなのか?」


「はい。リゼも俺も、さっきのは準備運動程度にしかならなかったのでそろそろ本気を出したいですね」


「そうか。見たところ、残った内の2組がかなりの実力者だが、どう思う?」


「全く問題ないよ!」


 クレアさんの質問に俺の代わりに戻ってきたリゼが答えた。


 ……たくさんの揚げ物を抱えて。


「闘技場の周りの露店で買ってきたんだ! この串ポテト、中にチーズが入ってるんだって!」


「……あまり食べすぎるなよ」


 クレアさんがそう言って揚げ物を一本受け取る。


「リゼ、太るよ?」


 俺が真顔で串を受け取りながらそう言うと、リゼの顔が引きつる。


「そ、それはほら、これから消費するし、大丈夫でしょ」


 明らかに動揺している。恐らく衝動的に買ってしまったんだろう。


「ちゃんと目を見て言いなさい」


「ああっ!」


 俺はリゼからポテトの刺さった串を取り上げ、空間魔法で収納する。


「むー!」


「おかわりはまずそのポテトを食べてから! ほら! さっさと食べないとおかわりポテトにありつけないぞ!」


「ユノのけちんぼー!」


「2人は本当に仲がいいな」


 リゼが鼻息荒くポテトを討伐し始めるのを横目に、クレアさんに答える。


「そりゃあ、伊達に3年間もペア組んでませんからね」


「わふぁひぃふぉユノの…」


「食べ終えてから喋りな?」


 リゼが食べながら何かを言おうとしてたのでとりあえず食べる方を優先させる。


「…んぐっ、私とユノの絆を舐めてもらっちゃ困るよクレア。バレンタインの日には2人で群がる生徒をさっきみたいに撃退してたんだから」


「君が平和にご飯食べてた俺のことを巻き込んだだけだよね? 俺あの後男子生徒たちからすごいヘイト向けられたからね?」


「ちょっと何言ってるのかわからない」


「オメェ……他人事だと思って…!」


「だってユノもラブレターとかたくさんもらってたんじゃないの?」


「は? ないない。机の中にもロッカーにもそんなの入ってなかったよ」


「え、嘘ぉ、友達がユノにチョコや手紙やらを渡そうと必死になってたよ?」


「は? じゃあ誰が俺が食べるはずだったチョコを持っていったってんだ?」


 俺がそう言うとリゼは少し考え込み…


「他の男子が全部持ってったんじゃない? ユノの人気に嫉妬している男子多かったし」


「ふざけるなぁ! リゼ以外にチョコ貰えなかったぞそいつらのせいで!」


 俺は在りし日のボッチライフに思いを馳せ、怒りを吐き出す。


「えぇ、私が上げてたからいいじゃん」


「たしかに、たしかにリゼは美人で可愛いし愛嬌もあって素晴らしい女性だと俺は思う。そんな人からチョコを貰えたこともすっごく嬉しい。しかし! もうちょっと女子にちやほやされたかった!」


「う、うわあ……喜んだらいいのかわかんないな…」


 隣でリゼが引き気味にそうつぶやく。


「私にはよくわからないが……まあ、やる気が出てるみたいでいいんじゃないか?」


 クレアさんがそう誤解する。


「ふう……叫んだら落ち着いたわ」


「…なんか可哀想だから私の残りのポテトあげるよ」


「お、サンキュ」


 俺はリゼの食べかけの串ポテトの残り少ない欠片を口に放り込み、咀嚼した。


「さて、本戦もこの調子で勝つか。もし俺と同期の参加者がいたら……そうだな全力で潰そうそうしよう」


「やる気じゃなく殺る気が溢れてきてる…!?」

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